ラピア様、デートしましょう!
「ラピア様、デートしましょう!」
「んあ?」
朝起きて最初に聴いたルシアの最初の言葉がそれだった。
「どうですか、青い空は慣れましたか?」
「まだ違和感があるな、ずっと魔界の暗い空ばかり見てきたのでな」
どっちが良いのか、という感覚もあまりなかった。
魔界の空を良いものだと思ったことも無かったからな。
「いつか人間界の空の方が好きになれる日が来ますよ、きっと」
「どうだろうな、そこまで人間寄りの感覚になれるかどうか」
だがこれからも人間界でルシアと共に生きていくのなら感覚はともかく、理解はしなければな。
魔族が人間界で生活するのは、最初に思ったより難しそうだ。
「ここがウリユのベッドを用意してくれた職人さんの工房です!」
「どうした聖女サマ、拉致してきたお嬢様に村の案内か?」
「デートです、あと拉致なんてしてません!」
冗談を交えながら笑い合う。
こんな風に笑うルシアを見るのは、この村に来るまで見たことがなかった。
妾に向けるモノとはまた違う笑顔。
これが故郷というものなのだろうか。
「改めて紹介するね、この方がラピア様。 私が結婚する人」
「先日は世話になったな、この場にいない家臣に代わって礼を言う」
「なに、いいってことよ!」
「おじさんの本業は大工なんですけど、他にも色々なことをやっているんですよ」
「こんな田舎だからな、人手がたりねぇのよ!」
ガッハッハ、と笑う人間の仕事をこれ以上邪魔せぬよう家を後にする。
ルシアに手を引かれ次の場所に向かう途中で……。
「ウリユではないか」
「お嬢様、おはようございますであります」
「何をしておるのだ」
「これからはこの村でお世話になる身なので、仕事を手伝ってるであります」
む、そういえば人間というのは無銭飲食には厳しいのだったか。
もしかして妾も何か仕事とやらをした方がいいのだろうか?
「この嬢ちゃん凄いんだよ、本来なら数人がかりで運ぶ丸太をたった1人で運んじまいやがる」
「力仕事なら任せるであります!」
「おお、頼もしいねぇ!」
ウリユがもう馴染んでいる。
これはサキュバスの特性なのか、それともウリユ個人が人間と相性が良いのかはわからぬが。
「それも魔法なんだろう、同じ平民でもお貴族様のところで働いてるヤツは違うねえ」
「それは……!」
「よいウリユ、言わせておけ」
「お嬢様、しかし……」
「あまり本当のことを言い過ぎると、正体が露見するかもしれんぞ。 勘違いしているのなら、そのままの方が都合がよかろう」
ウリユは淫魔にしては実直過ぎるきらいがあるからな、いくらかは妾でフォローしなければ。
「やっぱりお嬢様も魔法が使えるんですかい?」
「勿論だ、使ってみろと言われても困るがな」
「外国のお貴族様の魔法が見世物じゃないことくらい承知してまさぁ、逆に使うような事態にはなってほしくないですわな」
確か人間の貴族が魔法を使うのは、何らかの実力行使が必要な時だったか。
世間的には魔王が倒れて人間界が平和になったことになっているのだ、新たな火種など生まれてほしくないのは当たり前か。
闇や冷気系の魔法で妾が悪魔だとバレることはないだろうが、やはり人前で使う機会など訪れない方がよいだろう。
「まさかウリユがこうも早く村に馴染んで仕事まで手伝っているとはな」
「今朝『お嬢様の分まで働くであります!』って意気込んでましたよ」
「ふむ、なら妾は楽をさせてもらうとするか」
木こりやそれを手伝っているウリユと別れ、次の場所へ案内される。
ここは……。
「見張り櫓、というヤツだったか?」
こんな田舎にもあるものなのだな。
「ルシアちゃんじゃん、やっほー!」
「やっほー、アンナ!」
挨拶の後ルシアが櫓を上っていくのでついて行く。
「紹介しますね、この村の自警団所属で見張り担当のアンナです」
「自警団っていっても戦力らしい戦力なんて無いんだけどね、こうやって高いところから見て事前に察知するのが精一杯」
「そういうモノか」
「アタシはたまたま遠見の魔法が使えるからやってるだけで、ねえ」
だが、有るのと無いとでは大違いであろう。
そんな人材、どこにでもいるものではないのだから。
「その娘が例のお嬢様なの?」
「ラピアである。 貴族といっても大したことはないのでな、かしこまらなくてもよい」
「それにしてはなんというか、態度が尊大だね」
「生来のモノだ、見逃せ」
「うん、確かにルシアちゃんが好きそうなタイプだわ」
事前に聞いていた通り、この村の人間はルシアがどんなタイプの女が好きかをよくわかっているようだ。
妾が結婚相手だと知って納得するまでが異様に早い。
勇者と旅立つまではこの村でどんな生活をしていたのか……。
「アタシはずっと思ってたんだよ、例え勇者様だからってルシアちゃんと無理矢理結婚するのが許されるなんてさ!」
「でも、そうい決まりだったし……」
「別に勇者様が魔王と相打ちで亡くなったのを喜ぶわけじゃないけどさ、ルシアちゃんが本当に好きな相手と結ばれることができてアタシは嬉しいよ」
「ありがとう、アンナ!」
ルシアと妾が共謀して勇者を始末したなどと誰かに言えたことではないが。
この村の者達は聖教会の決まりよりもルシアの幸せを喜んでくれるのだな。




