第49話 三つの村の合同祭
豊かな秋の恵みは、あたたかなもてなしの料理となってテーブルに並ぶ。
キースたちは、村の長の屋敷で盛大な歓待を受けていた。
楽しい宴が進むうち、自然と話題は明日の合同祭の話になっていく。
「祭りでは、毎年恒例の競技があるんです」
村の長の説明によると、祭りのメインイベントとして、毎年恒例の競技が行われるらしい。
「えっ? それってどんな競技?」
楽しそうな話に、キースが身を乗り出す。
「『必殺! 秋の大感謝祭わくわく・コスプレース』です」
「『コスプレース』?」
初めて聞くワード。しかし、どこか聞いたことあるような、とキースは思った。
「コスプレを競うレースです」
「コスプレ! そういうことか!」
なんと、この世界にもコスプレという概念があった。
村の祭り、攻めている……!
キースは、村人たちの娯楽の方向性に舌を巻く。
「このレースは、五人以上のチームで挑むチーム戦です。コスプレをするのは、チームを代表する一名のみです。他のチームメンバーには、それぞれ役割があります。制限時間内、協力し合っていかに素晴らしいコスプレが完成されるか、観戦者の投票で優勝が決まるというレースです」
「五人以上……。あっ! 俺たちちょうど参加できるじゃないか!」
キース、アーデルハイト、カイ、ミハイル、宗徳、そして妖精のユリエ。六名なので、参加可能だった。
「どんなレース? どんなレース?」
妖精のユリエが、楽しそうに村の長の周りを飛び回りながら、詳しい説明をせがむ。村の長が、笑顔で語る。
「では、チームメンバーそれぞれの役割を説明しながら、レースの流れを紹介します。まず、一番目の走者の役割です。それは、食べること」
「食べること?」
まず競技に食べるフェーズがある、そこに驚いた。
「コース内の用意されたテーブルまで走り、この地域の特産の巨大豆、『でかまめん』の実を食べます。そのためこの一番走者は、『でかまめんメン』と呼びます」
「『でかまめんメン』!」
一番目の走者、呼称がトリッキーだった。
「『でかまめん』は非常に美味しい豆ですが、巨大なさやの中に大きな豆が四つ入っています。さらに、『でかまめん』には、『感動物質』という成分が入っていて、食べると感動し、人によっては笑い、人によっては泣き出します。ですから、素早く完食するのは難しい食べものです」
「へえええ! 『でかまめん』、ちょっと怖くない!?」
一同、目を丸くした。
いやいや、無害ですし大丈夫です、と村の長は説明を続けた。
「実を食べ終えたら、一番目の走者は二番目の走者のところまで走り、食べ終えた『でかまめん』のさやの部分を渡します。さやを渡された二番目に当たる者は、そのさやに両足を突っ込んで走ります。両足を入れるので、走るというより飛び跳ねて進みます。この走者は『飛び跳ねん』と呼ばれます」
「『飛び跳ねん』!?」
またしてもトリッキー、しかしそこは『飛び跳メン』ではないのか、と一同ざわざわし始める。あくまでそこは『飛び跳ねん』らしい。村の長の説明は淀みない。
「さやにも『感動物質』が残っているので、二番目の走者も感動して笑うか泣くかしながら、第三走者の地点まで飛び跳ねて進みます」
「『感動物質』、食べなくても影響あるんだ……」
さらに、引く。一同の反応、引き潮のごとし。
この村、実はやばいのでは……。
キースたちの頭の中、もしや都市伝説などに登場するカルト村なのでは、という疑念が生まれる。キースたちの反応を見て、村の長は、「でかまめん」はこの地方では一般的な食材で、決しておかしな薬物などではない、と笑顔を交えつつ語った。
