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旅男!  作者: 吉岡果音
第八章 実りの季節
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第49話 三つの村の合同祭

 豊かな秋の恵みは、あたたかなもてなしの料理となってテーブルに並ぶ。

 キースたちは、村の長の屋敷で盛大な歓待を受けていた。

 楽しい宴が進むうち、自然と話題は明日の合同祭の話になっていく。


「祭りでは、毎年恒例の競技があるんです」


 村の長の説明によると、祭りのメインイベントとして、毎年恒例の競技が行われるらしい。


「えっ? それってどんな競技?」


 楽しそうな話に、キースが身を乗り出す。


「『必殺! 秋の大感謝祭わくわく・コスプレース』です」


「『コスプレース』?」


 初めて聞くワード。しかし、どこか聞いたことあるような、とキースは思った。


「コスプレを競うレースです」


「コスプレ! そういうことか!」


 なんと、この世界にもコスプレという概念があった。


 村の祭り、攻めている……!


 キースは、村人たちの娯楽の方向性に舌を巻く。


「このレースは、五人以上のチームで挑むチーム戦です。コスプレをするのは、チームを代表する一名のみです。他のチームメンバーには、それぞれ役割があります。制限時間内、協力し合っていかに素晴らしいコスプレが完成されるか、観戦者の投票で優勝が決まるというレースです」


「五人以上……。あっ! 俺たちちょうど参加できるじゃないか!」


 キース、アーデルハイト、カイ、ミハイル、宗徳、そして妖精のユリエ。六名なので、参加可能だった。


「どんなレース? どんなレース?」


 妖精のユリエが、楽しそうに村の長の周りを飛び回りながら、詳しい説明をせがむ。村の長が、笑顔で語る。


「では、チームメンバーそれぞれの役割を説明しながら、レースの流れを紹介します。まず、一番目の走者の役割です。それは、食べること」


「食べること?」


 まず競技に食べるフェーズがある、そこに驚いた。


「コース内の用意されたテーブルまで走り、この地域の特産の巨大豆、『でかまめん』の実を食べます。そのためこの一番走者は、『でかまめんメン』と呼びます」


「『でかまめんメン』!」


 一番目の走者、呼称がトリッキーだった。


「『でかまめん』は非常に美味しい豆ですが、巨大なさやの中に大きな豆が四つ入っています。さらに、『でかまめん』には、『感動物質』という成分が入っていて、食べると感動し、人によっては笑い、人によっては泣き出します。ですから、素早く完食するのは難しい食べものです」


「へえええ! 『でかまめん』、ちょっと怖くない!?」


 一同、目を丸くした。

 いやいや、無害ですし大丈夫です、と村の長は説明を続けた。


「実を食べ終えたら、一番目の走者は二番目の走者のところまで走り、食べ終えた『でかまめん』のさやの部分を渡します。さやを渡された二番目に当たる者は、そのさやに両足を突っ込んで走ります。両足を入れるので、走るというより飛び跳ねて進みます。この走者は『飛び跳ねん』と呼ばれます」


「『飛び跳ねん』!?」


 またしてもトリッキー、しかしそこは『飛び跳メン』ではないのか、と一同ざわざわし始める。あくまでそこは『飛び跳ねん』らしい。村の長の説明は淀みない。


「さやにも『感動物質』が残っているので、二番目の走者も感動して笑うか泣くかしながら、第三走者の地点まで飛び跳ねて進みます」


「『感動物質』、食べなくても影響あるんだ……」


 さらに、引く。一同の反応、引き潮のごとし。


 この村、実はやばいのでは……。


 キースたちの頭の中、もしや都市伝説などに登場するカルト村なのでは、という疑念が生まれる。キースたちの反応を見て、村の長は、「でかまめん」はこの地方では一般的な食材で、決しておかしな薬物などではない、と笑顔を交えつつ語った。


