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旅男!  作者: 吉岡果音
第九章 白く輝く季節へ
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第60話 いざ! バルイナ王国へ!

「な、なんじゃこりゃああっ!?」


 目の前に、見知らぬ動物。朝、宿屋の厩舎にキースの声が響いていた。


 ルーク、ゲオルク、オレグ……。それから――、あの動物は、なに……!?


 翼鹿の、吉助がいない。そしてなぜか代わりにいるのが、もこもことした毛に包まれた、謎の翼獣――。


 と、いうことは、まさか……?


「吉助! 冬毛になったのか!」


 キースの後ろから、宗徳が嬉しそうに声を張り上げていた。


 えっ。


 振り返り、宗徳を見る。


「吉助!? これが!?」


 翼の生えた鹿のような姿だった吉助。しかし今は、まるで、翼のある羊のようだった。


 鹿が、羊になった……!


「一晩で、こんなに変わるのか!?」


「ああ。毎年冬が近づくと、一晩で冬毛に変わる」


「毛、伸びんの、早すぎっ!」


 驚異的な伸び率である。


「よかったなあ。吉助。これでお前も、いつ冬が来たって安心だな!」


 キースは、吉助のふわふわになった頭をわしわしと撫でた。


「ピィー!」


 吉助は、頬をすり寄せ、キースに甘える。 

 その様子を見ていたルークとゲオルクは羨ましそうな顔をし、自分たちもキースに撫でてもらおうと吉助の後ろに並ぶ。


「おいおい。またお前らも甘えたくなったのかよ!」


 キースは、ルークとゲオルクも順番にたっぷり撫でてあげた。ルークとゲオルクは満足そうに目を細め、喉まで鳴らした。

 ドラゴンのオレグは、その脇で知らん顔をしていたが、あきらかに横目で皆の様子をちらちら見ている。


「オレグ! お前も、ほんとは甘えたいんだろお!?」


 キースはそう言ってオレグの頭もわしわしと撫でてあげた。


「キエアアアーッ!」


 オレグは嬉しそうに鳴いた。本当は、キースに甘えてみたくてしょうがなかったのだ。


「ツンデレだなあ!」


 キースは笑いながら、ルークやゲオルク、オレグも冬毛になったらどんな感じなんだろう、と想像していた。


 もこもこになった、丸い翼獣が四つ。


「ははははは!」


 めっちゃかわいいじゃん!


 ついでに、人間も妖精も、もこもこになったらどんな感じか想像してみた。


「ははははは!」


 謎の毛玉軍団! 怖ぇーって!


 さらに、もこもこの毛の生えた剣も想像した。


「斬れねーっつーの!」


 毛玉の剣! 巨大ストラップか!?


 キースは一人爆笑していた。


「……みんなを撫でて、一人ハイテンションになってる……」


 宗徳やカイ、それからアーデルハイト、ミハイル、ユリエはなにがそんなにおかしいのか、と首をかしげた。妄想の中勝手に巨大毛玉にされているとは知らず。


「さあ! そろそろ出発するかあ!」


 今日も、気持ちのいい青空。




「妖精にペガサスにドラゴンに……、それから、珍しい翼獣を連れているねえ! いやあ! 長年検問所にいるけど、まったくこれは初めて見た! なんという翼獣なんだい?」


 国境検問所の役人たちが、吉助を見て驚嘆の声を上げる。

 ここは、「バルイナ王国国境検問所」。キースたち一同は、ついにネクスター国を出国し、ネクスター国の北に隣接する、バルイナ王国に入国しようとしていた。


「翼鹿です。翼鹿の、冬毛バージョンです」


 宗徳が笑顔で答える。


「もふもふだねえ!」


「もふもふだ!」


 役人たちは、吉助の頭や体を撫でていた。吉助は目を細め、嬉しそうに短い尻尾を振る。またゲオルクが、自分も撫でてもらおうと吉助の後ろに並ぶ。ルークとオレグは、知らない人間だから撫でてもらわなくても結構、とそれぞれ自分の主人のキースとミハイルの脇から動かない。