「『感動物質』による影響はごく一時的なもので、危険なものではありません。ハイになる、ちょっとおちゃめな成分です。むしろ、心身によい影響があると言われています」
ちょっとおちゃめ……。
でかまめんは、古来よりこの地域で親しまれている「ちょっとおちゃめなマメ科の植物」らしい。
ちょっとおマメ……。
マメなだけに、とキースは思う。
皆が納得し和んだ空気になったことに安心したのか、村の長の説明は続く。
「第三走者のいる場所の先に、目的ポイントがあります。そこには、たくさんの服や着ぐるみが用意されています。コスプレ衣装です。三番目の走者は、二番目の走者が到着したら、目的ポイントへ走ります。そして目的ポイントで、コスプレイヤーに合いそうな衣装を探します。衣装は早いもの勝ちということになるのですが、観戦者の投票で順位が決まるレースなので、美しければいい、というわけではありません。あえて楽しさを出すために着ぐるみを選んで、高評価につながる場合もあります。その辺の判断もレースの勝敗のかなめになってきます。三番目の走者は、『三番メン』と呼ばれます」
「そこは名前が雑だなあ!」
スタイリストメン、とかじゃないんだ……。
ただの順番メンだった。
「三番目の走者が衣装を選んだら、次の地点で待機しているコスプレイヤーのところまで走ります。つまりコスプレイヤーが、四番目の走者になります。コスプレイヤーは、着替えスペースまで『三番メン』と共に走り、『三番メン』に服を着せてもらいます。そして、走者ではない残りのメンバーが、コスプレイヤーに化粧や小道具など最終的な装飾を施します。着替えスペースには、ウィッグや持ち物など様々な小道具がご用意してありますので、さらに変身させることが可能です」
「食べる人、飛び跳ねる人、選んで着せる人、メイクなどの仕上げをする人たち、コスプレイヤー、以上の五人以上が一チームってわけかあ!」
「制限時間がありますので、早く食べること、速く走ることが重要な要素になっています」
「ずいぶん変わったレースだねえ!」
「開催地が三つの村で毎年変わりますし、それに伴い服や小道具も毎年新しくなります。それに、あくまで観戦者のウケ具合で勝敗が決まるレースなので、毎年どのチームが勝つかわからない、強豪チームというものがない、どなたでも楽しめるレースなのです」
村の長はにっこりと笑った。
「どうでしょう? 参加してはくださいませんか?」
一同、ふたたび顔を見合わした。皆、笑顔になっていた。
「ぜひよろしくお願いします!」
「でかまめん」は、やはりでかい豆だった。さやの中に、大きな実が四つ入っている。
ミハイルが、一番目、『でかまめんメン』だった。問題の感動物質は――。
「あははははは!」
ミハイルは、笑うタイプだった。
「あははははは!」
笑いながら、ひたすら巨大な実を食べ続ける。
「おーいしーい!」
美味しさに感動しながら、笑っているようだった。
小柄で痩せているミハイル。食べ終えたのは、参加者の中で一番最後だった。
「ミハイル、よく頑張ったーっ!」
ミハイルから、さやを受け取ったのは――、キースだった。
「ミハイル、健闘、実に素晴らしかったぞーっ!」
さやに両足を入れたキースは、涙を流していた。
キースは意外にも、泣くタイプのようだった。
「どりゃあああ!」
キースは涙を流しつつ、爆走、「爆跳ね」した。さやに両足を突っ込みながら、ぴょんぴょん跳ねた。
あっという間に前方にいた他の参加者たちをごぼう抜きにし――マメなのにごぼう――、一位で第三走者の地点に着いた。
「宗徳―っ! 後は頼んだあああ!」
泣きながら、宗徳にバトンタッチ。三番目は宗徳だった。
「任せろ! 俺が素晴らしい衣装を見つける!」
宗徳の、センスが問われるところだった。
がしっ!
