第20話:秘密のまま、それでも――二人だけの未来
少しずつ… 文が少なくなってきます。
――春から数ヶ月。
大学生活は想像以上に忙しかった。
講義、課題、サークル勧誘。
気づけば一日が終わる。
◆
そして七海は――
Seven☆Daysとして、さらに遠い存在になっていった。
テレビ、海外撮影、ライブツアー。
◆
会える時間は、ほとんどない。
それでも。
◆
《今夜、帰れる》
そんな短いメッセージが届くだけで、十分だった。
◆
夜。
静かなマンションの玄関。
「ただいま」
その声だけでわかる。
「おかえり」
七海は、少し疲れた顔で立っていた。
◆
「今日さ、海外の収録だったんだけど」
「うん」
「マジで眠かった」
いつものように塩対応。
でも、ソファに座った瞬間――
ぽすっ、と俺の肩にもたれた。
◆
「……ちょっとだけ」
それだけ。
それが全部だった。
◆
テレビでは、七海が映っている。
ステージの上の“アイドル・NANA”。
でも今ここにいるのは――
ただの、眠そうな妻だった。
◆
「なぁ、悠翔」
「ん?」
「ちゃんと大学行ってる?」
「行ってるわ」
「ふーん」
それだけ言って、目を閉じる。
◆
静かすぎる夜。
でも、不思議と満たされていた。
◆
翌朝。
「じゃ、行ってくる」
「ん」
それだけ。
キスもない。
見送りもない。
学校では“他人”。
世界には“秘密”。
◆
でも――
玄関のドアが閉まる瞬間。
「……いってらっしゃい」
小さく、確かに聞こえた。
◆
それだけで十分だった。
◆
それから、数年。
世間では、七海の名前はさらに大きくなっていった。
伝説のアイドル。
国民的存在。
でも、誰も知らない。
彼女が夜に帰る場所を。
◆
そして俺も――
普通の大学生から、少しずつ変わっていった。
それでも。
◆
変わらないものが一つだけあった。
◆
深夜。
静かな部屋。
扉が開く。
「ただいま」
「おかえり」
それだけの関係。
でも、それ以上だった。
◆
誰にも言えない。
誰にも見えない。
それでも確かに――
そこには“夫婦”がいた。
◆
七海は、俺の隣に座りながら言う。
「ねぇ、悠翔」
「ん?」
「もしさ」
「うん」
「いつかバレたら、どうする?」
◆
俺は少しだけ笑って――
「その時考える」
◆
七海も笑った。
「適当」
◆
でも、その笑顔は安心していた。
◆
世界は知らない。
誰も知らない。
でも――
この関係だけは、確かに続いている。
◆
秘密のまま。
それでも、幸せなまま。
――完――
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