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勇者は101人いる(リメイク版)  作者: 酔生夢死
勇者は101人いる 2章 少年、拾われる

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06話 少年、行き倒れる

(´・ω・`)「鳥肉が何の肉か知らない」というTV番組を見ました……

 でも、これって学校の教育が問題なんじゃなくて、親との会話が不足しているのでは?

 勇樹が初めての依頼を終えてから2日が過ぎた。

 今日も今日とて依頼を午前中でさっさと終えた勇樹は、アーノルドの居る受け付けへやって来て堂々と用紙を取り出した。


「ノルマの依頼終わりました! それとこっちは貸工房の申請書です!」


「はぁ、なんでお前は毎回毎回、俺の所に来るんだよ」


「そっちも毎回、同じ様なやり取りで飽きません?」


 勇樹がやれやれと肩を竦めると、アーノルドは額に青筋を浮かべた。


「こっちはお前が来なきゃ受付業務なんてしなくて済むんだよ。ちったぁ遠慮して顔を見せないくらいの配慮はできねぇのか? 年上を敬う態度くらいみせろ」


 そう言われると勇樹は少し考える素振りをした後、徐に居住まいを正し始める。

 すると、スイッチが切り替わったかのように澄んだ表情になり、穏やかな声色で話し始めた。


「わかりました。それではアーノルド様のご要望に配慮した結果、こちらの依頼達成の確認と貸工房の申請書を提出させていただきます。こちらの依頼書には確認の印鑑を、貸工房は“三番”を“時間いっぱいまで”を希望します。時間も詰まっていますので速やかにお願いします」


「その取ってつけたような敬語は止めろ。それに一歩も引いてねぇじゃねぇか!」


「じゃあ、これからは馴れ馴れしく行くね! というワケでオッチャン、これヨロ!」


「ホントに馴れ馴れしいな! ちったぁ遠慮しろよ!?」


 益々、遠慮しなくなった勇樹に頭を抱えるアーノルドを見て、勇樹は大袈裟に肩を竦めながら溜息を吐いた。


「ハァ……僕がこうして来るのも、顔が怖いから仕事が無くて日がな一日座ってるしかないオッチャンの話し相手と、少しでも仕事をさせてあげようという優しさなのに」


「ハハハ、じゃあこれはその礼だ。ありがたく受け取れっ!」


 子供の胴ほどもありそうな筋骨隆々の腕が、勇樹の頭へと振り降ろされる。

 が、勇樹はそれを見る事も無く紙一重でヒラリと躱して見せた。

 拳が風を切る轟音に思わず横の受け付けにいた冒険者が目を丸くして二人を見る。


「オッチャン……手を止めてないで早く手続しちゃってよ」


「テメェ……避けてんじゃねぇよ」


「ヤだよ。だって痛そうじゃん」


 勇樹の態度にイラッと来たアーノルドは無言で突きを放つが、風に舞う木の葉のように避けてみせ、アーノルドの眉間の溝が増々深くなる。

 腹癒せに殺気を睨みつけるも勇樹はどこ吹く風なので、乱暴にペンを取り出すと依頼書と申請書に自分の名前を殴り書き、ハンコを叩きつけるように押し付けた。


「ほらよ! 俺んとこには二度とくんじゃねぇぞ!」


「オッチャン、サンキュー! またよろしくー!」


 雑に投げられた2枚の紙を受け取ると、勇樹は暢気にお礼を言って貸工房へと入って行った。




 貸工房は本館から少し離れたところに小屋が並んでおり、勇樹はその中から『三番』と書かれた小屋を選んで中に入った。

 工房に入ると扉の鍵を閉め、埃っぽい部屋の中で堪え切れずに笑みが漏れる。


 冒険者協会にある貸工房は滅多に借りられる事はない。

 態々指定しない限りは『三番』の部屋が埋まる事はない事を良い事に、勇樹はこの部屋を自分が出来る限りの改造を施していた。


 元々、貸工房は冒険者が武器や防具を自分で整備する為に設置されているが、道具は必要最低限の中古品しか置いておらず、そもそも利用者が殆どいないので部屋の至る所に蜘蛛の巣が張り机や炉には埃が積もっている。


 当然、特殊な工程を必要とするミスリルなどを加工するには、明らかに設備の強度が足りていなかった。


 なので勇樹は一日掛けて炉のレンガを、魔石を練り込んで耐久性を上げた物に入れ替えた上で、びっしりと魔法術式を刻み込んでマジックアイテム化、道具にも地味にコソコソと改造を重ねた結果、勇樹専用の工房と化していた。


「さぁて、まずは火を起こさないと」


 勇樹はそう呟くと勝手口の外に積み上げられた薪を無視して、家から準備してきた火力を上げる術式を刻んだ薪をポーチから取り出した。

 本来であれば火の魔石を()べて、ミスリルなどの特殊な金属を加工する為の熱量を確保するところを、こうする事で一時的に熱量を上げる裏ワザである。


 ただし、専用の炉ではないので高い火力に耐えきれずに、数回使用しただけでボロボロになって使い物にならなくなってしまうので、その度に整備しなければならない。



 勇樹は薪を炉の中に放り込むと一緒に砂利粒のような火の魔石を一握り撒いて、レンガのような着火剤に火を点けた。

 火で炙った瞬間、チリチリとフィルムが焼けるような音がした直後、着火剤が勢いよく燃えだして、その火に反応して炉の中にばら撒いた魔石から魔力が炎へと溶け出し、薪に刻まれた術式が反応する。


