第14話:修学旅行で大ピンチ!? 同じ空気、触れられない距離
――修学旅行当日。
「よし、全員いるなー。バス乗れー」
担任の声とともに、クラス全員が浮かれた空気に包まれる。
「やべぇ、テンション上がる!」
「夜絶対騒ぐやつじゃんこれ!」
「女子部屋覗きに行こうぜ!」
……平和だな、お前ら。
◆
でも、俺にとっては――
“戦場”だった。
◆
視線の先には、如月七海。
いつも通りのギャル、いつも通りの氷の女王。
俺のことなんて、視界にも入れていない。
◆
――でも、昨日の夜は。
「悠翔、ぎゅーして……」
なんて言いながら、俺の腕の中で寝てた人と同一人物。
◆
(距離感バグるって、マジで……)
◆
バスの席。
俺は陸たちと座ることになった。
「なぁ悠翔、修学旅行で一番楽しみなこと何?」
→ 陸
「温泉」
→ 奏
「女子」
→ 青山
お前はブレねぇな。
◆
ふと前を見ると――
七海が、女子グループの中心で笑っていた。
完璧な笑顔。
誰にも隙を見せない、トップの存在。
◆
(あれが“外の七海”)
◆
(で、俺だけが知ってる“本当の七海”が――)
◆
夜になると、ああなる。
◆
ギャップがえぐい。
◆
旅館に到着。
和風の大きな建物、畳の香り。
完全に“非日常”。
◆
「部屋割り発表するぞー」
来た。運命の瞬間。
◆
もちろん――
七海と同じ部屋なわけがない。
◆
俺は男子部屋。
七海は女子部屋。
◆
当たり前。でも――
◆
(家なら、同じベッドなのに)
◆
その事実が、妙に寂しかった。
◆
夕食後。
自由時間。
◆
「悠翔、風呂行こうぜ」
陸に誘われる。
「おう」
◆
大浴場。
湯気の中、男子たちのバカ騒ぎ。
「なぁ、女子も同じ時間帯らしいぞ!」
「壁越しに声聞こえるんじゃね!?」
やめろ。
その向こうに、俺の嫁がいる。
◆
その頃、女子風呂。
「ねぇ七海、あんたさー」
凛花が、ニヤニヤしながら言う。
「ほんとは悠翔先輩と一緒に入りたいんでしょ?」
◆
「は?」
七海、即否定。
「キモ。あり得ないんだけど」
◆
――完全に演技。
◆
でも、湯船の中で。
(……会いたい)
◆
誰にも見えないところで、
ほんの少しだけ、表情が緩んだ。
◆
夜。
消灯時間。
◆
「なぁ悠翔、寝た?」
「まだ起きてる?」
「トランプやろうぜ」
男子部屋、うるさい。
◆
でも――
俺のスマホが、震えた。
《今、外来れる?》
七海からだった。
◆
心臓が、一気に跳ね上がる。
◆
俺は、こっそり部屋を抜け出した。
◆
旅館の裏庭。
静かな夜。
◆
「……悠翔」
そこにいたのは、
パーカー姿の七海。
◆
「なんで来たの」
◆
「……会いたかったから」
◆
それだけだった。
◆
学校では絶対に言えない言葉。
◆
でも今は――
◆
誰もいない。
◆
七海は、ゆっくり近づいてきて――
◆
「ちょっとだけ、いい?」
◆
俺に、ぎゅっと抱きついた。
◆
温もり。
◆
たったそれだけなのに――
◆
涙が出そうになるくらい、安心した。
◆
「……やっぱ無理」
◆
「何が?」
◆
「悠翔と同じ空間にいて、他人のふりするの」
◆
七海の声は、小さく震えていた。
◆
「学校だけでもキツいのに、修学旅行とか……」
◆
俺は、そっと彼女の背中を撫でた。
◆
「でもさ」
◆
「それでも隠すって決めたんだろ?」
◆
「……うん」
◆
「じゃあ、あと少しだけ頑張ろう」
◆
七海は、少しだけ顔を上げた。
◆
「その代わり――」
◆
「ここでは、甘えていい?」
◆
反則。
◆
「いくらでも」
◆
その夜。
◆
ほんの少しだけ、
“夫婦”に戻った。
◆
でも――
◆
その様子を、遠くから見ていた影があったことに、
俺たちはまだ気づいていなかった。
――つづく
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