『悪役令嬢が身分を隠して深夜ラジオを始めたら、最大のライバルが相方で、アホな婚約者がヘビーリスナーになっていた件』
「——オーッホッホッホ! ごきげんよう、皆様。今日もわたくしの美しさが、学園の空気を浄化してしまって申し訳ありませんわね!」
王立魔法学園のカフェテリア。
わたくし、セシリア・ヴァン・ローズ・アルジェント(17歳・悪役令嬢)は、高笑いと共に扇を優雅に翻した。
取り巻きの令嬢たちが「さすがセシリア様!」と喝采を上げる中、視界の端で、わたくしの婚約者である王太子アーサーが、可憐な男爵令嬢とお茶を飲んでいるのが見えた。
……いや、よく見ると男爵令嬢の方はアーサーなど微塵も見ておらず、うっとりとした目で手元の『最新型・高音質魔導ラジオ』を撫で回しているのだが、あのアホ王子は自分が見つめられていると勘違いして鼻の下を伸ばしている。
イラッ。
(……男爵令嬢に貢いでいる暇があるなら、少しは国政の勉強をなさいな)
「あら。ずいぶんと大きな笑い声ですこと。下品なカラスが迷い込んだのかと思いましたわ、セシリア様」
振り返ると、そこには漆黒の縦ロール髪を揺らす公爵令嬢、ヴィクトリアが立っていた。彼女もまた、学園を二分する派閥のトップにして、わたくしの最大のライバルである。
現在の二大派閥の争点は、『学園カフェテリアの新作スイーツを、優雅なローズ・マカロンにするか、高貴なリリィ・ショコラにするか』という、国境の紛争よりもはるかに深刻で血で血を洗う対立であった。
「まあ、ヴィクトリア様。今日のドレス、随分と……『個性的』ですこと。おばあ様のタンスから引っ張り出してきたのかしら?」
「ふふっ、相変わらずお口が減らないこと。その生意気な唇、縫い合わせて差し上げましょうか?」
「上等ですわ。表へ出なさいな!」
バチバチバチッ!
二人の間に青白い火花が散る。周囲の生徒たちが「二大悪役令嬢の衝突だ……!」と恐れおののく中、わたくしは心の中で舌打ちをした。
(あーあ、今週も疲れた。早く家に帰って、『アレ』をやりたいわ……!)
---
一週間の学園生活を終え、待ちに待った週末の深夜0時前。公爵邸、セシリアの自室。
「ふぃ〜〜〜っ! やっと解放されたぁ〜!」
わたくしは豪華なドレスを脱ぎ捨て、だぼだぼの部屋着(ジャージ風)に着替えると、ふかふかのベッドにダイブした。
「一週間、お疲れ様でございます、お嬢様。週に一度の『深夜の背徳・B級グルメ』をご用意いたしました」
有能で無表情な専属メイドのマリーが、銀のトレイを運んでくる。
乗っているのは、『山盛りのフライドポテト(特濃ガーリックサワークリーム添え)』と『氷でキンキンに冷やしたシュワシュワのコーラ』である。
「マリー、最高! 愛してる!」
「恐悦至極に存じます。……魔具のセッティング完了。国家魔導院の監査網へ侵入、および発信源の偽装・魔力波長の暗号化、すべてクリアいたしました。王宮の犬どもに、お嬢様の魔波は絶対に尻尾を掴ませません」
「頼もしすぎるわマリー。じゃあ、いくわよ」
深夜0時ちょうど。わたくしは魔道ボイスチェンジャーのマイクのスイッチを入れた。
『——週末の深夜0時を回りました。王都の迷える子羊たち、ごきげんよう。あなたの週末の夜のお供、【DJクリムゾンローズ】の真夜中ティータイムが始まるわよ』
少しハスキーで色気のある大人の女性の声に変換された魔波が、王都中の魔導ラジオへと配信される。
するとすぐに、通信用の魔導具が青く光り、強引に回線が「合流」された。
『やっほー、ローズ。今週も回線ジャックしてきちゃったわよ』
『あら、いらっしゃい。【漆黒のリリィ】ちゃん。私の極秘回線を毎回ジャックするなんて、相変わらずいい度胸してるわね』
スピーカーから聴こえてくるのは、ちょっと気怠げなギャル風の声。彼女こそ、この番組の『相方』である漆黒のリリィだ。
『はぁ〜、聞いてよローズ。今週、マジでムカつく同級生の女がいてさぁ。カフェテリアのメニューごときでバチバチに突っかかってきて、マジうざくない?』
『一週間大変だったわね〜。でも、私の婚約者に比べればマシよ。今週も別の女にデレデレして、最新の魔具貢いでてさぁ。マジで一回、顔面に熱湯の紅茶ぶち撒けてやろうかと思ったわ』
『あー、わかる! 男ってほんとバカよね!』
『まあ、愚痴はその辺にして。本日のもぐもぐタイムに行きましょうか。今日はね、【特濃ガーリックサワークリーム・ポテト】よ』
わたくしはマイクに近づき、ポテトをかじる。カリッ……! サクッ……!
