第15話:見られた夜――気づいた視線と、崩れかける秘密
――修学旅行、二日目の朝。
最悪の目覚めだった。
「……やばい」
目を開けた瞬間、昨夜のことが一気にフラッシュバックする。
七海と、裏庭で会ったこと。
抱きしめたこと。
あの距離、あの空気。
◆
(……誰にも見られてないよな)
◆
そう思った瞬間。
「おはよ、悠翔」
背筋が、凍った。
◆
振り向くと、そこにいたのは――
橘美月。
◆
いつも通りの、冷静な表情。
でも、その目は、確実に“何かを知っている”色をしていた。
◆
「……朝から何の用だよ」
できるだけ平静を装う。
◆
「別に。ただの確認」
◆
美月は、ゆっくりと俺に近づいた。
◆
「昨日の夜、どこ行ってた?」
◆
――来た。
◆
「トイレ」
◆
「へぇ」
◆
全く信じてない顔。
◆
「じゃあさ」
◆
「なんで如月七海と一緒にいたの?」
◆
心臓が、止まりかけた。
◆
(見られてた……!?)
◆
頭の中が、一瞬で真っ白になる。
◆
その時――
「……何してんの?」
◆
助け舟のように現れたのは、凛花だった。
◆
「朝から男女で密会?
美月先輩、やるじゃん♡」
◆
空気を、強引にずらす。
◆
美月は、ちらっと凛花を見る。
◆
「……あんた、知ってるの?」
◆
一瞬だけ、空気が張り詰めた。
◆
凛花は、にこっと笑う。
◆
「何のこと?」
◆
完璧な“とぼけ”。
◆
でも、その目は――
◆
“全部わかってる”目だった。
◆
美月は、数秒間だけ沈黙してから――
◆
「……まぁいい」
◆
それ以上は、踏み込んでこなかった。
◆
でも――
◆
「そのうち、全部わかる」
◆
そう言い残して、去っていった。
◆
残された俺と凛花。
◆
「……助かった」
◆
「ほんとにね♡」
◆
凛花は、くすっと笑う。
◆
「でもさ」
◆
「もう限界近いよ?」
◆
その言葉は、軽くなかった。
◆
「お姉ちゃん、かなり我慢してるし」
◆
「悠翔先輩も、でしょ?」
◆
図星だった。
◆
学校でも。
修学旅行でも。
◆
ずっと、“他人のふり”。
◆
それが、どれだけキツいか。
◆
◆
その日の昼。
◆
班行動。
◆
俺は、七海、美月、凛花と同じ班だった。
◆
(なんでこのメンツなんだよ……)
◆
地獄すぎる。
◆
「ねぇ、ここ写真撮ろ」
◆
七海が、観光地でスマホを構える。
◆
「悠翔、ちょっとそこ立って」
◆
自然な流れで、俺を隣に立たせる。
◆
でも――
◆
「近くね?」
◆
美月が、ぼそっと言う。
◆
一瞬、空気が固まる。
◆
七海は、笑った。
◆
「は?
ただの配置なんだけど」
◆
完璧な演技。
◆
でも――
◆
その指先が、ほんの一瞬だけ、俺の手に触れた。
◆
誰にも見えない、ほんの一瞬。
◆
(……近いって)
◆
心臓が、うるさい。
◆
そして、それを――
◆
美月だけが、見逃さなかった。
◆
◆
夜。
◆
再び訪れる、自由時間。
◆
俺は、一人で外に出た。
◆
すると――
◆
「……やっぱり来た」
◆
そこにいたのは、美月だった。
◆
「なぁ、真中」
◆
いつものクールな声。
◆
「お前と七海」
◆
一歩、距離を詰めてくる。
◆
「――どういう関係?」
◆
完全に、核心。
◆
逃げ場は、ない。
◆
(どうする……)
◆
その時――
◆
背後から、声がした。
◆
「は? 何してんの、邪魔っすわ」
◆
七海だった。
◆
氷の女王の顔。
◆
「こいつ?
ただの召使いなんだけど」
◆
完全否定。
◆
でも――
◆
その一瞬だけ。
◆
七海の目が、俺に向いた。
◆
――大丈夫。
◆
そう言っているようだった。
◆
美月は、ゆっくりと二人を見比べて――
◆
「……ふーん」
◆
そして、静かに言った。
◆
「面白いな、お前ら」
◆
その笑みは――
◆
完全に、“気づいている側”のものだった。
――つづく
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