宗徳は、迷わず衣装を掴んだ。
それは、バニーガール衣装だった。
「これを俺に着せるんですかああーっ!」
コスプレイヤーは、カイだった。
「着せる」
宗徳は、真顔で言い切った。
「だから嫌だって言ったんですよーっ! コスプレイヤーはーっ!」
カイ以外、満場一致でカイが選ばれていた。
宗徳は、嫌がるカイの手を引き、着替える場所へ連れて行く。
「感動物質」を摂取していないが、カイの黒の瞳には涙が――。
「うむ。俺の見立ては正しい」
「どこが正しいんですかーっ!」
うなずく宗徳。叫ぶカイ。
大きな黒いウサギ耳。黒のレオタードに白くまあるいかわいい尻尾――。見事な「ウサギちゃん」ぶりだった。
「メイクは任せて!」
アーデルハイトとユリエが素早くメイクを施す。
「な、な、な、なんでこんなことにいいいー……」
「カイ。ちょっと黙ってて。化粧ずれちゃう」
アーデルハイトとユリエの、職人技ともいえそうなメイク技術がさく裂する。
「完成―っ!」
制限時間を余裕で残し、完成した。
「あははははは!」
ミハイルが笑う。
「カイーッ! お父さんは嬉しいぞーっ!」
キースが泣く。花嫁衣裳を見た父のように。
「なんでお父さんになってるんですかー!」
カイだけが不満げだった。皆、満足そうにうなずき合い、それぞれ自分の額の光る汗をぬぐった。
いい仕事をした――。
結果はどうでもいい。ただ、自分は自分のベストを尽くした――、皆、爽やかな達成感に包まれていた。
「ぜんっぜん、爽やかなんかじゃない……!」
爽やかじゃないのは、カイの心中と、バニーガールという怪しい外見だけだった。
これだけの思いをさせられているのに、結果はどうでもいい、とはこれいかに。
投票が終わった。
「コスプレースの今年の優勝は――」
場内にアナウンスが響き渡る。
「チーム昼飯、『カイさんチーム』です!」
盛大な拍手が沸き起こった。
「やったああ!」
歓喜に沸き立つ面々。皆抱き合って喜んだ。
肝心の、カイ以外は。
「いやあ。おかげ様で今年の祭りは盛り上がりました。本当にありがとうございました」
村の長が皆に厚く礼を述べた。
「とっても楽しかったです! たくさんご馳走にもなりましたし、とってもお世話になりました! 本当にありがとうございました!」
一同、村の長や村人たちに深々とお辞儀をした。
「ところで、この村は、どのペガサスの赤ちゃんを育てることにしたんですか?」
ミハイルが、村の長に尋ねた。「感動物質」はもう抜けていた。
「この格子柄の子に決めました」
タータンチェック柄のペガサスだった。
「名前はもしかして、タータン?」
キースが笑顔で尋ねる。やはり「感動物質」はもう抜けている。
「いえ。『こうし』です」
「馬なのに、子牛!」
思わずキースは笑ってしまった。しかし実は「子牛」、ではなく「格子柄」のこうし、だ。
馬じゃないもん、「こうし」は、キースを蹴る素振りをした。
「ははは! ごめんごめん!」
「タータン」という名も安直だが、「こうし」もすこぶる安直である。でも、こうしは意外にも自分の名前を気に入ったようだった。
「それでは、村の皆様、本当にありがとうございました!」
「皆さん、どうかお気をつけて……! よい旅でありますように……!」
ヒヒーン。
ルークと、こうしや他の赤ちゃんも、いななきで別れの挨拶をしあった。
やはり鳴きかたが、まさに「馬」だった。
「カイ。優勝は、カイのウサギちゃんのおかげだぞ」
キースは笑いつつ、触れてはいけない部分に言及する。
「ウサギじゃないです!」
カイは素振りではなく、キースに蹴りをお見舞いした。
カイの勇姿は、三つの村に深い感動を残し、祭りの伝説回としてこの先も語り継がれていくことを――、カイは知る由もない。




