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第22話:すれ違いの限界と、小さな帰宅


 


――七海が帰ると言ってから、3日。


 


 帰ってこなかった。


 


 



 


 4日目。


 


 メッセージは来る。


 


 


《今日も無理》


《ごめん》


 


 


 それだけ。


 


 



 


 大学。


 


 講義中。


 


 


 黒板の文字を見ながら――


 


 


(何やってんだろ、俺)


 


 



 


 隣では、友人たちが普通に笑っている。


 


 


「なぁ真中、今週の課題やった?」


「サークル来いよ、楽しいぞ」


 


 


 全部、普通の大学生活。


 


 



 


 でも――


 


 


 どこか空いている。


 


 



 


 帰宅。


 


 


 部屋は、暗いまま。


 


 


 何も変わらない。


 


 



 


 ソファに座る。


 


 


 テレビをつける。


 


 


 そこに映っていたのは――


 


 


 七海だった。


 


 



 


 笑っている。


 


 


 完璧な笑顔。


 


 


 プロの顔。


 


 



 


(……無理してんだろ)


 


 



 


 リモコンを置く。


 


 


 そのまま、天井を見る。


 


 



 


 気づけば、スマホを握っていた。


 


 


 メッセージ画面。


 


 


《無理すんな》


 


 


 打って、消す。


 


 



 


(余計なこと言うな)


 


 



 


 結局、何も送れなかった。


 


 



 


 5日目。


 


 


 6日目。


 


 


 気づけば――1週間。


 


 



 


 慣れていく自分がいた。


 


 


(これが普通になるのか……)


 


 



 


 それが、一番怖かった。


 


 



 


 そして――


 


 


 7日目の夜。


 


 


 ガチャ。


 


 



 


 玄関の音。


 


 



 


「……ただいま」


 


 



 


 その一言で、全部が戻る。


 


 



 


 俺はすぐに立ち上がった。


 


 


「おかえり」


 


 



 


 七海は、ドアにもたれたまま動かない。


 


 


 限界だった。


 


 



 


 スーツケースもそのまま。


 


 



 


 俺は近づいて――


 


 


 そのまま、抱きしめた。


 


 



 


 七海は、何も言わなかった。


 


 


 でも――


 


 


 ぎゅっと、強くしがみついてきた。


 


 



 


「……遅くなった」


 


 



 


「いいよ」


 


 



 


「ほんとは、よくないけど」


 


 



 


「だろうね」


 


 



 


 小さく笑う。


 


 


 でも、その声は震えていた。


 


 



 


「ねぇ」


 


 



 


「ん?」


 


 



 


「ちょっとだけ、このままでいい?」


 


 



 


「好きなだけ」


 


 



 


 それだけでよかった。


 


 



 


 しばらくして。


 


 


 七海は、ぽつりと呟く。


 


 


「……会えないの、慣れたくない」


 


 



 


 その一言。


 


 



 


 俺は、少しだけ強く抱きしめた。


 


 



 


「慣れなくていい」


 


 



 


「むしろ慣れたら終わりだろ」


 


 



 


 七海が、少しだけ笑った。


 


 



 


「それもそうか」


 


 



 


 そして――


 


 



 


「パフェ」


 


 



 


 急に話変わった。


 


 



 


「覚えてる?」


 


 



 


「覚えてるよ」


 


 



 


「今から行く?」


 


 



 


「行く」


 


 



 


 深夜の外出。


 


 


 誰もいないカフェ。


 


 


 向かい合って、甘いものを食べるだけ。


 


 



 


 それだけなのに――


 


 



 


 ものすごく満たされていた。


 


 



 


 帰り道。


 


 


 七海が、小さく言う。


 


 


「ねぇ、悠翔」


 


 



 


「ん?」


 


 



 


「やっぱさ」


 


 



 


「この生活、やめない」


 


 



 


 その目は、真剣だった。


 


 



 


「どれだけ忙しくても」


 


 



 


「どれだけ会えなくても」


 


 



 


「――続ける」


 


 



 


 俺は、少しだけ笑った。


 


 



 


「最初からそのつもりだろ」


 


 



 


「うん」


 


 



 


 七海は、少しだけ照れながら――


 


 



 


 手を伸ばしてきた。


 


 



 


 恋人繋ぎ。


 


 



 


 夜の街。


 


 


 誰にも見えない場所で。


 


 



 


 それでも、確かに繋がっていた。


 


 


――つづく



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