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20/22

第19話:それぞれの道へ――武道館に響く「おめでとう」


 


――春。


 


 桜は散りかけていたが、空は妙に澄んでいた。


 


 



 


 東京大学・入学式。


 


 日本武道館。


 


 巨大な会場に、新一年生たちが緊張と期待を抱えて座っている。


 


「すげぇ……ここで入学式やるのかよ」


「やば、レベル違いすぎる」


 


 そんなざわめきの中――


 


 俺は席に座っていた。


 


 真中悠翔。新一年生。


 


 ようやくここまで来た。


 


 



 


(七海は今ごろ、ステージか)


 


 


 Seven☆Daysとしての活動はすでに本格化していた。


 海外公演、音楽番組、ライブツアー。


 


 俺とはまったく別の世界。


 


 



 


 でも――


 


 


 ポケットの中のスマホが震えた。


 


 


《ちゃんと前見てろよ》


 


 


 短いメッセージ。


 


 七海からだった。


 


 



 


「……何言ってんだあいつ」


 


 


 そう呟いた瞬間。


 


 


 ――会場の照明が変わった。


 


 



 


「新入生の皆さんへ」


 


 


 司会の声が響く。


 


 


「本日は特別ゲストをお呼びしています」


 


 



 


 ざわっ。


 


 


 会場が一気にざわめく。


 


 


「誰だよ……?」


「え、芸能人?」


 


 



 


 そして――


 


 


「Seven☆Daysより、如月七海さんです!」


 


 



 


 ――一瞬で、空気が変わった。


 


 


「えっ……?」


 


「マジで!? 本物!?」


 


 



 


 ステージに現れたのは――


 


 


 七海だった。


 


 


 黒のフォーマル衣装。

 堂々とした立ち姿。


 


 学校で見ていた“氷の女王”でもなく、

 家で見ていた“甘えた妻”でもない。


 


 


 完全な“トップアイドル”。


 


 



 


 マイクを持つ。


 


 


「新入生の皆さん、入学おめでとうございます」


 


 



 


 静かで、強い声。


 


 


「ここに来た理由は、一つだけです」


 


 



 


 会場が息をのむ。


 


 



 


「努力すれば、どこまでも行けるってことを伝えたくて」


 


 



 


 その言葉は、まっすぐだった。


 


 



 


「夢は、誰かに決められるものじゃない」


 


 



 


「自分で選んで、自分で掴むものです」


 


 



 


 そして――


 


 



 


 七海は、一瞬だけ目線を動かした。


 


 


 会場の中。


 


 俺を探している。


 


 



 


(……気づくなよ、周り)


 


 


 心臓が跳ねる。


 


 



 


 そして――


 


 


 目が合った。


 


 



 


 一瞬。


 


 本当に一瞬だけ。


 


 



 


 七海は、小さく頷いた。


 


 


 ――大丈夫。


 


 


 そう言っている顔だった。


 


 



 


 そして、マイクを下ろす。


 


 


「最後に一言だけ」


 


 



 


 静寂。


 


 



 


「おめでとう」


 


 



 


 たったそれだけ。


 


 



 


 でも、その言葉は――


 


 


 確かに俺に向けられていた。


 


 



 


 七海は、何事もなかったように一礼し――


 


 


 舞台を降りていった。


 


 



 


 会場は大混乱だった。


 


「今の本物だよな!?」


「やばすぎる……」


「なんで東大来てんの!?」


 


 



 


 でも誰も気づかない。


 


 


 その“特別な一言”の意味を。


 


 



 


 式が終わった後。


 


 


 人混みの中で。


 


 


「悠翔」


 


 


 背後から声がした。


 


 



 


 振り向くと――


 


 


 七海が立っていた。


 


 


 さっきまでステージにいた人とは思えないほど、自然な表情。


 


 



 


「サプライズ、どうだった?」


 


 



 


「いや、普通に心臓止まるかと思った」


 


 



 


 七海は、くすっと笑う。


 


 


「よかった」


 


 



 


 そして――


 


 


「入学、おめでとう」


 


 



 


 さっきと同じ言葉。


 


 でも今度は、目の前で。


 


 



 


「忙しいんじゃないのかよ」


 


 



 


「忙しいよ」


 


 



 


 即答。


 


 



 


「でも、これだけは言いたかったから」


 


 



 


 七海は少しだけ視線を外して――


 


 


「じゃあね」


 


 



 


 あっさりした別れ。


 


 でも、その一歩が離れる直前――


 


 



 


 小さく呟いた。


 


 


「ちゃんと、見ててね」


 


 



 


 そして、去っていった。


 


 



 


 周囲はまだ騒がしい。


 


 誰もその意味を知らない。


 


 



 


 でも俺だけは、わかっていた。


 


 


 ――これからも、この関係は続く。


 


 誰にも言えないまま。


 


 でも、確かに。


 


 


――つづく




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