ラピア様もそういうところは女の子ですね
「さて、今日はもう休むか……いやその前に」
「何かあるんですか?」
やはり、臭いな。
ルシアが来る前に戦闘もあったから血の臭いもする。
「風呂に入るぞ」
「お風呂あるんですか!」
ずいっと来られる。
パターンはわからぬが、琴線に触れると距離を一気に詰めて来る人間だな。
「う、うむ。 やはり毎日入らぬと落ち着かないのでな」
「ラピア様もそういうところは女の子ですね」
「否定はせん」
それに、これからはルシアと共に生きるのだからな。
不潔なイメージは持たれたくない。
とは、直接言えなかった。
「全く。 本来人間の恋愛感情を弄ぶハズの悪魔が、恋愛で人間相手に手玉に取られるとは……」
「何か言いました?」
「いいや、なんでもないぞ」
まあ、人間相手に添い遂げようとする悪魔なんて初であろうし。
これから前例の無い事象など、山ほど出てこよう。
共に生きると決めたからにはそれを受け止めねばな。
「毎日使ってるだけあって、浴室は綺麗ですね」
「寝室と浴室だけは手入れしている、他は手が回らんし放置しているが」
「お掃除、した方がいいかな」
「そういえば、ルシアの寝床を用意し」
「ラピア様と一緒に寝ます!」
お、おう。
今度は言い終わる前に来た。
それだけルシアにとって大事なことなのであろうから、尊重してやらねばな。
「それで、お湯はどうするんです?」
「魔法で出す、長年続けているから温度調節は完璧だぞ」
ドバーっと出して、あっと言う間にお湯張りが終わった。
これでよし。
「さあラピア様、一緒に入りましょう♪」
「いや……それはまだ早いというか、獲物を狙うような目をするな怖いぞ」
「一緒に入ってくださらないのなら、ラピア様の入浴を覗きます!」
意味がわからぬ!?
しかしなぜこうもルシアの押しに弱いのか。
結局妾が折れて風呂は一緒に入った。
覗くことになんのメリットがあるのかは不明だが、物凄く嫌な感じがしたので問うことなど出来はしなかった。
「ラピア様はお肌がスベスベで、若いっていいですね」
「妾の方が年上だが、それにルシアも人間の中では若い部類であろうに」
「長寿種が羨ましい!」
それが本音か。
「そんなに長寿種がいいのなら叶えてやるぞ、当然代償はいただくが」
「わあ、凄い悪魔っぽいですね」
「っぽいではなく、悪魔そのものだが」
「でも、やめておきます」
「なぜだ、死なれては困るから魂など要求せんぞ」
本音を言えばルシアなら特別サービスとして無償でもいい。
「人間であることが聖女の条件なので、人間であることを辞めると『聖なる加護』も失われてしまうんですよ」
「む……、ではダメか」
『聖なる加護』があるからこそルシアと一緒にいられるのだから、それを消してしまうのは本末転倒だ。
簡単にはいかぬものだな。
「そう、私はラピア様を残して逝ってしまうことがもう決定しているんですね」
「……そうだな」
悪魔と人間では、寿命が違い過ぎる。
今は若いルシアも、確実に妾を置いて逝ってしまう。
また1人に戻った時、耐えられるのだろうか。
後から出会わなければ良かったなどとは、思いたくない。
「……探すか」
「何をですか?」
「ルシアが人間のままで、不老不死になる方法をだ」
「ええ!?」
そこまで驚くことか。
「共に生きたいと願うのであれば、当然の考えだろう」
「でも、それって……」
「そうだ、人間であることを逸脱して不老不死を得る方法ならいくらでもある。 というか妾にも可能だ」
だがそれで『聖なる加護』が消えてしまうというのなら、人間であるままの方法を探さねばなるまい。
「でも、そんな話聞いた事ありませんよ」
「ルシアの言う通り未知の領域だ、だがやらねばなるまい」
先日まで何もかもを諦めていた身だというのに、よくもまあこんな前向きな言葉が出て来るものだ。
出会ってから1日足らずでルシアはかけがえのない存在になってしまった。
妾らしくもない、だが悪くない。
「それにな、先程風呂で見たそなたのカラダは美しかった」
「な、なんですか急に!」
「一緒に同じ時を過ごしたいというのはもう妾の願いでもある、ということだ」
「ラピア様は人間……というか、女のカラダに興味がないのかと思ってました」
「そうだな、これではまるで淫魔のようだ」
だが本音なのだから仕方ない。
自分の変化を、こんなにも安らぎながら受け入れられる。
これが愛なのかは不明だが、不思議なものだな。
「さて、今後の道しるべも決まった。 今日はもう寝るとしようか」
「じゃあ!」
「当然ルシアの望み通り、同じ寝具でな」
「わーい!」
ルシアが飛び込んでくる。
触れた感触と、温もりが愛おしい。
悪魔にも、こんな感情が芽生えるのだな。
「おやすみなさい、ラピア様」
「ああ、おやすみルシア」
こんなにも心地よい気分で眠りにつくのはいつ以来だろうか。
そんな思考も、眠りに落ちる中で溶けて消えていった。




