さて。 ここからが本番だぞ、まだいけるな?
「皆さん、私達も戦います!」
村外れの、前線で人間達が戦いの準備をしている場所でルシアの宣言が響き渡る。
「ありがてぇ、聖女と貴族様が加勢してくれれば勝率も上がるってもんだ」
「でもアンナが言うには凄い数なんだろ、やっぱりルシアとお嬢ちゃん達は逃がした方がいいんじゃないか?」
「何言ってんだ、皆で勝って家族のところに帰るんだよ!」
「本当に勝てると思っているのか、俺はどうなってもいいが女子供に何かあったら死ぬに死にきれねえよ」
何やら口論が始まる。
やれやれ、そんなことはいくら話合っても無駄だと教えてやらねばな。
「静まれ人間共!」
全力を籠めた一喝、それで場は誰もが口を止め静かになった。
「この場は我々3人で十分だ、下がっているがよい」
「何を言ってるんだ、いくら貴族様だってあれだけの数をどうにかできるわけない」
「フン、妾の前ではいくら集まろうと関係ないわ」
「本当です、ラピア様を信じてください」
「そうは言ってもなぁ……」
わかっていたことだが、貧乏貴族の小娘という設定では無理があるな。
もう正体を明かすと決めていたのだから今更ではあるが。
「ならば聞くがよい、我が名は大悪魔ラピア。 もう一度言うぞ、妾の前に敵の数など関係ないわ!」
実は少数精鋭が苦手、というのは黙っておく。
ここは威厳と説得力が大事なのだからな。
「お嬢様お嬢様」
「なんだ?」
「人間達が皆固まっちゃったであります」
「ラピア様が悪魔だということを処理しきれないみたいですね」
「石を投げられるよりは良いであろう、ついでに邪魔できぬようにしておくとするか。 『拘束する』!」
魔法で男共の影を操り動きを封じる。
これで背後から襲われることもなくなった。
悪魔だと知った途端に手のひら返されても困るのでな。
「む、もう『ネーディスクリミネシオ』の最大射程に入っておるな」
遠見の魔法で群れの位置を確認する。
もう直ぐにでも始めた方がよかろう。
「やるぞルシアよ、準備はよいな?」
「はい、いつでも!」
さあ、戦闘開始だ!
「奪い尽くせ、『ネーディスクリミネシオ』!」
「全てを護ってみせます、『聖なる結界』!」
闇が周囲を覆い、そこから村の敷地内だけを光が上書きする。
これで無差別攻撃の対象をモンスターだけに絞ることができる。
「これは、確かにとんでもない数だな……」
とてつもない勢いで生命力を奪えているのを感じる。
全てを喰われて倒れても後続が射程内に入り新たな収奪が始まる、その繰り返しだ。
先頭が遠見の魔法を使わない状態で有視界内に入って来る様子はない、やはり問題なく片付きそうだ。
「お嬢様、意見具申するであります!」
「どうした、ウリユよ」
「自分はここにいても出来ることがないので、リーダーを探しに行きたいであります」
「確かに、群れと一緒に行動しているとは考えにくいか」
雑魚だけ仕留めてリーダーを逃がしてしまうのは美味しくなかろうな。
であれば、ウリユの進言を受け入れた方がよいか。
「よかろう、言ったからにはやってみせるがよい」
「ありがとうございます、必ずや戦果を挙げてみせるであります!」
ウリユが単独行動をするというのなら、丁度よいな。
「その前に、渡すモノがある」
「お嬢様?」
ルシアの収納カバンから一振りの大剣を取り出す。
「持っていくがよい」
「この剣はなんでありますか?」
「魔装障壁を貫通する魔剣だ、敵のリーダーが上位魔族である可能性も捨てきれぬからな」
「そんな貴重な武器を、自分に……」
「妾に剣の心得は無いのでな、使える者が持っていた方がよいであろう」
こういった大剣の方がウリユの戦闘スタイルには合っているという話を盗み聞いたのは黙っておく。
ついでに、この剣が元々は妾を討伐に来た人間の持ち物だったこともわざわざ伝える必要はなかろう。
「ありがとうございます。 このウリユ、主から賜ったこの剣に誓ってお嬢様の敵を切るでります」
「大げさなものだ、ただの適材適所だというのに」
「それでもであります、自分はお嬢様の騎士でありますから」
騎士、か。
これも、淫魔の発言とは思えんな。
余程変わり者の家臣を得てしまったようだ。
「では、行ってくるであります」
「うむ、吉報を待っておるぞ」
この場から立ち去るウリユの背中を見送る。
リーダーが倒れたら群れが撤退する、などという展開は少々都合が良すぎるか。
どちらにせよ逃がす理由は無いのでな、ウリユには上手くやってほしいものだ。
「さて。 ここからが本番だぞ、まだいけるな?」
「はいっ!」
ルシアの手を握ると、暖かい何かが伝わってくる。
悪魔である妾には本来必要ないハズだった温もり、それを今はもう手放したくないと思っている。
その温もりを妾から奪うというのであれば、そのような敵は全て滅ぼしてくれよう。
「来るがよいモンスターども、一匹残らず殲滅してくれる!」
「例え追放されるのだとしても、私の故郷は私が護ってみせます!」
我々を敵に回したことを後悔するがいい、魔王や勇者のように苦しめた上で始末してやる。




