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第13話:誰にも言えない結婚生活――それでも幸せな、二人だけの未来


 


――朝。


 


「……ん」


 


 目を覚ますと、すぐ隣に七海がいた。


 寝顔は無防備で、いつもの強気な表情はどこにもない。

 長いまつげ、柔らかい呼吸、ほんのり甘い香り。


 


「……近いって」


 


 気づけば、七海は俺の腕に抱きついたまま寝ていた。


 


「……んー、悠翔……まだ寝る……」


 


 完全に甘えモード。


 


 昨日、あんな大きな決断をしたばかりなのに、

 この人はもう、いつも通りだった。


 


 



 


「ねぇ悠翔、朝ごはん何食べる?」


 


 キッチンに立つ七海は、エプロン姿。

 学校のギャルでも、ステージのアイドルでもない、ただの“妻”。


 


「なんでもいいけど……無理すんなよ」


「大丈夫だって。今日はねー、フレンチトースト作る♡」


 


 甘い香りが部屋に広がる。


 


「あとでさ、時間あったら一緒にカフェ行こ?

 新作のパフェ出てるんだよねー」


 


 ……昨日まで炎上してた人とは思えない発言。


 


「お前、ほんとメンタル強いな」


 


「強くないよ」


 


 七海は、一瞬だけ手を止めた。


 


「ただ――悠翔がいるから、平気なだけ」


 


 



 


 学校では、いつも通りだった。


 


「……邪魔っすわ」


 


 はい、氷の女王復活。


 


 クラスの空気も、少しずつ戻りつつあった。

 完全に疑いが消えたわけじゃないけど、

 “触れちゃいけない話題”として処理され始めている。


 


 



 


「なぁ悠翔」


 


 昼休み、陸が声をかけてくる。


 


「お前、マジで何もねーの?」


 


 核心を突く質問。


 


 俺は一瞬だけ考えて――


 


「……ただの他人だよ」


 


 



 


 嘘だ。


 


 でも、それでいい。


 


 



 


 放課後。


 


「悠翔先輩、一緒に帰ろ?」


 


 凛花が腕を絡めてくる。


 


「ちょ、近いって」


「いいじゃん。どうせお姉ちゃん、冷たいんでしょ?」


 


 その瞬間――


 


「は? 勝手に触ってんじゃねーよ」


 


 七海、登場。


 


「それ、私のなんだけど?」


 


 “召使い”じゃなくて、“私の”。


 


 微妙にニュアンス変わってません?


 


 



 


「ふーん、じゃあ共有しよっか♡」


「は? 無理なんだけど」


 


 バチバチ火花散ってる姉妹。


 


 その横で、美月がため息をつく。


 


「……平和だな、お前ら」


 


 



 


 夜。


 


 俺と七海は、こっそり外に出ていた。


 


 帽子、マスク、フード。

 完全変装。


 


 


「ねぇ、ちゃんとデートっぽくしよ?」


 


 七海が、俺の手を握る。


 


 



 


 夜の公園。


 


 ベンチに座って、コンビニスイーツを食べるだけの、ささやかな時間。


 


「ねぇ、悠翔」


「ん?」


 


 


「もしさ――全部バレたらどうする?」


 


 



 


 風が、静かに吹く。


 


 


「……その時は」


 


 



 


「堂々と、隣に立つ」


 


 



 


 七海が、少し驚いた顔をする。


 


 


「アイドルでも、何でも関係ない」


 


 



 


「俺の奥さんだからな」


 


 



 


 一瞬の沈黙のあと――


 


 


「……バカ」


 


 



 


 でも、その顔は、泣きそうなくらい嬉しそうだった。


 


 


「そういうとこ、ほんとズルい」


 


 



 


 七海は、そっと俺の肩にもたれた。


 


 


「じゃあさ」


 


 



 


「その日まで――絶対、バレないようにしよ?」


 


 



 


「最強の秘密夫婦、ってやつ」


 


 



 


 俺は、笑った。


 


 


「難易度高すぎるだろ」


 


 



 


「でも、楽しそうじゃん?」


 


 



 


 確かに。


 


 



 


 世界には言えない関係。

 でも、確かにここにある“本物”。


 


 



 


 それが――


 


 



 


 俺たちの結婚生活だった。


 


 


――つづく



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