「『感動物質』による影響はごく一時的なもので、危険なものではありません。ハイになる、ちょっとおちゃめな成分です。むしろ、心身によい影響があると言われています」


 ちょっとおちゃめ……。


 でかまめんは、古来よりこの地域で親しまれている「ちょっとおちゃめなマメ科の植物」らしい。


 ちょっとおマメ……。


 マメなだけに、とキースは思う。

 皆が納得し和んだ空気になったことに安心したのか、村の長の説明は続く。


「第三走者のいる場所の先に、目的ポイントがあります。そこには、たくさんの服や着ぐるみが用意されています。コスプレ衣装です。三番目の走者は、二番目の走者が到着したら、目的ポイントへ走ります。そして目的ポイントで、コスプレイヤーに合いそうな衣装を探します。衣装は早いもの勝ちということになるのですが、観戦者の投票で順位が決まるレースなので、美しければいい、というわけではありません。あえて楽しさを出すために着ぐるみを選んで、高評価につながる場合もあります。その辺の判断もレースの勝敗のかなめになってきます。三番目の走者は、『三番メン』と呼ばれます」


「そこは名前が雑だなあ!」


 スタイリストメン、とかじゃないんだ……。


 ただの順番メンだった。


「三番目の走者が衣装を選んだら、次の地点で待機しているコスプレイヤーのところまで走ります。つまりコスプレイヤーが、四番目の走者になります。コスプレイヤーは、着替えスペースまで『三番メン』と共に走り、『三番メン』に服を着せてもらいます。そして、走者ではない残りのメンバーが、コスプレイヤーに化粧や小道具など最終的な装飾を施します。着替えスペースには、ウィッグや持ち物など様々な小道具がご用意してありますので、さらに変身させることが可能です」


「食べる人、飛び跳ねる人、選んで着せる人、メイクなどの仕上げをする人たち、コスプレイヤー、以上の五人以上が一チームってわけかあ!」


「制限時間がありますので、早く食べること、速く走ることが重要な要素になっています」


「ずいぶん変わったレースだねえ!」


「開催地が三つの村で毎年変わりますし、それに伴い服や小道具も毎年新しくなります。それに、あくまで観戦者のウケ具合で勝敗が決まるレースなので、毎年どのチームが勝つかわからない、強豪チームというものがない、どなたでも楽しめるレースなのです」


 村の長はにっこりと笑った。


「どうでしょう? 参加してはくださいませんか?」


 一同、ふたたび顔を見合わした。皆、笑顔になっていた。


「ぜひよろしくお願いします!」




「でかまめん」は、やはりでかい豆だった。さやの中に、大きな実が四つ入っている。

 ミハイルが、一番目、『でかまめんメン』だった。問題の感動物質は――。


「あははははは!」


 ミハイルは、笑うタイプだった。

 

「あははははは!」


 笑いながら、ひたすら巨大な実を食べ続ける。


「おーいしーい!」


 美味しさに感動しながら、笑っているようだった。

 小柄で痩せているミハイル。食べ終えたのは、参加者の中で一番最後だった。


「ミハイル、よく頑張ったーっ!」


 ミハイルから、さやを受け取ったのは――、キースだった。


「ミハイル、健闘、実に素晴らしかったぞーっ!」


 さやに両足を入れたキースは、涙を流していた。

 キースは意外にも、泣くタイプのようだった。


「どりゃあああ!」


 キースは涙を流しつつ、爆走、「爆跳ね」した。さやに両足を突っ込みながら、ぴょんぴょん跳ねた。

 あっという間に前方にいた他の参加者たちをごぼう抜きにし――マメなのにごぼう――、一位で第三走者の地点に着いた。


「宗徳―っ! 後は頼んだあああ!」


 泣きながら、宗徳にバトンタッチ。三番目は宗徳だった。


「任せろ! 俺が素晴らしい衣装を見つける!」


 宗徳の、センスが問われるところだった。

 

 がしっ!


