第17話:文化祭のキス処刑――氷の女王と平凡男子、最後まで秘密のまま
――文化祭当日。
「次の組、ステージに上がってください!」
体育館に響く司会の声。
そこには異様な空気があった。
壇上には、ライト。
カメラ。
そして――“ペア発表システム”。
◆
「これ、何の企画だよ……」
俺は思わず呟いた。
◆
陸が苦笑する。
「カップル当てゲームらしいぞ。
当たったペアは公開キスっていう地獄仕様」
◆
「誰が得するんだそれ……」
◆
壇上では、次々とペアが呼ばれていた。
「3組目! 佐伯陸&女子生徒!」
「きゃー!」
軽いキス。
会場が盛り上がる。
◆
「5組目! 橘美月&男子生徒!」
「……やらない」
「えー!?」
美月は冷たくスルー。
◆
そして――
◆
「最終組! 如月七海&真中悠翔!」
◆
――体育館が一瞬で静まった。
◆
「え……?」
「今、如月って言った?」
「氷の女王と……あいつ?」
◆
視線が一斉に俺に突き刺さる。
◆
終わった。
◆
完全に終わった。
◆
七海は、隣で小さく息を吐いた。
「……行くよ」
◆
その声は、いつもの“学校モード”。
◆
氷の女王。
完璧な仮面。
◆
でも――
◆
俺だけは知っている。
◆
(こいつ、家では甘々なんだよな……)
◆
ステージに上がる。
照明が眩しい。
◆
「では……キス、お願いします!」
◆
司会の声。
◆
体育館がざわつく。
◆
「マジでやるのかよ……」
「氷の女王とキスとか伝説だろ」
「羨ましすぎる死ぬ」
◆
七海は、俺の方を見た。
◆
一瞬だけ、氷が溶ける。
◆
小さく、口を動かした。
◆
「……これで、いいでしょ」
◆
でも、その顔は――
◆
隠しきれないほど、嬉しそうだった。
◆
(おい、それズルいだろ)
◆
次の瞬間。
◆
七海が、一歩近づく。
◆
そして――
◆
軽く、俺の唇に触れた。
◆
一瞬。
ほんの一瞬。
◆
でも、確かに。
◆
体育館が爆発した。
◆
「うわああああああ!!」
「マジかよ!!」
「氷の女王がキスした!!」
「死んだ!!俺の青春終わった!!」
◆
男子、崩れ落ちる。
膝から崩壊。
地面に手をつく者続出。
◆
だが――
◆
誰も気づいていない。
◆
そのキスが“演技”でも“恋愛”でもなく――
◆
“夫婦のもの”だということに。
◆
◆
「はい、写真撮影いきまーす!」
◆
地獄は続く。
◆
俺と七海は、並ばされた。
◆
距離が近い。
近すぎる。
◆
(やばい、肩触れそう)
◆
でも触れたらバレる。
◆
その時――
◆
七海が、小声で言った。
◆
「さっさと握って」
◆
……命令口調。
でも、めちゃくちゃ小さい声。
◆
俺は一瞬戸惑って――
◆
手を握った。
◆
恋人繋ぎ。
◆
体育館の誰にも気づかれないように。
◆
七海は、少しだけ口元を緩めた。
◆
(バレるなよ)
◆
(でも、離すな)
◆
そんな矛盾した感情が、指先から伝わる。
◆
カシャ。
◆
写真が撮られた。
◆
その瞬間――
◆
世界は、何も知らないまま。
◆
俺たちの“秘密”は守られた。
◆
でも――
◆
確かに、距離はゼロになっていた。
――つづく
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