第21話:遠くなる距離、それでも繋がる日常
――春から半年。
大学生活は完全に日常になっていた。
講義、レポート、バイト、課題提出。
気づけば一日が終わる。
◆
「真中、今日飲み行く?」
陸が気軽に声をかけてくる。
「悪い、今日は帰る」
「また“帰る”かよ」
奏がニヤつく。
「彼女でもいんのか?」
「……まぁな」
曖昧に笑って誤魔化す。
◆
本当は――“彼女”じゃない。
妻だ。
でも、それを言うことはできない。
◆
夜。
マンション。
電気のついていない部屋。
静かすぎる。
◆
《今日も遅くなる》
七海からの短いメッセージ。
それだけで状況は分かる。
収録。リハーサル。撮影。
◆
俺はソファに座ってスマホを見つめる。
既読はついている。
でも返信はない。
◆
(忙しいんだろうな)
それが普通になっていく。
◆
深夜2時。
玄関の鍵が回る音。
「ただいま……」
疲れ切った声。
◆
七海が、スーツケースを引きずりながら入ってくる。
メイクは薄く崩れている。
それでも、どこか綺麗だった。
◆
「おかえり」
「うん……」
そのままソファに倒れ込む。
◆
「今日さ、マジでヤバかった」
「何が?」
「朝から生放送3本」
「ブラック企業かよ」
「アイドルだからね」
軽く笑う。
◆
でも、その笑いは少しだけ弱い。
◆
俺は毛布をかける。
「飯は?」
「いらない……」
即答。
◆
しばらく沈黙。
七海は目を閉じたまま言う。
「ねぇ、悠翔」
「ん?」
「ちゃんと大学行ってる?」
「行ってるって」
「ふーん」
◆
それだけで終わる会話。
でも、それが“日常”だった。
◆
翌朝。
七海はもういない。
置き手紙。
《次は3日後に帰る》
それだけ。
◆
大学。
講義室。
窓の外を見ながら思う。
(3日か……長いな)
◆
その夜。
またメッセージが届く。
《今から移動。少しだけ話せる》
通話ボタンを押す。
「もしもし」
『……悠翔』
雑音混じりの声。
「生きてるか?」
『生きてる』
即答。
◆
短い沈黙。
『ねぇ』
「ん?」
『帰ったらさ』
『パフェ食べたい』
「急に?」
『うん』
『甘いやつ』
◆
それだけで分かる。
疲れてる。
◆
「了解」
『……あと』
「ん?」
『ぎゅーも』
声が小さい。
◆
「わかった」
『じゃあね』
「おう」
通話終了。
◆
画面が暗くなる。
でも、心は少しだけ温かい。
◆
会えない時間は増えた。
話す時間は減った。
それでも――
繋がっている感覚だけは、消えなかった。
――つづく
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