結婚式するまではいましょうよ、もう村の皆ノリノリなんですから!
「ようこそ、ここが私の生まれ故郷です!」
馬車と呼ばれた乗り物を最初に降りたルシアがそう叫ぶ。
その声を聞きつけたのか、村の人間達がこっちへ向かってきた。
「ルシアじゃねえか、よく帰ってきたなぁ!」
「魔王討伐を成し遂げたんだって、凄いじゃない!」
「でも勇者様が魔王と相打ちになったっていうじゃないか、なんというか素直に喜べないぜ」
「でもこれでルシアちゃんの結婚は白紙になったんでしょう、男の人と結婚してもルシアちゃん幸せになれたとは思えないわ」
「それと勇者様が死んでもいいのかは別の話だろうが」
村人に囲まれてルシアの姿はあっという間に見えなくなってしまう。
うーむ、もう少し背の高い姿に変化した方が良かっただろうか。
いや、ルシアは背の低い女が好みなのだからそれではガッカリさせてしまう。
結局はこのままの姿が正解なのか。
「あれ、ルシアちゃんこの娘達誰?」
ルシアを囲っていた人間の内1人が妾とウリユの存在に気づき、連鎖的に村人達がこっちを振り返る。
さて、ここからが大事なところだ。
悪魔であることがバレぬように立ち回らなければ。
「えっと、ラピア様はですね」
「『ラピア様』だって、まさかお前さん……」
ルシアが初手でやらかしたー!?
くっ、ここからリカバリーできるか……。
「まさか好みのタイプだからって他国から貴族の娘さんを誘拐してきたんじゃないだろうな!?」
「ち、違います!」
いや、人間の貴族に間違えられているのならこれはチャンスだ。
「改めて名乗ろう、妾はラピアという。 元々は聖教会領外にあるとある国の貧乏男爵家四女だったのだが、ルシアが旅の途中に我が家に立ち寄ったことがあってな」
「そ、そうなんです。 それで私が気に入っちゃって!」
「途中経過は省くが我が両親も世界を救った英雄たる聖女に嫁ぐのはとても名誉なことだと言ってくれてな、だから誘拐などではなく正式に結婚を約束した仲なのだ」
「そして自分はお館様からお嬢様について行くようにと命じられたメイドのウリユであります!」
「そ、そういうことなの!」
まあ、こんなところであろう。
誘拐でないことに納得した村人達は1人、また1人とルシアに声をかけながら立ち去っていった。
しかし、妾を見て最初に誘拐を疑うとは。
ルシアは聖女となる前、この村でどんな生き方をしてきたのだ……。
「ラピアっていったっけ、ウチの娘の見初められるなんて災難だったねぇ」
「なんという口の利き方、お嬢様に対して無礼でありますぞ!」
「ごめんねウリユ、お母さんが……」
「え……?」
「よいウリユ、下がれ」
ルシアが母と呼んだ女、つまり。
「ルシアの母ということは妾の義母でもある、部下が失礼をした」
「こっちも不躾だったかねぇ、許しておくれよ。 貴族様の相手なんてしたことないものだから」
「よい、妾も堅苦しいのはあまり好きではなのでな。 ルシアにも『様』づけなど要らぬと言っているのだが」
なにせ貧乏男爵家出身などと名乗ってしまったのだから、偉そうにし過ぎるのも問題であろう。
リアリティは出るがやり過ぎだな。
ウリユにもその辺りを後で言っておかねば。
「じゃあ遠慮なく。 ここまでの移動だって大変だっただろう、貴族様のお屋敷と比べたら狭い家だけどゆっくりしていきな」
「すまぬな、しばらく世話になる」
「先程は失礼しました、自分のことは使用人として何なりと申しつけくだされ」
「ウリユって言ったっけ、アンタもお客様なんだからもてなされていきな」
義母上は豪快な性格なのだな。
「少々強引なところは母親譲りといったところか」
「私そんなに強引でしょうか?」
「妾の下へ来た時のことを忘れたとは言わせぬぞ」
「そ、それは……」
なにせ「ラピア様と添い遂げるために来ました♪」だからな。
勇者を切り捨ててそんな行動に走る者のどこが強引でないというのか。
「ルシアの部屋はちゃんとそのままにしてあるからね、同行者がいるなんて知らなかったからラピアとウリユの部屋もどうにかしないといけないね」
「お母さん、ラピア様は私と一緒に寝るから大丈夫!」
「そうだったね、結婚するっていうんだから考えてみれば当たり前さね」
魔界の屋敷でも一緒に寝ていたのだから今更である。
妾の身体の小ささであればなんとかなるであろう。
「ウリユはどうする、私は3人一緒でもいいよ」
「流石にそれは……、自分は外で見張りでも問題ないであります」
「それは許可できぬ。 ウリユよ、妾を部下の管理もできない主にさせるでない」
この前は断られたがサキュバスとしての体質もある、身近に居てもらわねば困る。
「今は村を離れてる旦那の部屋は空いてるけど女の子が使うにはちょっとねぇ、やっぱりウチならルシアの部屋しか……」
「だってウリユ、一緒に暮らそう?」
「そうだ、そなたは護衛も兼ねているのだからな」
「うう……、お嬢様とルシア様にそこまで言われたら従うしかないであります」
流石に3人で同じベッドは無理がある、なのでもう1床用意してもらうことになった。
「流石はお嬢様、あのような嘘が咄嗟に出て来るとは素晴らしいであります!」
「妾は悪魔ぞ、人間を騙すことなぞ造作もないわ」
「そこ褒めるところなんですね……」
どうせ人間のフリをしなければないらないのだから嘘は致し方あるまい。
「問題はいつまでここに滞在するかだな」
「結婚式するまではいましょうよ、もう村の皆ノリノリなんですから!」
「そうだな、それまでは滞在するとしよう」
全てはそれから、か。
結婚式という人間の風習そのものに興味は無い、が。
それでルシアが喜ぶというのなら、無下にはできまい。
ルシアと出会ってから慌ただしい日々が続いたからな、ここらで少しのんびりするとしようか。




