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第15話:見られた夜――気づいた視線と、崩れかける秘密


 


――修学旅行、二日目の朝。


 


 最悪の目覚めだった。


 


「……やばい」


 


 目を開けた瞬間、昨夜のことが一気にフラッシュバックする。


 


 七海と、裏庭で会ったこと。

 抱きしめたこと。

 あの距離、あの空気。


 


 



 


(……誰にも見られてないよな)


 


 



 


 そう思った瞬間。


 


 


「おはよ、悠翔」


 


 


 背筋が、凍った。


 


 



 


 振り向くと、そこにいたのは――


 


 


 橘美月。


 


 



 


 いつも通りの、冷静な表情。

 でも、その目は、確実に“何かを知っている”色をしていた。


 


 



 


「……朝から何の用だよ」


 


 できるだけ平静を装う。


 


 



 


「別に。ただの確認」


 


 



 


 美月は、ゆっくりと俺に近づいた。


 


 



 


「昨日の夜、どこ行ってた?」


 


 



 


 ――来た。


 


 



 


「トイレ」


 


 



 


「へぇ」


 


 



 


 全く信じてない顔。


 


 



 


「じゃあさ」


 


 



 


「なんで如月七海と一緒にいたの?」


 


 



 


 心臓が、止まりかけた。


 


 



 


(見られてた……!?)


 


 



 


 頭の中が、一瞬で真っ白になる。


 


 



 


 その時――


 


 


「……何してんの?」


 


 



 


 助け舟のように現れたのは、凛花だった。


 


 



 


「朝から男女で密会?

 美月先輩、やるじゃん♡」


 


 



 


 空気を、強引にずらす。


 


 



 


 美月は、ちらっと凛花を見る。


 


 



 


「……あんた、知ってるの?」


 


 



 


 一瞬だけ、空気が張り詰めた。


 


 



 


 凛花は、にこっと笑う。


 


 



 


「何のこと?」


 


 



 


 完璧な“とぼけ”。


 


 



 


 でも、その目は――


 


 



 


 “全部わかってる”目だった。


 


 



 


 美月は、数秒間だけ沈黙してから――


 


 



 


「……まぁいい」


 


 



 


 それ以上は、踏み込んでこなかった。


 


 



 


 でも――


 


 



 


「そのうち、全部わかる」


 


 



 


 そう言い残して、去っていった。


 


 



 


 残された俺と凛花。


 


 



 


「……助かった」


 


 



 


「ほんとにね♡」


 


 



 


 凛花は、くすっと笑う。


 


 



 


「でもさ」


 


 



 


「もう限界近いよ?」


 


 



 


 その言葉は、軽くなかった。


 


 



 


「お姉ちゃん、かなり我慢してるし」


 


 



 


「悠翔先輩も、でしょ?」


 


 



 


 図星だった。


 


 



 


 学校でも。

 修学旅行でも。


 


 



 


 ずっと、“他人のふり”。


 


 



 


 それが、どれだけキツいか。


 


 



 


 



 


 その日の昼。


 


 



 


 班行動。


 


 



 


 俺は、七海、美月、凛花と同じ班だった。


 


 



 


(なんでこのメンツなんだよ……)


 


 



 


 地獄すぎる。


 


 



 


「ねぇ、ここ写真撮ろ」


 


 



 


 七海が、観光地でスマホを構える。


 


 



 


「悠翔、ちょっとそこ立って」


 


 



 


 自然な流れで、俺を隣に立たせる。


 


 



 


 でも――


 


 



 


「近くね?」


 


 



 


 美月が、ぼそっと言う。


 


 



 


 一瞬、空気が固まる。


 


 



 


 七海は、笑った。


 


 



 


「は?

 ただの配置なんだけど」


 


 



 


 完璧な演技。


 


 



 


 でも――


 


 



 


 その指先が、ほんの一瞬だけ、俺の手に触れた。


 


 



 


 誰にも見えない、ほんの一瞬。


 


 



 


(……近いって)


 


 



 


 心臓が、うるさい。


 


 



 


 そして、それを――


 


 



 


 美月だけが、見逃さなかった。


 


 



 


 



 


 夜。


 


 



 


 再び訪れる、自由時間。


 


 



 


 俺は、一人で外に出た。


 


 



 


 すると――


 


 



 


「……やっぱり来た」


 


 



 


 そこにいたのは、美月だった。


 


 



 


「なぁ、真中」


 


 



 


 いつものクールな声。


 


 



 


「お前と七海」


 


 



 


 一歩、距離を詰めてくる。


 


 



 


「――どういう関係?」


 


 



 


 完全に、核心。


 


 



 


 逃げ場は、ない。


 


 



 


(どうする……)


 


 



 


 その時――


 


 



 


 背後から、声がした。


 


 



 


「は? 何してんの、邪魔っすわ」


 


 



 


 七海だった。


 


 



 


 氷の女王の顔。


 


 



 


「こいつ?

 ただの召使いなんだけど」


 


 



 


 完全否定。


 


 



 


 でも――


 


 



 


 その一瞬だけ。


 


 



 


 七海の目が、俺に向いた。


 


 



 


 ――大丈夫。


 


 



 


 そう言っているようだった。


 


 



 


 美月は、ゆっくりと二人を見比べて――


 


 



 


「……ふーん」


 


 



 


 そして、静かに言った。


 


 



 


「面白いな、お前ら」


 


 



 


 その笑みは――


 


 



 


 完全に、“気づいている側”のものだった。


 


 


――つづく




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