第13話「盃を交わす者」
県大会準々決勝。相手は紫峰学院――組織力で鳴らすチームだ。全員が声を出し、まるで軍隊のような統率で動くと評判の強豪。北野の選手たちも、その規律あるアップの様子を見て思わず息を呑んだ。
「なんか……ピシッとしてて怖いね」心愛が呟く。
梨花は不敵に笑う。「上等だ。こっちは任侠一家だろ」
控室。竜司は珍しく椅子に深く腰を下ろし、タバコをくわえたまま、ホワイトボードにも触れずに部員たちを睨み渡す。
「今日のシマ仕切りは――舞、お前や」
舞は驚いた表情を浮かべた。「え、監督が指示出さないんですか?」
「抗争にゃ、現場で動ける若頭が必要なんだ。親分がいちいち口出ししとったら、組は弱ぇまんまよ」
竜司の眼光が舞を射抜く。「お前が盃を交わした兄弟分や。現場を回せ」
舞は緊張で喉が渇くのを感じたが、深く頷いた。「……分かりました」
――――
キックオフ直後から紫峰の猛プレスが襲いかかる。前線からの声が響く。
「寄せろ! 間詰めろ!」
一糸乱れぬ連動で北野のパスコースが潰され、舞は後ろへ下げざるを得ない。
「くっ……!」美咲が大声を張り上げる。「落ち着け! 慌てないで!」
だが紫峰の圧は凄まじい。梨花がサイドでボールを奪われ、あわや失点という場面もあった。
ベンチの竜司は黙ったまま、腕を組んで睨み続ける。舞は気づいた。――あえて何も言わない。自分に仕切らせるためだ。
「……そういうことね」
舞は心の中でつぶやき、ピッチに響く声を張り上げた。
「梨花、一列前に出て! 紗季、左に流れて受けて!」
梨花が「了解だ、若頭!」と叫び、前に飛び出す。これで相手のプレスの基準が一つずれた。梨花が前線で相手を引き付け、その背後にスペースが生まれる。
舞はすかさずパスを差し込み、紗季がトラップ。体を開いてシュート体勢――惜しくもバーの上を越えたが、流れが変わった瞬間だった。
――――
後半。紫峰の声はまだ響くが、動きにわずかな遅れが見え始める。舞はその変化を見逃さなかった。
「心愛! もっと高い位置で構えて!」
「ラジャーっす!」
紫峰のビルドアップ。中盤でボールを回した瞬間、舞が読み切ってインターセプト。そのまま梨花へ縦パス。梨花が前を向いて強引に突破し、ゴール前で紗季へとスルーパスを送る。
紗季が一瞬の加速で抜け出し、冷静に右隅へシュート。――ゴールネットが揺れる! 1-0!
歓声が爆発する。舞は胸を張り、仲間に叫んだ。
「このまま集中! 声出して守るよ!」
――――
残り時間は紫峰の猛攻。だが北野は全員で声を掛け合い、必死にスペースを潰す。
「右、任せろ!」「後ろカバーする!」
まるで竜司の言葉をなぞるように、仲間が一つの“組”として動く。
そして試合終了の笛。1-0、北野の勝利。
――――
歓喜に沸く部員たちの中、舞は疲労で膝に手をついた。その肩に竜司の大きな手が置かれる。
「よぉやったな、若頭」
舞は顔を上げる。竜司は珍しく、火をつけたタバコをふかしながら笑った。
「キャプテンっちゅうのはな、盃交わした兄弟分よ。現場で仕切れるヤツが一番強ぇ。今日のお前は立派な親分代理やった」
舞の胸に熱いものが込み上げる。
「……ありがとうございます。次も、私が仕切ります」
竜司は満足そうに頷いた。
「上等や。北野一家の抗争は、まだ終わらんぞ」
――――
こうして北野高校女子サッカー部は、任侠の絆を強めながらベスト4へと駒を進めた。




