第12話:最後の選択――「アイドル」か「愛」か、それでも隠し続ける理由
――ステラプロ本社、会議室。
重苦しい空気の中、全員が席についていた。
社長・城之内玲司。
マネージャー・風間真理子。
Seven☆Daysのメンバーたち。
そして――七海。
「結論から言う」
社長の低い声が、静かに響く。
「如月七海。お前には二つの選択肢がある」
◆
「一つ。
“恋愛の完全否定”を貫き、今後一切のスキャンダルを封じること。
つまり、恋愛禁止契約の再締結だ」
空気が張り詰める。
「もう一つは――」
◆
「Seven☆Daysからの脱退。
そして、個人としての活動、もしくは引退だ」
◆
沈黙。
誰も、簡単には言葉を出せない。
◆
凛花が、ぎゅっと拳を握る。
「……お姉ちゃん」
美月も、目を逸らさずに七海を見ていた。
◆
その時、風間真理子が口を開いた。
「七海。これは“選択”じゃない。
芸能界に残るなら、答えは一つよ」
◆
七海は、ゆっくりと立ち上がった。
「……私、否定する」
◆
その声は、はっきりしていた。
「最初から最後まで、全部」
◆
「結婚? 同棲? 恋愛?
――あり得ない」
◆
それは、完全な“演技”だった。
でも同時に、彼女の“覚悟”でもあった。
◆
「私は、アイドルだから」
◆
その一言で、すべてが決まった。
◆
会議は、それで終わった。
七海は、何もなかったかのように歩き出す。
誰にも弱さを見せずに。
◆
その夜。
家のドアが、静かに開く。
「……ただいま」
力の抜けた声だった。
◆
「おかえり、七海」
俺は、すぐに彼女を抱きしめた。
◆
七海は、何も言わなかった。
ただ、ぎゅっと俺にしがみつく。
◆
「……ねぇ、悠翔」
「ん?」
「私さ、今日……全部、否定した」
◆
「知ってる」
◆
「“あり得ない”って言った」
◆
少しだけ、間が空く。
「……傷ついた?」
◆
俺は、少しだけ笑った。
「いや」
◆
「むしろ、かっこよかった」
◆
七海が、驚いた顔をする。
「だってさ」
◆
「お前、全部守ったじゃん」
◆
「アイドルも、夢も……俺との関係も」
◆
七海の目に、涙が浮かぶ。
「……バカ」
◆
「普通、怒るとこでしょ」
◆
「普通じゃないんで」
◆
そう言って、俺は彼女の頭を撫でた。
◆
「俺も決めた」
◆
「俺は、表に出ない」
◆
七海の体が、びくっと震える。
「悠翔……それ、本気で言ってるの?」
◆
「うん」
◆
「お前の夢、壊したくないから」
◆
その言葉に、七海は強く抱きついてきた。
「……ありがと」
◆
「じゃあさ、その代わり――」
◆
七海は、少しだけいたずらっぽく笑う。
「家では、もっと甘やかして?」
◆
「むしろ足りないくらいなんだけど♡」
◆
……はい、いつもの七海に戻りました。
◆
でも、その笑顔の奥には――
誰にも見せない、強さと覚悟があった。
◆
翌日。
SNSには、七海の追加コメントが投稿された。
『 何度も言うけど、
私は誰とも付き合ってないし、
結婚なんてしてない。
変な噂、全部否定する。
アイドルとして、これからもやっていくから。』
◆
世界は、少しずつ沈静化していった。
疑う声もある。
信じる声もある。
でも――
◆
“真実”を知っているのは、俺たちだけ。
◆
学校では――
「は? 何見てんの、邪魔っすわ」
今日も“氷の女王”。
◆
家では――
「悠翔~♡ ぎゅーして?」
今日も“甘々な妻”。
◆
どっちも、本当の七海。
◆
そして俺は――
その両方を知る、たった一人の存在。
――つづく
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