三つの村の合同祭
祭り前夜。村中の人々が集まって、楽しく食べて飲んだ。
キースたちも、笑顔に囲まれていた。
「ぜひ皆様、今宵は我が家でおくつろぎください」
一同、村の長の屋敷に泊めてもらうことになった。
翌朝は快晴だった。
「祭りでは、毎年恒例の競技があるんです」
村の長が笑顔で話す。
「えっ? それってどんな競技?」
楽しそうな話にキースが身を乗り出す。
「『女装男装レース』です」
「『女装男装レース』?」
「はい。それは、五人以上のチームで挑むチーム戦です。指定時間内にチームメンバーの一人を女装か男装かさせ、観戦者の投票で優勝が決まるレースです」
「五人以上……。あっ! 俺たち参加できるじゃないか!」
キース、アーデルハイト、カイ、ミハイル、宗徳、そして妖精のユリエ。ちょうど五人以上のチームとなっていた。
「どんなレース? どんなレース?」
妖精のユリエが楽しそうに村の長の周りを飛び回りながら、説明の続きをせがむ。
「まず、チームの一人目が、この地域の特産の巨大豆、『でかまめん』の実を食べます」
「『でかまめん』!」
「『でかまめん』は美味しいですが、さやの中に大変大きな豆が四つ入っています。さらに、『でかまめん』には、『感動物質』という成分が入っていて、食べると感動し、人によっては笑い、人によっては泣き出します。ですから、早く食べるのは難しい食べ物です」
「へえええ! 恐るべし! 『でかまめん』!」
一同目を丸くした。
「実を食べ終わったら、チームの二人目に『でかまめん』のさやの部分を渡します。さやを渡された二人目に当たる者は、そのさやに両足を突っ込んで走ります。両足を入れるので、走るというより飛び跳ねて進みます」
「ふーん」
「さやにも『感動物質』が残っているので、二番目の者も感動して笑うか泣くかしながら目的ポイントまで飛び跳ねて進みます」
「うーわ! なんか大変そう!」
一同顔を見合わす。
「目的ポイントには、たくさんの服や着ぐるみが用意されています。女装、男装用の衣服です。二番目の走者は、目的ポイントで待機しているチームの三番目の者にバトンタッチします。三番目の者は、女装か男装させるチームメンバーに合いそうな服を見つけます。高評価につながりそうな服を見つけるため、他のチームより早く着くのが勝利へのコツです。とはいっても、競技の観戦者の投票で勝負が決まるレースなので、美しければいい、というわけではありません。あえて楽しさを出すために着ぐるみを選んでよい結果につながる場合もあります。その辺の判断もレースの勝敗のかなめになってきます」
「ふうん! 面白いなあ!」
「三番目の者は衣装を選んだら、女装男装させるチームメンバーに選んだ服を着せます。女装男装の役割の者は、着替えスペースで三番目の者に服を着せてもらいます。そして、残りのメンバーが女装男装の役割の者に化粧を施します。ウィッグや様々な小物もご用意してありますので、自由に変身させることが可能です」
「食べる人、走る人、選んで着せる人、メイクする人、女装男装される人、以上で五人以上が一チームってわけかあ!」
「制限時間がありますので、早く食べることと速く走ることも重要な要素になっています」
「ずいぶん変わったレースだねえ!」
「開催地が三つの村で毎年変わりますし、それに伴い服や小道具も毎年新しくします。それに、美しさを競うのではなく、あくまで観戦者のウケ具合で勝敗が決まるレースなので、毎年どのチームが勝つかわからない、強豪チームというものが特にない、どなたでも楽しめるレースなのです」
村の長はにっこりと笑った。
「どうでしょう? 参加してはくださいませんか?」
一同、ふたたび顔を見合わした。皆、笑顔になっていた。
「ぜひよろしくお願いします!」
「でかまめん」は、やはりでかい豆だった。さやの中に、巨大な実が四つ入っている。
ミハイルが、一番目、食べる役となっていた。
「あはははははははは!」
ミハイルは、笑うタイプだった。
「あはははははははは!」
笑いながら、ひたすら巨大な実を食べ続ける。
「おーいしーい!」
美味しさに感動しながら笑っているようだった。
小柄で痩せているミハイル。食べ終えたのは、参加者の一番最後だった。
「ミハイル、よく頑張ったーっ!」
ミハイルから、さやを受け取ったのは――、キースだった。
「ミハイル、健闘素晴らしかったぞーっ!」
さやを両足に入れたキース。涙を流していた。
キースは意外にも、泣くタイプのようだった。
「どりゃああああああ!」
キースは涙を流しつつ、爆走、「爆跳ね」した。さやに両足を突っ込みながら、ぴょんぴょん跳ねた。
あっという間に前方にいた他の参加者をごぼう抜きにし、一位で目的ポイントに着いた。
「宗徳―っ! 後は頼んだああああ!」
泣きながら、宗徳にバトンタッチ。三番目は宗徳だった。
「任せろ! 俺が素晴らしい衣装を見つける!」
宗徳の、センスが問われるところだった。
がしっ!