『うわあああ! いい音! しかもガーリックとか、深夜で一番やっちゃダメなやつ!』
『ん〜っ、ジャンクな味が五臓六腑に染み渡るぅ〜! コーラーも、ゴクゴクッ、ぷはーっ!』
わたくしはポテトを貪りながら、リスナーから届いたお便りを捲った。
『さて、ラジオネーム【悩める金髪の鷹】さんから。「DJローズさん、リリィさん、こんばんは。僕には婚約者がいるのですが、最近彼女の態度が冷たいです。今週も僕が別の女の子と話していたら、氷のような目で見られました。僕はどうすればいいのでしょうか?」……だって』
それを読んだ瞬間。パーソナリティ二人の声が、ピタリと揃った。
『『は? お前が100%悪いに決まってんでしょ!!!』』
『アンタねえ! 婚約者がいるのに別の女とヘラヘラ話してる時点でギルティなのよ!』
『そうよ! 氷の目で見られるくらいで済んで感謝しなさい! いいこと金髪の鷹、今すぐその別の女との連絡を絶って、婚約者に一番高い宝石でも買って土下座しなさい!』
『ええ、その通り! さあリリィ、今日もビシッと言ってやるわよ! せーのっ!』
『『あなたのその薄っぺらい根性……ギルティ(有罪)よ!!』』
深夜の王都に、二人のキメ台詞が深夜の空へ小気味よく響き渡った。
◆
「セシリア! 少し、時間をくれないだろうか!」
ある日の王立魔法学園。
中庭のテラス席で優雅に紅茶を傾けていたわたくしの前に、金髪の婚約者——王太子アーサーが、肩で風を切りながら現れた。
「ごきげんよう、アーサー殿下。……何か御用ですの?」
「うっ……! そ、それは……その、すまなかった!!」
アーサーはいきなり、周囲の生徒たちがどよめくほどの勢いで「バッ!」と頭を下げた。
「私は愚かだった! 婚約者がいる身でありながら、別の女性にうつつを抜かし、君に氷のような目を向けさせてしまった! 薄っぺらい根性……まさに『ギルティ』であったと反省している!」
ギルティ。
わたくしはピクリと眉をひそめた。なぜ王太子が、うちの番組のキメ台詞を使っているのか。
「だから! これを受け取ってほしい! 私の誠意だ!!」
ドンッ!! と、テーブルの上に置かれたのは、巨大なベルベットの箱だった。
中から現れたのは——赤ん坊の拳ほどもある、ギラギラと下品な輝きを放つ超巨大なダイヤモンドのネックレスだった。土台の金細工が太すぎて、まるで呪いの首輪である。
「……殿下。お気遣いはありがたいのですが、わたくしはこのような自己主張の激しすぎる装飾品は、少々趣味に合いませんわ」
「な、なんだと!? なぜだ! 『一番高い宝石を貢いで土下座しろ』と言われたから、その通りにしたのに!」
「は? 誰にそんなことを……」
「くそっ、女心というのは難しい! また、師匠に教えを請わねば……!」
アーサーは頭を抱え、巨大な呪いの首輪を抱えて嵐のように去っていった。
(……本当に、アホなの? 誰なのよ、あのバカに頓珍漢なアドバイスをした師匠って)
---
そしてまた次の週末。一週間のストレスが限界に達した深夜0時前。
「はぁ〜〜〜っ、今週も疲れたぁ! マリー、今週の背徳メニューをお願い!」
「はい、お嬢様。『限界特盛りチョコパフェ〜濃厚ブラウニーにバニラアイスを添えて〜』でございます」
「きゃあああっ! ギルティの極みね!」
マリーの合図で、わたくしは魔道ボイスチェンジャーのマイクを握る。
『——週末の深夜0時を回りました。【DJクリムゾンローズ】の真夜中ティータイムよ』
『やっほーローズ! 【漆黒のリリィ】よ。今週も回線ジャック成功よ』
