角や翼を隠すのはともかく、それ以外は今のままでいてください!
「ラピア様、お腹がすきました!」
「……そういえば、人間は食事をしなければ生命を維持できないのだったな」
「悪魔は違うんですか?」
「悪魔というか妾個人はな、『ネーディスクリミネシオ』で直接生命力を奪えるから不要なのだ」
しかし、少し困ったことになったな。
「勇者様の所から離れた時に、一応携帯食はくすねてきたんですけど」
「それでは一時しのぎにしかならぬだろう、人間でも食べられる食料を調達してこなければな」
「それなら私も連れていってください」
「しかしルシアはここに来たばかりで疲れておろう、ゆっくり待っておれ」
「でもラピア様は人間が食べられるモノとそうでないモノの見分けがつきませんよね」
うむ、その通り。
そもそも魔界で人間が食べられるモノがあるのかも知らぬ。
何も言い返せなかったので、あっさり白旗を上げた。
「見てください、この木の実は食べられますよ」
「大丈夫なのか、魔界の瘴気によって変質している可能性もあるのだぞ」
「元からある毒とかでしたら危ないですけど、魔界の瘴気が原因ならそれこそ『聖なる加護』で無効化できますから」
「……力業だな」
無知なせいで完全に役立たずになってしまっている。
選別は任せるしかないとはいえ、なにかルシアのためにできることは……。
む、あれは……。
丁度いいところに。
「あれは……、モンスターですか?」
「いいや違う、魔界の環境に適応した獣だ。 確か人間は『イノシシ』とか読んでいたか」
「なんか、こっちを睨みつけてるんですけど」
「我々を食事と認定したのだろう、アレの肉を人間は食べられるのか?」
「はい、幼い頃は故郷でのご馳走でした」
よし!
「では、今夜はご馳走だな。 逆に喰ろうてやろうぞ」
「はい!」
「では下がっていろ、『ネーディスクリミネシオ』!」
固有能力を展開する。
ルシアには効かないのだから、出し惜しみは必要ない。
「援護します!」
「この程度の雑魚なら不要だ、『拘束する』!」
イノシシとやらの影が妾の魔法で動き、本体の身体に纏わりつく。
暴れようとするものの、身動きがとれず動きも次第に弱くなっていく。
「動きを止めてしまえば後は生命力を吸い尽くしてお終いだ」
「……戦い方がえげつないですね」
「悪いが先にいただいた、これが妾にとっての食事なのでな」
「じゃあお屋敷まで運びましょうか」
「そやつは見た目通り結構重いぞ」
既に死んでて自力で動けないから、魔法で浮かせてもその場でプカプカするだけだしな。
「仕方ない、背負って運ぶしかないか」
「今度こそ支援しますね!」
「なに!?」
チカラが漲ってくる、軽々と持ち上げられるぞ。
「流石は支援に特化していると言われる聖女固有の神聖魔法、これ程とは」
「ふふっ、お力になれて良かったです」
「しかし、悪魔にも有効なのだな」
それでいいのか、神聖魔法。
「ご馳走様でしたっ!」
「見事な食べっぷりであったな」
「うっ、ちょっと恥ずかしいです……」
今日はひとまずこれでいい、が……。
「もしかしたら、人間界に移り住んだ方がいいかもしれんな」
「どうしてですか?」
「今日は上手くいったがな、毎日こうも順調に食料が手に入るとは限らんぞ」
「それは……」
「残った肉も魔界では保存が難しいしな」
魔界で人間が食料を確保するのはかなり難しい、今日のはたまたまでしかない。
「ラピア様は人間界でも大丈夫なんですか?」
「角や翼のことを言っているのなら、外見などいくらでも誤魔化せるのでな。 人間に正体がバレて襲われることなどなかろうよ」
「角や翼を隠すのはともかく、それ以外は今のままでいてください!」
「う、うむ?」
やけにそこだけ押しが強いな。
「そんなにこの姿が気に入っているのか?」
「それはもう!」
「ルシアがそこまで言うのなら、このままで人間に擬態するとしようか」
「わーい!」
こんなにも喜んでくれるのなら、お安い御用だな。
「ねえ、ラピア様」
「どうした?」
「もし人間界に移り住むのなら、私の故郷に来てください」
「ルシアの産まれ育った地、か」
「皆が私の好みを知っていますから、きっとラピア様のことも歓迎してくれます」
確かにここで刺客を返り討ちにする日々を続けるくらいなら、ルシアの故郷でゆっくりと暮らす方が余程有意義であろう。
「良い提案だ、検討しておこう」
「即決じゃないんですか?」
「今すぐ人間界に行っても、聖女としての役目を放棄したとみなされるであろう?」
「あっ……」
こやつめ、忘れておったな……。
「そういうことだ、大手を振って帰れる方法を何か考えねばな」
「そうですね……」
勇者が魔王と討伐するのを待つ、か?
いや、それでは勇者の口から真実が語られてしまう。
うーむ……。
「直ぐには出てこぬな、今後の課題ということにしよう」
「はい、私も何か考えてみます」
2人で生きるというのは、意外と難しいものだな。