「うーん、火はこんなモノかな?」


 ある程度、炉が温まったところで勇樹はミスリルなどの魔鉱のインゴットを取り出すと、慣れた手付きでそれらを坩堝の中へと放り込んで炉にセットする。

 勇樹の師匠であるジェイド曰く、『送る魔力の量は炎の揺らめきに合わせて調節するのがコツである』と教えられた通りに、ジッと火の様子を観察しながらマジックアイテム化してある(ふいご)で、絶えず空気と魔力を送り火力を微調整していく。


 そして、坩堝の中のインゴットが十分に溶け合ったところで、勇樹は作業用ベルトから銀製のペンを引き抜く。

 このペンはマジックアイテムでありペン先には魔石がはめ込まれていて、持っただけで勇樹の魔力を使って刻まれた術式が起動してペン先の魔石が光り出す。


「うーん、まずはどんなのを作ろうかなぁ」


 勇樹がそう呟きながら、坩堝の上でペンを動かし始める。

 すると空中に光の線が浮かび魔法陣が描かれ、最後にペンで魔法陣の中心を軽く叩くと、魔法陣は溶けたミスリル合金の中へ吸い込まれて行った。


 これは加工する鉱石自体に直接、魔法付与(エンチャント)を掛けて定着させる作業である。

 通常、武具などに魔法効果を付与するには土台となる素材と付与魔法の相性から、数種類しか付ける事が出来ない。


 しかし、素材の段階から定着させる事で、幾らでも魔法付与(エンチャント)を施す事が出来るようになる。

 勇樹はノームの里で覚え込まされた事を反芻しながら、次々に魔法陣を描き入れる。


 坩堝の中のミスリルに魔法付与(エンチャント)が済んだら、坩堝を取り出して型にミスリルを流し込んでいく。

 型から出したところで叩きながら形を整えていくのだが、魔法付与(エンチャント)の魔力が(いびつ)にならないようハンマーで叩く際に含有魔力を調整してやる必要があるので、この時点で既に一般の魔術師では干乾びてしまうほどの量の魔力を消費していた。


 そうして出来上がった勇樹の魔道具(マジックアイテム)第一号は、片刃のバスタードソードだった。

 出来上がった剣を掲げると、木窓の隙間から差し込んだ光が刀身に反射して、妖しい輝きを放つ。


「よし、色々間に合わせの中での第一号としては中々の出来かな? あー……でも、幾つか調整がズレてるなぁ」


 勇樹はそう呟きながら剣の柄を握ると、手から魔力が流れ込んで刀身に刻まれた術式回路(サーキット)が光り出し、勇樹は徐にポーチから薪を一本取り出して宙へ投げた。


 ――一閃。

 縦一線に振り上げられた白刃が、放り投げられた薪を通過する。

 そして、薪は床に着くと同時に砂のように崩れた(・・・・・・・・)


「うわぁ……こんなもの生物に向けたらもしかしなくても大事故だよ。超振動剣バイブレーションソードを作った筈なのに、何で斬った物を一瞬で粉砕する超兵器になるかなぁ……」


 勇樹は想像以上の効果に引きながら、剣に魔力を遮断するベルトを巻き付けて、しっかりと封印してポーチにしまい込む。

 そして、勇樹は炉の火を見つめながら再びインゴットと炉へと放り込む。


 ノームの里にいた頃の感覚を取り戻す為に、足りない施設は技能で補い、足りない技能は知識で補い、足りない知識は刻まれたスキルから持ってくる。

 炎を見極め、限界まで鎚を振るい続け……日が落ちて、職員に声を掛けられるまでに何本もの失敗作を作り出した。


 例えばプラズマ化した炎の刃が使用者まで焼き尽くす魔剣だったり、例えば命と引き換えに一振りで周囲を消し飛ばす魔剣だったり、例えば刀身が不安定で決まった形にならない刀だったり……慣れない工房と道具で欠陥品を量産していった。


 その日から全てが振り切れた勇樹は、のめり込む様に工房に引き篭もった。

 早朝は冒険者協会が開館すると同時に工房を借り、炉の火を絶やす事無く鎚を振るい、時折思い出したかのように傍らに用意していた干し肉を引き千切り、水をガブ飲みする。


 そうして工房内が暗くなり、灯りが炉の炎だけになる頃になると迷惑そうなアーノルドが勇樹を協会から叩き出し、ゾンビのようにフラフラになりながら宿へと帰る生活を繰り返した。


 そうして勇樹がエルクレアへ戻って来て一週間、まるで狂ったかのように工房に通い続けた結果……勇樹は行き倒れた。


 最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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