第13話:誰にも言えない結婚生活――それでも幸せな、二人だけの未来
――朝。
「……ん」
目を覚ますと、すぐ隣に七海がいた。
寝顔は無防備で、いつもの強気な表情はどこにもない。
長いまつげ、柔らかい呼吸、ほんのり甘い香り。
「……近いって」
気づけば、七海は俺の腕に抱きついたまま寝ていた。
「……んー、悠翔……まだ寝る……」
完全に甘えモード。
昨日、あんな大きな決断をしたばかりなのに、
この人はもう、いつも通りだった。
◆
「ねぇ悠翔、朝ごはん何食べる?」
キッチンに立つ七海は、エプロン姿。
学校のギャルでも、ステージのアイドルでもない、ただの“妻”。
「なんでもいいけど……無理すんなよ」
「大丈夫だって。今日はねー、フレンチトースト作る♡」
甘い香りが部屋に広がる。
「あとでさ、時間あったら一緒にカフェ行こ?
新作のパフェ出てるんだよねー」
……昨日まで炎上してた人とは思えない発言。
「お前、ほんとメンタル強いな」
「強くないよ」
七海は、一瞬だけ手を止めた。
「ただ――悠翔がいるから、平気なだけ」
◆
学校では、いつも通りだった。
「……邪魔っすわ」
はい、氷の女王復活。
クラスの空気も、少しずつ戻りつつあった。
完全に疑いが消えたわけじゃないけど、
“触れちゃいけない話題”として処理され始めている。
◆
「なぁ悠翔」
昼休み、陸が声をかけてくる。
「お前、マジで何もねーの?」
核心を突く質問。
俺は一瞬だけ考えて――
「……ただの他人だよ」
◆
嘘だ。
でも、それでいい。
◆
放課後。
「悠翔先輩、一緒に帰ろ?」
凛花が腕を絡めてくる。
「ちょ、近いって」
「いいじゃん。どうせお姉ちゃん、冷たいんでしょ?」
その瞬間――
「は? 勝手に触ってんじゃねーよ」
七海、登場。
「それ、私のなんだけど?」
“召使い”じゃなくて、“私の”。
微妙にニュアンス変わってません?
◆
「ふーん、じゃあ共有しよっか♡」
「は? 無理なんだけど」
バチバチ火花散ってる姉妹。
その横で、美月がため息をつく。
「……平和だな、お前ら」
◆
夜。
俺と七海は、こっそり外に出ていた。
帽子、マスク、フード。
完全変装。
「ねぇ、ちゃんとデートっぽくしよ?」
七海が、俺の手を握る。
◆
夜の公園。
ベンチに座って、コンビニスイーツを食べるだけの、ささやかな時間。
「ねぇ、悠翔」
「ん?」
「もしさ――全部バレたらどうする?」
◆
風が、静かに吹く。
「……その時は」
◆
「堂々と、隣に立つ」
◆
七海が、少し驚いた顔をする。
「アイドルでも、何でも関係ない」
◆
「俺の奥さんだからな」
◆
一瞬の沈黙のあと――
「……バカ」
◆
でも、その顔は、泣きそうなくらい嬉しそうだった。
「そういうとこ、ほんとズルい」
◆
七海は、そっと俺の肩にもたれた。
「じゃあさ」
◆
「その日まで――絶対、バレないようにしよ?」
◆
「最強の秘密夫婦、ってやつ」
◆
俺は、笑った。
「難易度高すぎるだろ」
◆
「でも、楽しそうじゃん?」
◆
確かに。
◆
世界には言えない関係。
でも、確かにここにある“本物”。
◆
それが――
◆
俺たちの結婚生活だった。
――つづく
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




