その形式は邪魔ですので、勇者様にはここで死んでもらいますね
「ったくどうなってるんだ。 入口は変な岩が立ってて入りにくいし、中にはモンスターの1匹もいやしねえ」
静まり返った大広間の扉が開き、1人の男が入ってくる。
ようやく来たか。
「待ちわびたぞ、勇者よ」
「フン、ようやくお出ましか」
目の前に勇者がいる。
ルシアの望みのため、正面から対峙する。
「大悪魔ラピア、お前が中ボスだな!」
「なに?」
ちゅうぼす、とは?
「ここまで何の障害もなく来ちまったからな、少しは歯ごたえあってくれよ!」
「なっ!?」
一瞬で距離を詰められて、手に持った剣が振り下ろされた。
防御など間に合わない速度、もし間に合ったとしても勇者が相手では何の役にも立たなかったかもしぬが。
無抵抗に肉体を切り裂かれ、傷口から噴き出した血が辺りを染める。
「ガハッ!?」
なんという斬撃……、だが。
「何っ!?」
妾の傷が一瞬で塞がることで、勇者の顔が驚きに染まる。
「チィ、なんだってんだ」
そのまま畳みかけることを躊躇したらしく、一旦様子を見ることにしたのか距離をとった。
これで多少は話ができるか。
「やれやれ、まさかいきなり襲いかかって来るとはな」
「お前達魔族に容赦なんてモノ不要だろうが」
「そこはお互い様だな、だが妾は話をするために待っていたのだ」
「あん、話だと?」
正確には妾ではなく、ルシアがだが。
「貴様に会いたいと言っている者がいてな、紹介しよう」
玉座の後ろに隠れていたルシアが前に出る。
「我が妻、ルシアだ」
想定外だったのか、勇者は数秒呆けていたが。
しばし後で我にかえり。
「無事だったのかルシア、心配したんだぞ!」
「やめてください、貴方なんかに名前を呼ばれたくはありません!」
「なっ!?」
拒絶されるとは思わなかったのか、またも勇者の動きが止まってしまう。
まあ仕方あるまい、「男だから」という理由で嫌われているなどとは予測できないであろう。
「そういえばさっき『我が妻』といったな、貴様がルシアを拉致したのか!」
む、妾に矛先が向くか。
「ソイツに拉致されて精神操作を受けたんだな、俺が今すぐ助け出してやる!」
「あんなことを言っておるぞ、完全に妾が悪者ではないか」
押しかけられた側なのだがな。
あまりにも自身の都合で考え過ぎではないか。
「勇者様、『聖なる加護』で私に精神操作の類が効かないのは勇者様もよくご存じでしょう」
「だが、それはお前の本心じゃないんだろう!」
「いいえ、私は私の意志でラピア様と添い遂げるんです。 貴方と結婚はしません」
「おかしいだろう、勇者と聖女は……」
勇者の体から力が抜ける。
先程までの威勢の良さは完全に消えてしまっていた。
「その形式は邪魔ですので、勇者様にはここで死んでもらいますね」
トドメの一言を叩き込んだ。
ってはい!?
ここで勇者を始末するだと、聞いておらぬぞ!?
「ふざけるなあああああああああ!」
勇者が咆哮する。
だがそこに、先程までの力強さは存在しない。
「大悪魔ラピアあああああああああ!」
「フン!」
勇者の剣による斬撃を同じく手に持った剣で受け止める。
勇者としての固有能力を失えばこんなものか。
「バカなっ!?」
「本来のチカラはこの程度か、弱いな」
鍔迫り合いの状態から弾き飛ばす。
勢いを殺し切れず、勇者は無様に転がった。
「何が起こったんだ、体が重い……」
「そんなことも分からぬのか、ここは魔界だから人間は100%のチカラなど発揮できんぞ」
「そんなことは分かっている、だが勇者である俺には影響無いハズだ!」
「何を言うかと思えば、貴様はもう勇者などではないぞ」
魔王はもう妾とルシアで倒してしまったのだから。
「契約不履行だ、魔王討伐を果たせなかった貴様に勇者を名乗る資格は無い」
「バカなことを言うな、別の誰かが魔王を倒したっていうのか!」
まさか、ここまで愚かだったとは……。
「気づいておらぬのか、魔王ならそこに転がっているだろう」
床に倒れている魔王の亡骸を指さす。
「なっ!?」
「魔王は既に妾とルシアで討伐した、貴様はもうただの人間だよ」
「でも安心してくださいね、聖教会には魔王と相打ちになって名誉の戦死を遂げたと報告しますから」
「だそうだ。 喜べ、真実はともかく貴様は英雄になれるそうだぞ」
「死んで英雄になったって、嬉しいわけがないだろう!」
ワガママなヤツだな。
「でも勇者としてのチカラを失った状態で聖教会に戻ってどうするんですか、魔王の討伐に失敗した立派な証拠ですよ?」
「真実を報告してお前のやったことを糾弾する、悪魔に魂を売った女め!」
「いやです勇者様、ラピア様のことは愛してますけど魂は売ってませんよ」
「確かにルシアと契約なんてものは一切しておらぬ、『ぷろぽおず』とやらはしたがな」
アレは口約束で悪魔との契約が成立しているわけではない。
だから妾とルシアに間にお互いの関係を縛るモノは何もない。
それでも、お互いが望んで2人でいるのだ。
「それにもう忘れたんですか、勇者様にはここで死んでもらうので聖教会に真実の報告なんてできませんよ?」
「ルシアの望みなのでな。 終わりだ、かつて勇者と呼ばれた者よ」