宗徳は、迷わず選んだ。
バニーガールだった。
「これを俺に着せるんですかああーっ!」
女装男装役である四番目は、カイだった。
「着せる」
宗徳は、真顔で言い切った。
「だから嫌だって言ったんですよーっ! 女装役はーっ!」
カイ以外、満場一致でカイが女装役に選ばれていた。
宗徳は、嫌がるカイの手を引き、着替える場所へ連れて行く。
「感動物質」を摂取していないが、カイの黒い瞳には涙が――。
「うむ。俺の見立ては正しい」
「どこが正しいんですかーっ!」
うなづく宗徳。叫ぶカイ。
大きな黒いウサギ耳。黒のレオタードに白くまあるいかわいい尻尾。首や手首に白い襟と白い袖口、蝶ネクタイ。そしてなにより、魅惑の網タイツに真っ赤なハイヒール。
「メイクは任せて!」
アーデルハイトとユリエが素早くメイクを施す。
「な、な、な、なんでこんなことにいいいー……」
「カイ。ちょっと黙ってて。ルージュ付けてるから」
アーデルハイトとユリエの、職人技ともいえそうなメイク技術がさく裂する。
「完成―っ!」
制限時間を余裕で残し、カイの女装が完成した。
「あははははははははははは!」
ミハイルが笑う。
「カイーッ! お父さんは嬉しいぞーっ!」
キースが泣く。花嫁衣裳を見た父のように。
「なんでお父さんになってるんですかー!」
カイだけが不満だった。皆、満足そうにうなづき合い、それぞれ自分の額の光る汗をぬぐった。
いい仕事をした――。
結果はどうでもいい。ただ、自分は自分のベストを尽くした――、皆、爽やかな達成感に包まれていた。
ぜんっぜん、爽やかなんかじゃない……!
爽やかでないのは、カイの心中と、カイのバニーガールという妖しい外見だけだった。
観戦者の投票が終わった。
「女装男装レースの今年の優勝は――」
場内にアナウンスが響き渡る。
「チーム昼飯、『カイさんチーム』です!」
盛大な拍手が沸き起こった。
「やったああああ!」
歓喜に沸き立つ面々。皆抱き合って喜んだ。
肝心の、カイ以外は。
「いやあ。おかげ様で今年の祭りは盛り上がりました。本当にありがとうございました」
村の長が皆に厚く礼を述べた。
「とっても楽しかったです! たくさんご馳走にもなりましたし、本当にお世話になりました! 本当にありがとうございました!」
一同、村の長や村人たちに深々とお辞儀をした。
「ところで、この村は、どのペガサスの赤ちゃんを育てることにしたんですか?」
ミハイルが村の長に尋ねた。「感動物質」はもう抜けていた。
「この格子柄の子に決めました」
タータンチェック柄のペガサスだった。
「名前はもしかして、タータン?」
キースが笑顔で尋ねる。やはり「感動物質」はもう抜けている。
「いえ。『こうし』です」
「馬なのに、子牛!」
思わずキースは笑ってしまった。
馬じゃないもん、「こうし」は、キースを蹴る素振りをした。
「ははは! ごめんごめん!」
「タータン」という名も安直だが、「こうし」もすこぶる安直である。でも、こうしは意外にも自分の名前を気に入ったようだった。
「それでは、村の皆様、本当にありがとうございました!」
「皆さん、どうかお気をつけて……! よい旅でありますように……!」
ヒヒーン。
ルークと、こうしや他の赤ちゃんも、いななきで別れの挨拶をしあった。
やはり鳴きかたが、まさに「馬」だった。
「カイ。優勝は、カイのウサギちゃんのおかげだぞ」
思わずキースは笑ってしまった。
「ウサギじゃないです!」
カイは素振りではなく、キースに蹴りをお見舞いした。
カイの女装姿の勇姿は、三つの村に深い感動を残し、祭りの伝説回としてこの先も語り継がれていくことを――、カイは知る由もない。