 宗徳は、迷わず衣装を掴んだ。

 それは、バニーガール衣装だった。


「これを俺に着せるんですかああーっ!」


 コスプレイヤーは、カイだった。


「着せる」


 宗徳は、真顔で言い切った。


「だから嫌だって言ったんですよーっ! コスプレイヤーはーっ!」


 カイ以外、満場一致でカイが選ばれていた。

 宗徳は、嫌がるカイの手を引き、着替える場所へ連れて行く。

「感動物質」を摂取していないが、カイの黒の瞳には涙が――。


「うむ。俺の見立ては正しい」


「どこが正しいんですかーっ!」


 うなずく宗徳。叫ぶカイ。

 大きな黒いウサギ耳。黒のレオタードに白くまあるいかわいい尻尾――。見事な「ウサギちゃん」ぶりだった。


「メイクは任せて!」


 アーデルハイトとユリエが素早くメイクを施す。


「な、な、な、なんでこんなことにいいいー……」


「カイ。ちょっと黙ってて。化粧ずれちゃう」


 アーデルハイトとユリエの、職人技ともいえそうなメイク技術がさく裂する。


「完成―っ!」


 制限時間を余裕で残し、完成した。


「あははははは!」


 ミハイルが笑う。


「カイーッ! お父さんは嬉しいぞーっ!」


 キースが泣く。花嫁衣裳を見た父のように。


「なんでお父さんになってるんですかー!」


 カイだけが不満げだった。皆、満足そうにうなずき合い、それぞれ自分の額の光る汗をぬぐった。


 いい仕事をした――。


 結果はどうでもいい。ただ、自分は自分のベストを尽くした――、皆、爽やかな達成感に包まれていた。


「ぜんっぜん、爽やかなんかじゃない……!」


 爽やかじゃないのは、カイの心中と、バニーガールという怪しい外見だけだった。

 これだけの思いをさせられているのに、結果はどうでもいい、とはこれいかに。




 投票が終わった。


「コスプレースの今年の優勝は――」


 場内にアナウンスが響き渡る。


「チーム昼飯、『カイさんチーム』です!」


 盛大な拍手が沸き起こった。

 

「やったああ!」


 歓喜に沸き立つ面々。皆抱き合って喜んだ。

 肝心の、カイ以外は。




「いやあ。おかげ様で今年の祭りは盛り上がりました。本当にありがとうございました」


 村の長が皆に厚く礼を述べた。


「とっても楽しかったです! たくさんご馳走にもなりましたし、とってもお世話になりました! 本当にありがとうございました!」


 一同、村の長や村人たちに深々とお辞儀をした。


「ところで、この村は、どのペガサスの赤ちゃんを育てることにしたんですか?」


 ミハイルが、村の長に尋ねた。「感動物質」はもう抜けていた。


「この格子柄の子に決めました」


 タータンチェック柄のペガサスだった。


「名前はもしかして、タータン?」


 キースが笑顔で尋ねる。やはり「感動物質」はもう抜けている。


「いえ。『こうし』です」


「馬なのに、子牛!」


 思わずキースは笑ってしまった。しかし実は「子牛」、ではなく「格子柄」のこうし、だ。


 馬じゃないもん、「こうし」は、キースを蹴る素振りをした。


「ははは! ごめんごめん!」


「タータン」という名も安直だが、「こうし」もすこぶる安直である。でも、こうしは意外にも自分の名前を気に入ったようだった。


「それでは、村の皆様、本当にありがとうございました!」


「皆さん、どうかお気をつけて……! よい旅でありますように……!」


 ヒヒーン。


 ルークと、こうしや他の赤ちゃんも、いななきで別れの挨拶をしあった。

 やはり鳴きかたが、まさに「馬」だった。




「カイ。優勝は、カイのウサギちゃんのおかげだぞ」


 キースは笑いつつ、触れてはいけない部分に言及する。


「ウサギじゃないです!」


 カイは素振りではなく、キースに蹴りをお見舞いした。

 カイの勇姿は、三つの村に深い感動を残し、祭りの伝説回としてこの先も語り継がれていくことを――、カイは知る由もない。

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