『ええ。さて、今日は週に一度のチートデイ、限界特盛りチョコパフェよ。むぐむぐ……ん〜っ! 脳へと直接糖分がブチ込まれる感覚! 最高!』
『あーもう、ズルい! 私も明日絶対スイーツ食べる! 王都の裏路地にできた限定の【星屑クレープ】、休日に並んででも買ってやるんだから!』
スイーツ談義に花を咲かせた後、わたくしはハガキの束を手に取った。
『さて、お悩み相談のコーナーね。……あら、また【悩める金髪の鷹】さんから』
『あー、あのダメ男ね。なんて?』
『「ローズ師匠、リリィさん、こんばんは。先週の教えの通り、一番高い宝石を買って貢ぎました。しかし彼女は露骨に嫌な顔をして受け取ってくれませんでした。僕はどうすればよかったのでしょうか」……だって』
スピーカーの向こうで、リリィが特大の舌打ちをする音が聞こえた。
『ちょっと金髪の鷹! 私たちは「誠意を見せろ」って言ったのよ! 金に物を言わせて、一番高いものをポンと渡せば解決すると思ってるその薄っぺらい根性が、ギルティなのよ!!』
『その通りよリリィ! 高いだけの宝石なんて、いらないのよ! 誠意を持って、言葉と態度で伝えなさいよ!』
わたくしがそう叫ぶと、リリィが『……あれ?』と不思議そうな声を上げた。
『いや……あのねローズ。実は最近、私の知り合いのアホな男子も、恋人に全く同じことやって振られてたのよ。赤ん坊の拳くらいある、クソダサいダイヤ持ってきてさぁ。私もドン引きしちゃった』
『……奇遇ね。私の知り合いのバカ男も、最近全く同じことやってたわ』
深夜の電波空間に、奇妙な沈黙が流れる。
「一番高い宝石を貢いでドン引きされた男」。そんな都合のいいバカが、同じ週に何人も発生するだろうか。
『『…………』』
『……まあ、男なんてみんな発想が貧困でバカってことよね!』
『そうね! よくある話なのよ! アハハハ!』
二人は無理やり笑い飛ばし、パフェの残りを一気にかき込んだ。
(……まさかね。この鷹が、うちのアホ王子なわけないわよね。偶然よ、偶然)
わたくしは微かな違和感をチョコパフェと共に胃袋の奥へ流し込み、再び声を張り上げた。
『それじゃあ、金髪の鷹に二人から宣告するわよ! せーのっ!』
『『あなたのその薄っぺらい根性……ギルティよ!!』』
◆
ラジオ放送の翌日、休日の午後。
公爵邸の自室の姿見の前で、わたくしはガッツポーズを決めた。
髪は地味な三つ編みにし、度の入っていない丸眼鏡。顔にはそばかすのメイク。これなら誰も「氷の悪女」セシリアだとは見破るまい。
「マリー、今日は王都の裏路地にできた限定50食の【星屑クレープ】を買いに行くのよ」
「お気をつけて。私はお嬢様のお留守の間に、情報網を駆使してヴィクトリア様陣営の裏の動きを探っておきます」
有能なメイドに見送られ、わたくしは王都の街へ繰り出した。
◆
「うわぁ……すごい人」
王都の裏路地の屋台の前には、長蛇の列ができていた。
最後尾に並ぶと、ふと隣に、目深にキャスケット帽を被ったボーイッシュな少女が同時くらいに並んだ。
「あ、ごめん。私が先だった?」
「いえ、同時くらいですわ。……あっ、いえ、同着だね」
いけない、つい令嬢言葉が出そうになった。
わたくしが丸眼鏡を直すと、ボーイッシュな彼女は「ふふっ」と笑った。
「君も星屑クレープ目当て? これ、週末の深夜ラジオで紹介されててさ。どうしても食べたくなっちゃったんだよね」
「えっ、奇遇! 私も昨日の夜、そのラジオ聴いてたの!」
まさか、自分の番組のリスナー(?)に出会うとは。
わたくしはすっかり気を良くして、行列での待ち時間を彼女と楽しくおしゃべりして過ごした。
「——お客様、申し訳ありません! 材料が切れてしまいまして……残るクレープは、あと一つだけになります!」
