第10話:極秘結婚、ついにバレる!? 週刊誌の罠と、崩れかける日常
――その朝は、いつもより静かだった。
「……なんか、嫌な予感しかしないんだけど」
登校しながら、俺は無意識にそう呟いていた。
理由はわからない。でも、こういう時ってだいたい当たる。
校門をくぐった瞬間――
「いたぞ! あの男子だ!」
フラッシュ。
「真中悠翔くんですよね!? NANAさんとの関係について――!」
――終わった。
◆
突然、目の前に現れたのは、
明らかに一般人じゃない雰囲気の男たち。
スーツ、カメラ、マイク。
――週刊誌の記者。
「ちょ、待ってください、俺は――」
言い訳なんて、通じるわけがない。
すでにシャッターは切られている。
「同居してるって本当ですか!?」
「昨日も一緒にいたんですよね!?」
「あなたが“例の男”ですか!?」
やばい、完全に特定されてる。
◆
「どけよ!!」
その時、陸が記者の間に割って入った。
「一般生徒に迷惑かけんなって言ってんだろ!!」
「学校に無断で入るとかアウトですよ」
奏も冷静に言い放つ。
さらに――
「生徒会として通報します」
→ 川口
「SNSで拡散してやるからな?」
→ 青山
「や、やめてくださいほんとに……!」
→ 三好(震えながらも前に出る)
みんなが、俺を守ってくれていた。
でも――
「……真中くん、答えてください」
一人の記者が、低い声で言った。
「あなた、如月七海さんの“特別な存在”ですよね?」
◆
その瞬間、時間が止まった。
言えば、全部終わる。
言わなくても、疑いは深まる。
どうする――
「……知らねーよ」
その声は、俺じゃなかった。
◆
「こいつ、ただの雑用係だから。
勝手に妄想してんじゃねーよ、うっざー」
七海だった。
完璧なギャルの顔。
冷たい視線。
いつもの“氷の女王”。
「てか、邪魔っすわ。
撮るなら私だけ撮れよ、価値あんのはそっちでしょ?」
強い。
かっこいい。
でも――
その言葉、ちょっと刺さるんですけど!?
◆
記者たちは、七海に集中した。
俺への追及は、一旦止まる。
「NANAさん、否定されるんですね?」
「この男性とは関係ないと?」
七海は一瞬だけ――
ほんの一瞬だけ、俺を見た。
そして、笑った。
「ただの他人。
それ以上でも、それ以下でもない」
◆
……胸が、痛かった。
わかってる。
これが正解だって。
でも――
(俺たち、夫婦なのに)
◆
その日の放課後。
俺は、バイトにも行けず、屋上にいた。
「……きついな」
全部、きつい。
秘密を守るために、嘘をつく。
守るために、距離を取る。
それが正しいってわかってても――
やっぱり、つらい。
◆
「悠翔」
振り向くと、七海がいた。
学校モードのまま、でも少しだけ表情が柔らかい。
「……さっきは、ごめん」
小さな声だった。
「別に……わかってるし」
「でも、傷ついたでしょ」
図星だった。
◆
「……なあ七海」
俺は、ゆっくり言った。
「このままさ、ずっと隠し続けるのって……正しいのかな」
◆
七海は、少し黙ってから言った。
「……正しくなくても、必要なの」
その目は、真っ直ぐだった。
「だって、私がアイドルでいる限り、
“恋愛”は許されないから」
◆
俺は、拳を握った。
好きなのに。
結婚してるのに。
一緒にいるのに。
全部、隠さなきゃいけない。
◆
でも――
「それでもいいよ」
俺は言った。
「隠してでも、一緒にいられるなら」
◆
七海は、少しだけ驚いた顔をして――
すぐに、ふっと笑った。
「……バカ」
そして、誰もいないのを確認してから――
小さく、俺に抱きついた。
「大好き、悠翔」
その一言で、全部報われた気がした。
◆
だが――
その様子を、遠くからカメラが捉えていたことに、
俺たちはまだ気づいていなかった。
――つづく
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