第14話「見せしめの五分」
県大会準決勝をかけた一戦。相手は白峰中央――県内屈指の強豪であり、フィジカルと技術を兼ね備えたチームだ。アップの段階から、鋭い掛け声と豪快なシュートで観客の視線をさらっている。
「……デカいし、速そう」心愛がつぶやく。
梨花はニヤリと笑った。「潰しがいがあんじゃねぇか」
控室。竜司はゆっくりとタバコを取り出し、火をつけずに口にくわえた。ホワイトボードに描かれたフィールドを、ペンでコンッと叩く。
「抗争にゃな、先にぶん殴った方が主導権握るんだ!最初の五分……そこが勝負だ」
部員たちは息を飲む。
「白峰のエース、背番号10を黙らせろ。最初に派手にカチコミかませば、後はこっちの流れになる」
舞が補足する。「要するに、序盤から前線プレスを全員でかけるってこと。最初の五分で仕留めるんだよ」
紗季は静かにうなずいた。「了解。最初からアクセル全開で行く」
――――
キックオフの笛が鳴る。
開始直後、白峰はエースにボールを預けようとする。しかし――。
「今だ、カチコミだ!」舞の声が飛ぶ。
紗季と梨花が前線から猛然と寄せ、相手CBをサンド。逃げ場を失った瞬間、梨花が体ごとぶつかり、ボールを奪取。
「いけっ、心愛!」
こぼれ球を拾った心愛が一気にゴール前へ。お調子者らしい無鉄砲な突進――だがその勢いに相手DFは反応が遅れる。
右足一閃、ボールはゴール左隅に突き刺さった。開始2分での先制点!
観客席がどよめき、ベンチの竜司は拳を振り上げる。
「これだ! 見せしめは最初が一番効くんだよ!」
――――
白峰は動揺しながらも反撃を試みる。だが北野の圧は衰えない。前線からのプレス、舞の読み、梨花の体の強さ。
「もっと寄せて! 潰せ!」舞が叫び、全員が声を出す。
20分、再びチャンス。舞が中盤で奪ったボールを、左へ展開。紗季がスピードに乗り、カットインから強烈なミドル。ゴール右隅に突き刺さり、2-0!
スタンドは割れんばかりの歓声。白峰のエースは苛立ち、味方に怒鳴り散らす。完全に北野の狙い通りだ。
――――
後半。体力を消耗した北野は守備に重点を置く。白峰の高さとパワーに押され、ついに1点を返される。
「くそっ、まだ走れ!」梨花が仲間を鼓舞する。
「声出して! あと10分!」舞が必死に叫ぶ。
ゴール前では美咲が身を投げ出し、シュートをブロック。紗季も自陣深くまで戻って守備に加わる。
そして――タイムアップの笛。スコアは2-1、北野の勝利!
――――
歓喜に沸く部員たちを前に、竜司はタバコをくわえ直し、にやりと笑った。
「見せしめってのはな、最初が一番効くんや。最初に殴られた奴は、一生その影に怯む。今日の勝ちは、それや」
心愛が無邪気に笑う。「じゃあ次も、最初から全員でカチコミっすね!」
舞は笑いながら首を振る。「いや、次はもっと別の策を使うよ。相手を揺さぶる駆け引きが必要だから」
竜司の眼光が鋭く光る。
「次の抗争は裏社会の駆け引きだ。油断すんなよ」
北野高校の任侠サッカーは、さらに深みを増していく――。




