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第11話:否定と覚悟――炎上する世界と、揺るがない君




――それは、朝のホームルーム前だった。


 


「おい……これ、マジかよ」


 


 教室の空気が、昨日とは比べ物にならないほど重い。

 スマホの画面を覗き込む生徒たち、その視線が一斉に――俺に向いた。


 


「真中……お前……」


 


 見なくてもわかる。


 


 ――出たんだ。


 


 



 


《国民的アイドルNANA、一般男性と密会写真流出》


《深夜、公園で抱き合う姿を激写》


 


 完全にアウトだった。


 


 俺と七海が、公園で抱き合っている写真。

 顔も、体格も、完全に特定可能。


 


 言い逃れなんて、できないレベル。


 


 



 


「……終わったな」


 


 奏が、珍しく表情を曇らせた。


 


「いや、まだだ」

 陸が低く言う。


 


「七海がどう動くかで、全部変わる」


 


 



 


 その頃――

 SNSはすでに大炎上していた。


 


《やっぱり男いたじゃん》

《裏切られた》

《恋愛禁止じゃないの?》

《でも幸せならいいじゃん派もいる》

《公表するか、別れるか、どっちかでしょ》


 


 世界中が、勝手な正義で騒いでいる。


 


 



 


 そして――


 


 七海が、動いた。


 


 

『 ねぇ、勝手に騒いでる人たちへ。


うっざー。


邪魔っすわ。


勝手に写真撮って、勝手に妄想して、勝手に評価して。


それ、全部、私の人生に関係ある?


私は、私のやりたいようにやるだけ。


アイドルだからって、全部お前らのものじゃないんだけど。』




 


 ――教室が、静まり返った。


 


「……強すぎだろ」


 


 誰かが呟いた。


 


 



 


 さらに七海は、学校でも“氷の女王”のままだった。


 


「何見てんの?」


 


 教室に入った瞬間、

 ざわついていた空気を一言で黙らせる。


 


「……写真の件」


 


 誰かが言いかけた瞬間――


 


「だから?」


 


 七海の目が、鋭く光る。


 


「それが何?

 証拠? 決定的?

 だったらどうしたの?」


 


 誰も、何も言えなかった。


 


 



 


 そして――

 俺の方を、ちらっとだけ見る。


 


 ほんの一瞬。

 でも、確かにそこには――“信じてる”っていう気持ちがあった。


 


 



 


 昼休み。


 


 凛花と美月も、いつもより静かだった。


 


「……お姉ちゃん、やっぱ最強だね」

 凛花が小さく笑う。


 


「でも、あれは諸刃の剣だ」

 美月が腕を組む。


 


「ファンを敵に回す可能性もある。

 それでも、ああ言ったんだ」


 


 



 


 その夜。


 


 俺と七海は、静かな部屋で向き合っていた。


 


「……ごめんね」


 


 七海が、ぽつりと呟く。


 


「何が?」


 


「悠翔、巻き込んだ」


 


 



 


 俺は、首を振った。


 


「違うだろ」


 


 



 


「俺たち、最初から“一緒に背負う”って決めたじゃん」


 


 



 


 七海は、少しだけ驚いた顔をして――

 すぐに、ふっと笑った。


 


 


「……ほんと、バカ」


 


 



 


 そして、ゆっくりと近づいてきて――

 小さな声で言う。


 


 


「でも、そういうとこ、好き」


 


 



 


 俺は、彼女を抱き寄せた。


 


 


「公表もしない。別れもしない」


 


 



 


「――全部、隠したままでも、一緒にいる」


 


 



 


 七海は、俺の胸に顔を埋めて、小さく笑った。


 


 


「うん。それでいい」


 


 



 


 外の世界は、まだ騒いでる。

 炎上も、批判も、終わってない。


 


 でも――


 


 俺たちは、揺るがなかった。


 


 



 


 ――その時。


 


 七海のスマホが鳴る。


 


 表示された名前は――


 


 【風間真理子】


 


 


「……来たね」


 


 



 


 電話の向こうから聞こえたのは、

 冷静で、でも緊迫した声だった。


 


「七海、緊急会議よ。

 ……事務所として、“次の決断”を下す」


 


 



 


 それは――

 この騒動の、最終局面の始まりだった。


 


 


――つづく



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