第11話:否定と覚悟――炎上する世界と、揺るがない君
――それは、朝のホームルーム前だった。
「おい……これ、マジかよ」
教室の空気が、昨日とは比べ物にならないほど重い。
スマホの画面を覗き込む生徒たち、その視線が一斉に――俺に向いた。
「真中……お前……」
見なくてもわかる。
――出たんだ。
◆
《国民的アイドルNANA、一般男性と密会写真流出》
《深夜、公園で抱き合う姿を激写》
完全にアウトだった。
俺と七海が、公園で抱き合っている写真。
顔も、体格も、完全に特定可能。
言い逃れなんて、できないレベル。
◆
「……終わったな」
奏が、珍しく表情を曇らせた。
「いや、まだだ」
陸が低く言う。
「七海がどう動くかで、全部変わる」
◆
その頃――
SNSはすでに大炎上していた。
《やっぱり男いたじゃん》
《裏切られた》
《恋愛禁止じゃないの?》
《でも幸せならいいじゃん派もいる》
《公表するか、別れるか、どっちかでしょ》
世界中が、勝手な正義で騒いでいる。
◆
そして――
七海が、動いた。
『 ねぇ、勝手に騒いでる人たちへ。
うっざー。
邪魔っすわ。
勝手に写真撮って、勝手に妄想して、勝手に評価して。
それ、全部、私の人生に関係ある?
私は、私のやりたいようにやるだけ。
アイドルだからって、全部お前らのものじゃないんだけど。』
◆
――教室が、静まり返った。
「……強すぎだろ」
誰かが呟いた。
◆
さらに七海は、学校でも“氷の女王”のままだった。
「何見てんの?」
教室に入った瞬間、
ざわついていた空気を一言で黙らせる。
「……写真の件」
誰かが言いかけた瞬間――
「だから?」
七海の目が、鋭く光る。
「それが何?
証拠? 決定的?
だったらどうしたの?」
誰も、何も言えなかった。
◆
そして――
俺の方を、ちらっとだけ見る。
ほんの一瞬。
でも、確かにそこには――“信じてる”っていう気持ちがあった。
◆
昼休み。
凛花と美月も、いつもより静かだった。
「……お姉ちゃん、やっぱ最強だね」
凛花が小さく笑う。
「でも、あれは諸刃の剣だ」
美月が腕を組む。
「ファンを敵に回す可能性もある。
それでも、ああ言ったんだ」
◆
その夜。
俺と七海は、静かな部屋で向き合っていた。
「……ごめんね」
七海が、ぽつりと呟く。
「何が?」
「悠翔、巻き込んだ」
◆
俺は、首を振った。
「違うだろ」
◆
「俺たち、最初から“一緒に背負う”って決めたじゃん」
◆
七海は、少しだけ驚いた顔をして――
すぐに、ふっと笑った。
「……ほんと、バカ」
◆
そして、ゆっくりと近づいてきて――
小さな声で言う。
「でも、そういうとこ、好き」
◆
俺は、彼女を抱き寄せた。
「公表もしない。別れもしない」
◆
「――全部、隠したままでも、一緒にいる」
◆
七海は、俺の胸に顔を埋めて、小さく笑った。
「うん。それでいい」
◆
外の世界は、まだ騒いでる。
炎上も、批判も、終わってない。
でも――
俺たちは、揺るがなかった。
◆
――その時。
七海のスマホが鳴る。
表示された名前は――
【風間真理子】
「……来たね」
◆
電話の向こうから聞こえたのは、
冷静で、でも緊迫した声だった。
「七海、緊急会議よ。
……事務所として、“次の決断”を下す」
◆
それは――
この騒動の、最終局面の始まりだった。
――つづく
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