「もふもふじゃないけど、お前も人懐っこくてかわいいねえ!」


「おー、よしよし、いい子いい子」


「きゅー!」


 ゲオルクは、甘えん坊である。大人になっても。

 ゲオルクの後ろに、キースも並んでみた。


「俺も並んだら、撫でてもらえるのかな」


 キースが呟く。


「なんでよ」


 アーデルハイトがすかさずツッコミを入れる。身分証のないカイは、剣の姿になっていたので黙っていたが、目立たないように小さく数回その身を光らせた。おじさんに撫でられたいのですか、あなたは、というようなことを言いたかったに違いない。アーデルハイトとカイという、脱線してもすかさず軌道修正をしてくれる存在が二人もいて、キースは幸せ者である。それでも学習はせず自由なままだが。

 役人たちは、なんとなく勢いでキースの頭も撫でてあげてしまっていた。


「まんざらでもないなあ」


 キースは、ゲオルクと吉助と顔を見合わせ満足そうに笑う。


「ほんとに撫でてもらってるし!」


 一同絶句する。ルークとオレグまで、思わず口をあんぐり開けて呆れていた。


「最終目的地は、ノースカンザーランドです」


 代表してキースが役人たちに、入国理由が「通過目的(トランジット)」で、ノースカンザーランドに向かっている途中である旨を告げる。


「へえ。あなたがたは、ノースカンザーランドへ向かう予定なのですね。つい十日ほど前も、ノースカンザーランドへ旅するために入国すると話していたドラゴンに乗った一団が、ここを通ったよ。しかもその人たちは、そちらのお嬢さんと同じハウゼナード人だったねえ」


「えっ……! それは、どんな人たちでしたか?」


 思わずアーデルハイトが身を乗り出す。


「ええと、どんなって……」


 役人は腕組みし、なにかを思いだそうとするように、ちょっと斜め上を見た。


「ああ、そうだ。眼鏡をかけた、職業が先生という人が――」


「きっと、フレデリク先生たちだわ……!」


 アーデルハイトの声に、役人は思い出したようにうなずいた。


「そうそう! フレデリクという人もいたよ。俺の妹の旦那と同じ名前だから憶えてる」


「やっぱり……!」


 一同は、顔を見合わせた。


「あの……! それじゃあ、その団体とは別に、黒いドラゴンに乗った長い金髪の若い男性は来ませんでしたか!?」


 アーデルハイトが続けて尋ねる。


「さあ……。そんな人は来なかったと思うよ。黒いドラゴンも珍しいから、来たら覚えていると思うがねえ。うん。そんな旅人は来てないなあ」

 

「そうですか……」


 クラウスは、この地を訪れていない。入国チェックの厳しかったネクスター国を避けたため、別ルートを通っているのだ。


「ようこそ! バルイナ王国へ! ノースカンザーランドも神秘的で興味深い国ですが、このバルイナ王国も、精霊や聖獣など不思議な存在が数多く住む、自然豊かな平和な国です。どうぞ旅を楽しんでくださいね!」


 一同は、無事入国の許可を得た。


「ところで、わが国には、偉大な発明王がいるんです」


 役人は、とても明るく親切で饒舌だった。キースたちが若い旅人たちであるということ、それから最初のキースの奇行ぶりが、そうさせたのかもしれない。


「発明王……?」


「はい。様々な機械や乗り物を発明し、制作しています。ここに、『写真機』という素晴らしい彼の発明品があります。わが国では、高額ですが大変人気のある機械です。まだ数は多くないですが、海外にも輸出しているんですよ。この写真機とは、絵画のように、人物や風景を紙にそっくり再現できるというものです。お値段は少々かかりますが、皆さん揃って一枚お写真、記念にいかがですか?」


 役人たちは、部屋の隅に置いてある大きな機械を指差した。長方形の金属の機械で、あちこちに大小様々な歯車が付いている。機械の上部に鏡のような大きななにか――レンズ――が付いていた。一同、こんな不思議な機械は見たことがない。

 一人の役人が机から写真を一枚、出して見せてくれた。ここの役人たちが揃って映っている集合写真だった。


「へえー! すごいねえ! まるで魔法だねえ! 不思議―!」


 皆の写真を撮ってもらうことにした。キースとアーデルハイトとミハイルと宗徳、それぞれ一枚ずつ購入することにした。合計、四枚のお買い上げである。

 キースたちの後ろに、ペガサスのルーク、ドラゴンのゲオルクとオレグ、翼鹿の吉助が配される並び。部屋と写真機の都合上、全身写真ではなく、上半身のみの写真になるらしい。


「はい、撮りますよー!」


 カシャ、カシャ、カシャ、カシャ!


