ああ、永遠に誓うとも。 だから不老不死となりずっと妾の隣にいるがいい
「ついに、この日が来たか」
「はい、私はずっと待っていました」
「お嬢様サイズのウェディングドレスを仕立てるのに時間がかかったので、仕方ないであります」
「人間はこれくらいの身体の頃には、まだ結婚とやらはしないのだったか」
見た目を変化させるくらいならいくらでも可能なのだが……。
「ラピア様はその姿がいいんです、本当は角や翼も隠してほしくないんですから!」
「魔法も使わずに考えを読むでない」
「それだけルシア様がお嬢様のことを理解したということであります」
「む、そういうものか」
「それよりも、ルシア様に言わなければならないことがあるでありましょう」
ウリユに促されて、ルシアと正面から向き合う。
そうだな、確かに大事な言葉を掛けるべきであったな。
「美しいぞ、ルシア」
「ラピア様も、とっても可愛らしいです」
「さあ、行くでありますよ」
建物を出ると、村人全員がこの場にいるのではないかと言わんばかりの数の人間共が我々を出迎えていた。
「ルシアちゃん、奇麗だよー!」
「いやあ、めでたいめでたい」
「ねえ、もしかしてラピアちゃんってアリだったんじゃない?」
「お前もか!」
聞き取れない程色々なことを言いたい放題な人間共をかき分け、辿り着いた先は……。
「教会……だと……?」
「はい、結婚式ですから!」
「いや、前にも言ったが妾は悪魔だぞ?」
「大丈夫ですよ。 ただの建物で特殊なチカラに満ちてるわけではないですから、本部と違って」
「入った途端に身体が焼かれるとかそういった心配をしてはおらぬ、だがあまり気分のいい場所ではないな……」
しかしルシアの願いだ、致し方あるまい。
「さあ、永遠の愛を誓いましょう」
「まさかとは思うが神にか?」
「他にいませんけど」
ここは教会なのだからその通りであろうが、妾が神に?
「ぐぬぬ……」
「抵抗があるならこう考えましょう、聖女と悪魔が神の前で愛を誓うなんてこれ以上ないくらい神への冒涜じゃありませんか?」
「言われてみればそうだな、神が嫌がるというのならいくらでも誓ってやろうではないか!」
神への嫌がらせこそ、悪魔の真骨頂なのだからな。
「この場で、ラピア様に永遠の愛を誓います」
「ああ、永遠に誓うとも。 だから不老不死となりずっと妾の隣にいるがいい」
誓いの口づけを交わす。
愛しいルシアが目の前にいる。
遠くになどやるものか、ずっと妾の傍にいろ。
「ルシア、ウリユ。 準備はよいな、出発するぞ」
「せわしないねぇ、もっとゆっくりしていけばいいのにさ」
「ごめんなさいお母さん、私達にはやらなきゃいけなことがあるから」
「わかってるよ、聖女として世界同時多発スタンピードの影響を見て回らないといけないんだろう」
それは表向きの理由だが、やらなければならないコトでもある。
魔王のヤツめ、余計な置き土産を残してくれたものだ。
「とはいえ最重要なのはルシアを人間のまま不老不死にする方法を探すことだ、そこは間違えるでないぞ」
「お嬢様、アーディンブルグ家の再興はしないのでありますか?」
「何を言うかと思えば、去った連中を呼び戻す気など無いぞ」
「そうではなく新たに集めるのであります、今度はお嬢様の固有能力をどうにかできるメンバーだけで」
家の復興か、考えたこともなかったな。
とはいえ、ウリユの言うような者が簡単に見つかるとも思えぬが。
「なぜそのようなコトを言い出す、未練があったのか?」
「いえ、村を襲ったリーダーが言っていたのであります。 『次の魔王になる』と」
「でもその魔族はウリユが倒したんですよね、何が問題なんですか?」
「恐らく同じコトを考えて動き出した魔族はその一匹だけとは限らんということであろう、これは大事になるな」
「はい、人間界が魔族の勢力争いの場になるであります」
魔界でやればいいものを、ここまで魔王の計算づくだとでもいうのか?
いや、本人が既に死んでいる以上は考えても仕方あるまい。
「まさか妾に次の魔王になれと言うのではあるまいな、そんなことのために奴を始末したのではないぞ」
「承知しているであります、しかし連中は黙っておりますまい」
「次の魔王の座を狙う魔族共は妾が人間界にいるだけで無視はできぬ、か……」
「他の魔族はお嬢様も名乗りを上げたと考えるでありましょう、その時この人数では……」
弱小勢力だと思われて狙われる、か。
迷惑極まりないな……。
「考慮には入れておくとしよう、だが優先すべきはルシアだ」
「いっそのことラピア様が次の魔王になるのはどうでしょう?」
「それが本当にルシアの望みであればな、だが冗談であろう?」
「言ってみただけではあるんですけど、それもアリかなとは思ってます」
やれやれ、面倒事が多過ぎて魔界に帰りたくなってくるな……。
だが、それではルシアと共にいられる時間はあまりにも短い。
ならば、やるべきことは最初から変わらない。
「それに、悪いことばかりでもないのでな」
「ラピア様?」
「ルシアよ、そなたと出会って妾の世界は広がった」
そう、あの場所から。
「妾にとって世界とはあの屋敷と、侵入してきた人間だけだった。 だがルシアはそこから連れだし、未知の場所だった人間界まで来ることとなった」
「ラピア様……」
「1人ではそのようなことは考えもしなかったであろう、全てはルシアのお陰だ」
そして、ルシアと共に生きるというのは妾が自分で選んだことだ。
そもそも相手になぞしなくてもよかったのだから。
だから。
「魔族の勢力争いなぞ知らぬ、だが妾とルシアの邪魔をしようというのなら全て蹴散らしてやろうではないか」
「その結果として次の魔王になってしまう可能性もあるでありますよ?」
「どうでもよい、そんなモノはフンドードッグにでも食わせてやれ」
「フンドードッグってなんですか?」
「魔界に住んでいる大人しい動物であります、サキュバスの里ではペットとして飼っている者もいたでありますね」
まあ、魔王の称号なんぞ妾にとってはその程度の価値ということだ。
「長話が過ぎたな、今度こそ出発するぞ」
「ルシア様の不老不死化、アテはあるのでありますか?」
「手がかりなぞ何も無い、0からのスタートだよ」
「不老不死の研究といったら錬金術師ですから、まずはそこから当たってみたらどうですか?」
「よかろう、ならばその錬金術師探しから始めるとしようか」
雲を掴むような話であることは承知している。
それでも、必ずや到達してみせよう。




