第22話:すれ違いの限界と、小さな帰宅
――七海が帰ると言ってから、3日。
帰ってこなかった。
◆
4日目。
メッセージは来る。
《今日も無理》
《ごめん》
それだけ。
◆
大学。
講義中。
黒板の文字を見ながら――
(何やってんだろ、俺)
◆
隣では、友人たちが普通に笑っている。
「なぁ真中、今週の課題やった?」
「サークル来いよ、楽しいぞ」
全部、普通の大学生活。
◆
でも――
どこか空いている。
◆
帰宅。
部屋は、暗いまま。
何も変わらない。
◆
ソファに座る。
テレビをつける。
そこに映っていたのは――
七海だった。
◆
笑っている。
完璧な笑顔。
プロの顔。
◆
(……無理してんだろ)
◆
リモコンを置く。
そのまま、天井を見る。
◆
気づけば、スマホを握っていた。
メッセージ画面。
《無理すんな》
打って、消す。
◆
(余計なこと言うな)
◆
結局、何も送れなかった。
◆
5日目。
6日目。
気づけば――1週間。
◆
慣れていく自分がいた。
(これが普通になるのか……)
◆
それが、一番怖かった。
◆
そして――
7日目の夜。
ガチャ。
◆
玄関の音。
◆
「……ただいま」
◆
その一言で、全部が戻る。
◆
俺はすぐに立ち上がった。
「おかえり」
◆
七海は、ドアにもたれたまま動かない。
限界だった。
◆
スーツケースもそのまま。
◆
俺は近づいて――
そのまま、抱きしめた。
◆
七海は、何も言わなかった。
でも――
ぎゅっと、強くしがみついてきた。
◆
「……遅くなった」
◆
「いいよ」
◆
「ほんとは、よくないけど」
◆
「だろうね」
◆
小さく笑う。
でも、その声は震えていた。
◆
「ねぇ」
◆
「ん?」
◆
「ちょっとだけ、このままでいい?」
◆
「好きなだけ」
◆
それだけでよかった。
◆
しばらくして。
七海は、ぽつりと呟く。
「……会えないの、慣れたくない」
◆
その一言。
◆
俺は、少しだけ強く抱きしめた。
◆
「慣れなくていい」
◆
「むしろ慣れたら終わりだろ」
◆
七海が、少しだけ笑った。
◆
「それもそうか」
◆
そして――
◆
「パフェ」
◆
急に話変わった。
◆
「覚えてる?」
◆
「覚えてるよ」
◆
「今から行く?」
◆
「行く」
◆
深夜の外出。
誰もいないカフェ。
向かい合って、甘いものを食べるだけ。
◆
それだけなのに――
◆
ものすごく満たされていた。
◆
帰り道。
七海が、小さく言う。
「ねぇ、悠翔」
◆
「ん?」
◆
「やっぱさ」
◆
「この生活、やめない」
◆
その目は、真剣だった。
◆
「どれだけ忙しくても」
◆
「どれだけ会えなくても」
◆
「――続ける」
◆
俺は、少しだけ笑った。
◆
「最初からそのつもりだろ」
◆
「うん」
◆
七海は、少しだけ照れながら――
◆
手を伸ばしてきた。
◆
恋人繋ぎ。
◆
夜の街。
誰にも見えない場所で。
◆
それでも、確かに繋がっていた。
――つづく
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