 軽快なシャッター音。それから歯車がゴトゴト音を立てて回る。しばらくすると、下の方の取り出し口から四枚の写真が出てきた。


「あれっ! こ、これは……!」


 役人の顔が青ざめた。


「えっ? どうしたんです? どれどれ。あっ! すごいじゃないですか!」


 一同は笑顔になった。なぜか役人たちは、怯えるような表情を浮かべ、震えてさえいる。

 役人が叫んだ。


「こ、これは! 『心霊写真』というものじゃないですかっ!」


「すみません! 噂では聞いたことがありますが……、私共のところでは、こんなことは初めてです! ああ! こんなにはっきりと!」


「お化けだ! 男の子の幽霊が映ってる……!」


 口々に役人が叫ぶ。


「え……?」


 一同、改めて写真を見る。四枚とも――、人間の姿のカイが映っていた。


「あっ……!」


 カイは剣のまま、キースの腰のところに納まっている。それが、写真ではぼんやりと人間の姿で映っていたのだ。不思議なレンズは、ちゃんと人としてカイの姿を捉えていた。


「も、申し訳ございません! これは、こちらで責任を持って処分いたしますので……」


 せっかくの旅行に水を差してしまって申し訳ありません、と役人たちは謝罪する。


「いえいえ! あの……、彼は僕たちの大切な友人なんです! ああ! よかった! これは僕たちにとって大切な写真です! お願いしてよかった! 本当にありがとうございます!」 


 慌てて、ミハイルが叫んだ。


「ご友人でいらっしゃいましたか……、まだこんな少年なのに……、ああ、こんなに明るく微笑んで――」


 役人たちは、カイのことを若くして亡くなった気の毒な少年だと思い込んだようだ。


「大切にします……! 本当に、ありがとうございました……!」


 一同、深々とお辞儀をする。

 役人たちは、不遇な異国の少年の魂を想い、涙ぐんでいた。

 きっと、この少年もみんなと一緒に旅をしたかったんだろうな――、そう思ったに違いない。


「そうですか、そうですか……。皆さん……、どうかお元気でよい旅を続けてくださいね……」


 役人たちは、ずっと手を振って見送ってくれた。




「俺、死んだことになってるんですかーっ!? しかも男の子、少年ってーっ!」


 人の姿に戻ったカイの叫びである。


「しょうがないだろー! そう見えたんだから! 少年って、少女よりはいいだろ」


「さすがに女の子には見えないでしょう!? 俺は、大人の男設定、二十代仕様です!」


 裸でもぼんやりだったから、女の子にも見えなくはないんだよな……。


 一同、そう思ったが、そこは黙っておいてあげた。


「よくあの場で弁解せず我慢してたなあ。偉いなあ、カイ。よしよし」


 キースはカイの頭を撫でた。


「子ども扱いしないでくださいっ!」


 皆、笑いを堪えていた。子どもって、幽霊って……! と。


「でも……、本当に……、これはいい記念ね……!」


 皆、笑顔で映っていた。四枚とも、皆輝くような笑顔。


「全員ちゃんと写ってるからな! カイも人の姿として写ってくれてよかったよ!」


 キースは写真を眺めながら、よい仲間に恵まれたことを、改めて感謝したい気持ちになっていた。


 一生モンの、宝物ができたな!


 そっと、カバンの中にしまう。折れたり汚れたりしないように、手帳に挟んで。実は、誕生日にカイから贈られた四つ葉のクローバーも、その手帳に挟んでいた。キースは、ほとんど手帳としては活用していないけれど。

 発明王、精霊、聖獣……。不思議な国、バルイナ王国への旅。

 澄んだ青空の下、これから始まるであろう新しい冒険に、キースの顔は輝く。

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