「「えっ!?」」
わたくしと彼女が同時に顔を見合わせた、その時だった。
「どきなぁ! ガキども!その最後のクレープは、俺たちのものだ!」「そうよ!邪魔よ!」
乱暴に肩をぶつけられ、安酒の匂いをさせた柄の悪いカップルが割り込んできた。
プツンッ。
わたくしの中で、何かがキレる音がした。
「……ちょっと、そこの豚。レディの前に割り込むなんて、万死に値する『ギルティ』よ」
すると、隣の彼女も氷のように冷たい声で言い放った。
「ええ、本当に。そんな根性じゃ……王都で一番高い宝石で殴られても文句は言えないわよ?」
(……ギルティ? 王都で一番高い宝石? どこかで聞いたような……)
考えるより先に、わたくしと彼女の行動は完璧にシンクロした。
「邪魔よ!!」
わたくしの日傘の先端が男の鳩尾を貫き、彼女の鋭いハイキックが女の顎を一蹴した。
「ぐえェッ!?」「あべェッ!」
日頃の淑女教育で鍛え上げられた悪役令嬢の筋力を舐めてはいけない。ゴロツキたちは一瞬で石畳に沈んだ。
◆
「いやぁ、お嬢ちゃんたち、かっこいいね〜! さあ、これが最後の星屑クレープだ。大盛りにしておいたからね!」
わたくしと彼女は、裏路地のベンチに並んで座り、大盛りクレープを半分こして頬張った。
「ん〜〜〜っ! 美味しいっ!」
「運動後のスイーツは五臓六腑に染み渡るわぁ〜!」
「ねえ。あなた、最高のハイキックだったわ。実は私、毎週末、一緒にラジオをやってる『親友』がいるの。あなた、絶対にその子とも気が合うと思うのよ!」
わたくしがそう言うと、彼女はパァッと顔を輝かせた。
「嘘! 奇遇ね、実は私も、週に一度一緒にラジオ配信するくらい大好きな親友がいるの! すごくイイ女なのよ!」
「「気が合いそう!!」」
見事なまでの共鳴。わたくしと彼女は、がっちりと固い握手を交わした。
「ねえ、来週、王立学園の卒業パーティーがあるでしょ? きっとお互いの親友も参加するはずだから、そこでぜひ紹介し合いましょうよ!」
「賛成! じゃあ、パーティーの会場で待ち合わせね!」
「「絶対に、ビックリすると思うわ!」」
◆
「——オーッホッホッホ! 今宵のわたくしも、息を呑むほど完璧でしてよ」
王立魔法学園の卒業パーティー。
わたくしは深紅のドレスを翻し、漆黒のドレスを着たヴィクトリアとバチバチに睨み合っていた。
(……あーあ。今日も足が痛いし、最悪だわ)
わたくしは扇で口元を隠しながら、ドレスの胸元に仕込んだ超小型の魔導マイクをトントンと叩いた。退屈なパーティーをやり過ごすための、秘密の「裏実況」用魔具だ。
『……ねえリリィ、聞こえる? マジでこのパーティー退屈なんだけど』
『聞こえてるわよローズ。早く帰って週末ラジオの準備したいわー。あ、そういえば今日、例の友達紹介してくれるんでしょ?』
わたくしたちが秘密の通話を楽しんでいた、その時だった。
「セシリア! 少し前へ出てきてくれないか!」
大広間の壇上に立った王太子アーサーが、突然大声で懺悔を始めた。
「私は愚かだった! 婚約者がいる身でありながら他の女性にうつつを抜かしていた! しかし、私が真の『誠意』に気づけたのは、毎週末の深夜に放送されている素晴らしいラジオ番組……【DJクリムゾンローズ】師匠とリリィ殿のおかげだ!! セシリア! 君だけを一生愛すると、ここで誓おう!!」
——ピキッ。
わたくしの頭の中で、何かが凍りついた音がした。
(まさか、悩める金髪の鷹が……目の前のアホ王子!? ってことは、わたくしは毎週末、自分の婚約者の恋愛相談にガチ説教してたってこと!?)
