そんなことしないから、ちゃんと夜まで待つから!
「ラピア様、ここでお昼にしましょう!」
ルシアがそう言ったのは、村から少し外れたところにある小高い丘だった。
「ここ、村全体が見渡せるんですよ」
「ふむ、見張り櫓はここに建てた方が良かったのではないか?」
「私は景色の感想を訊きたかったんですけど!」
「そうだったのか、すまぬ……」
失敗した、そのようなことを求められていたとは思わなんだ。
「もういいです、座りましょう」
ルシアは敷いたシートの上に腰かける。
確かにルシアの言う通り、この場からは村に住む人間達の営みが見渡せた。
と、その横で食べ物を入れていた鞄を広げる。
「影じゃなくてちゃんと上の口で食べてくださいね、折角作ったんですから」
「う、うむ……」
凄味のある笑顔に圧され名前もわからない食べ物に口をつける。
「これは……、美味だな」
「良かったぁ、悪魔でも味覚は人間と近いんですね」
「意識はしていなかったが以前泊まった宿の食事も悪くなかったからな、恐らくそうなのであろう」
結局、用意された食事はルシアと2人であっという間に完食してしまった。
メニューの名前はひとつも覚えられなんだが。
「ルシアの作った食事がこんなにも美味だとはな、確かにこれは上の口で食べねば勿体ない」
「ふふっ、愛情満点ですから!」
そうか、愛情か……。
「のうルシアよ」
「なんですか?」
「妾は悪魔だ、人間を喜びよりも苦しみや悲しみへと誘おうとする存在だ」
「はい、知ってます」
「知ってます」ときたか。
ルシアにとっては今更なのだな。
「だがな、1人だけずっと笑っていてほしい相手ができた。 それもどこかではなく、妾の隣でずっとな」
「それって……」
「こんなことは初めてだが、きっとこれを『愛』と呼ぶのだろう」
「ラピア様……」
「愛しておるぞ、ルシアよ」
その想いを口にする。
色々なものを飛ばして今の関係に収まってしまったが、これだけは言っておかねばな。
「ラピア様ー!」
「おわぁ!?」
勢いよく抱き着かれ、そのまま後ろに倒れる。
支えられなんだ、これが体格差か。
「前に『応えられるかわからない』って言われていたので、それでも一緒にいられるならって思ったんですけど」
「ああ……」
「『愛してる』って言って貰えて凄く嬉しいです、私も愛してます!」
「ならばもう一度言うぞ、妾はルシアを愛している」
これでよい。
これはルシアと妾、2人が望んだ関係だ。
「なんだお前さんら、こんな昼間から外でお盛んなこったなぁ」
「うひゃあ!?」
「おお!?」
ルシアが声に驚いてバッと距離をとる。
「そんなことしないから、ちゃんと夜まで待つから!」
「ハッハッハ、ルシアがここでおっぱじめても咎めるヤツなんてこの村にはおらんよ」
「しないってば!」
「やれやれ、それでそなたはここで何をしておるのだ?」
このままだとルシアがいつまでもオモチャされそうだからな、助け舟を出そう。
「周りも見えんくらい2人の世界に入っとったんか、この通り放牧だよ」
言われたとおりに周囲を見渡してみると、名前もわからぬ動物が何頭もウロウロしている。
これではこれ以上この場にはおれぬな。
「仕事の邪魔をしてしまったようだな。 ルシアよ、次の場所へ案内せよ」
「じゃあね、ダンダさん!」
丘を後にして、ルシア連れられたどり着いたのは……。
「これは、畑だったか?」
「貴族のお嬢さんともなると畑を見るのは初めてかい?」
「そうだな、知識だけでしか知らぬ」
「だったら、畑仕事をちょっとやってみるかい?」
そう言いつつ、何やら道具を渡してくる。
「これはどう使うのだ?」
「こうやるんだよ、ほいさっ」
見本を見せるように妾が持っているのと同じ道具を振り下ろし、地面に突き刺す。
そしてそのまま土を掘り起こした。
「これをこの畑全体で繰り返すんだよ、石を取り除いたり土をほぐすためにね」
「ふむ、……む?」
なんということだ、持ち上がらぬ。
身体強化の魔法を使わなければダメか。
「ごめんねぇ、重くて無理だったね」
「すまぬな、魔法を使わなければ持ち上がらぬようだ」
「貴族のお嬢さんに畑仕事で魔法を使わせるわけにもいかないねぇ」
貴族なんてカバーを使ったことが裏目に出たな。
こういう体験も悪くないと思ったのだが……。
「クワを持ち上げられないラピア様、可愛い……」
「そ、そうか……」
ルシアは何やら喜んでいるから、まあそれでよいか。
「どうでありました、今日のデートは?」
部屋に戻ってきたところでそう尋ねられる。
「新鮮な体験ばかりだったよ、魔界の屋敷にいたら得られない経験ばかりだった」
「それは良い方向にですか、それとも悪い方向にですか?」
「それはまだわからぬ、ただ……」
「ただ、なんですか?」
「自分が悪魔であることを忘れそうになった、人間の笑顔に囲まれることを悪くないと感じてしまった」
妾の心境に変化が起きたのか、それともこの場所がルシアの故郷という例外中の例外だからなのかは妾自身ハッキリとせぬが。
「このままラピア様が村の皆に受け入れてもらえるなら、私はそれが一番良いです」
「そうだな、ここでなら妾も穏やかに暮らしていけそうな気がする」
だがそんなルシアと妾の希望を打ち砕くように、この後とある事件が起こってしまう。
そして、選択を迫られてしまった。