極限の驚きに、わたくしは思わず胸元のマイクに向かって叫んでしまった。
「はぁぁぁぁぁっ!?」
そして全く同じタイミングで、少し離れた場所にいたヴィクトリアも叫んだ。
「えぇぇぇぇっ!?」
——その瞬間。
二つの魔導マイクが極大の驚きの魔力波を受け、暴走した魔波が、大広間の巨大な魔導スピーカーと強制的にリンクし、ボイスチェンジャーの変換機能がバグを起こす。
キイィィィィィィィィィィィンッ!!
『ちょっと待って!リリィ! 金髪の鷹って、アーサーだったの!?』
『嘘でしょローズ! あのアホ王子がリスナー!?』
大音量で響き渡る、セシリアとヴィクトリアの肉声。
「「…………」」
わたくしは、カクカクとロボットのように首を動かし、ヴィクトリアを見た。
「えっ……アンタが、ローズ?」
「……ウソ。あなたが、リリィ?」
先日クレープを食べたボーイッシュな少女の顔がフラッシュバックする。
見事なまでのアンジャッシュ的すれ違いの全貌を理解し、二大悪役令嬢は全校生徒の前で頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「え……? セシリアが、ローズ師匠……?」
壇上のアーサーもフリーズしている。その横で、彼が連れていたはずの男爵令嬢だけが、両手に魔導ペンライトを握りしめ、「生ローズ様と生リリィ様のてぇてぇ(尊い)絡み……! 最高です! ギルティ!!」とオタク特有の早口で絶叫していた。
パニックに陥る王太子。オタク化する男爵令嬢。
完全に放送事故の様相を呈した卒業パーティーのど真ん中で——。
「……ふふっ、あはははっ!」
「あーあ、バレちゃったわね。しかも一番ダサい形で」
わたくしとヴィクトリアは、顔を見合わせて同時に吹き出した。
「ねえ、ヴィクトリア。もうこんな退屈なパーティー、抜け出さない?」
「大賛成よ、セシリア。で、今日はうち来る? それともそっち行く?」
「もちろん、うちよ。とびきりギルティな夜食を用意させるわ。マリーも喜ぶわ」
二大悪役令嬢は、全校生徒の前で大爆笑しながら腕を組み、唖然とするアーサーを完全に放置して、大広間の扉へと歩き出した。
「ま、待ってくれセシリア! 私の愛は——!」
「うるさいわね金髪の鷹! 言いたいことがあるなら『ふつおた』にハガキ送りなさい!」
バタンッ! と重厚な扉が閉まる。
後に残されたのは、崩れ落ちた王太子と、ポカンとする全校生徒。
そして、その光景を玉座から呆れ顔で見下ろしていた国王陛下は、側近に向かって静かに命じた。
「……誰か、あの馬鹿息子を回収しろ。それと、ローズとリリィの明日の放送……絶対に、高音質での録音を忘れるなよ。余は彼女たちのフリートークのファンなのだ」
◆
そして、待ちに待った週末の深夜0時。
公爵邸の自室には、だぼだぼの部屋着姿の悪役令嬢が二人、ベッドの上に転がっていた。
「マリー、ポテトのおかわり! あとコーラも!」
「かしこまりました。ヴィクトリア様の従者殿とも、後ほど厨房で情報交換(愚痴大会)をしてまいります」
山盛りのフライドポテトをかじりながら、わたくしたちはマイクの前に座る。
隠し事のない、本当の親友の距離感。
『——週末の深夜0時を回りました。【DJクリムゾンローズ】よ』
『やっほー、【漆黒のリリィ】よ。今日は隣にいるけどね!』
『ええ。さて、今週は前代未聞のアホ王子の爆笑エピソードから話そうかしら』
カリッ、サクッ。
深夜のギルティな咀嚼音と共に、二人の笑い声が王都の夜空に響き渡る。
婚約破棄? 政治的対立? そんなものは、週に一度の美味しいポテトと親友とのラジオトークの前には、些末なことにすぎないのだ。
最後は二人で、声を合わせて王都中に宣告する。
『『あなたのその薄っぺらい根性……ギルティ(有罪)よ!!』』
悪役令嬢ふたりの賑やかな日常は、これからも週末の電波に乗って、楽しく図太く続いていく。




