03話 少年、大金を手に入れる
(´・ω・`)あれれぇ? おっかしいなー。色々とシーンを書き足していると、ヒロインの出番がドンドン遅くなるぞー?(某探偵感)
修行中に失効した冒険者カードを受け付けのアーノルドに再発行して貰った勇樹は、改めて資金を作る為に買い取りカウンターへ足を運んだ。
「すみませーん。カードを再発行して貰ったんで、改めて買い取りお願いします」
「それは良いけどよ。さっきあんだけ出して、まだ残ってんのか?」
「いや、まあ、モンスターの素材はないですけど、こんなのとかは無理ですかね?」
勇樹はそう言って金のインゴット一本をカウンターの上に置いた。
この金塊は勇樹の師匠であるノームのジェイドが換金用に用意した資金――などではなく、魔道具などの素材として用意してくれた物である。
金や銀は魔力を伝導しやすく、魔道具の材料としては比較的良く使われる金属なので、勇樹の持つポーチの中にはトン単位のインゴットが収まっている。
とはいえ、今は先立つ物がないと魔道具云々よりも生活が出来ないので、比較的換金しやすそうな金を選んで換金できないかと考えていた。
ちなみに、金の価値は地球よりも採掘技術などの問題から少しばかり高い。
なので当座の資金を得るには充分に価値のある物である……筈だった。
金のインゴットを見せられた男性は、慌てて近くにあった手拭いを被せて勇樹の頭を叩いた。
「バッキャロ! こんな物を抜き身で出して見せる奴があるか! 誰が見てるか分かんねぇんだぞ!」
「た、確かに……すみません、軽率でした」
ノームの里では金銀が資材として山と積み上げるほどあったので、勇樹としては『地球だと希少だったけど、ノームの里じゃあ沢山あったから売れるかな?』程度の認識であった。
勇樹が反省した様子を見て拳を下ろした男性だったが、布の下の金を見てアゴを撫でながら険しい表情を浮かべる。
「うーん、金塊か……悪いが、依頼の納品としてなら問題ないが、ウチではコイツは取り扱えん決まりでな。買い取りはやってないんだ」
「え、あのコレが売れないと今晩の宿代にも困ってるんですけど……」
「そんな事を言われてもこっちも決まりだからな。どうしてもって言うなら……商人ギルドの方へ相談してきな」
困り果てている勇樹の姿を見兼ねた男性は、後半を誰にも聞かれないように小声で耳打ちをした。
どうしてそんな事をするのか疑問に思いながらも、商人ギルドへの地図を渡して用は済んだと言わんばかりに男性は奥へと引っ込んでしまった。
男性が居なくなってしまったので、勇樹は仕方なく冒険者協会を出て地図の場所へ行く事にした。
勇樹の向かう商人ギルドは、王都エルクレアへ来る商人たちが引っ切り無しに出入りするので、大通りの並びにある中でも大きな建物ですぐに見つかった。
行き交う馬車の間を通り抜け、商人ギルドの門を潜ると……一瞬、勇樹は中からの熱気に息が詰まった。
「ダメダメ! このビッグベアの革は上級冒険者が卸した傷の無い完品だよ? そんな値段じゃ売れないねぇ!」
「そことそれ、後そこの素材もくれ。それと薬草を幾つか……」
「フラントリー通貨!? あそこは最近、混じり物が多いからエルクレアかグリューゲンじゃないと受け付けないよ!」
「何度言われても、そんなに砂利やゴミが混じっている塩にはこれ以上の値段は付けられないよ。文句があるなら余所へ持って行ってくれ」
商人ギルドの建物は1階部分の壁を取っ払い、そこに何台もの馬車がズラリと並べて駐車しており、その前で商人たちが犇めくように激しい交渉合戦を行っていた。
隣の大声を掻き消す為にさらに大声を張り、相手もまた負けじと大声を張り返し……拳ではなく声と金で殴り合っているような光景に、流石の勇樹も圧倒される。
馬車の間を突っ切って行くのを諦めた勇樹は壁伝いに中へ入ろうとしていた途中、空の樽や木箱が繁雑に積み上げられた壁際の陰で、妙にボロイ服を着て痩せこけた男性と恰幅がよく身なりの良い男性がコソコソと話している場面に遭遇する。
「どうです旦那。コイツは彼の魔法都市から仕入れた魔道具の数々、これだけの上物は滅多に手に入りませんよ? 今を逃すと次はいつ手に入るか……」
「う~ん、確かに装飾は立派ですし、魔法都市製の印も付いていますねぇ。これだけの魔道具ならば良い値が付きそうですが……」
「すみません。ちょっといいですか?」
2人の横を通り過ぎようとしていた勇樹は、痩せこけた男性の持っている魔道具が目について思わず声を掛けた。
突然脇から、それも子供に声を掛けられて痩せこけた男性はイラついた雰囲気を見せる。
「何だ小僧。こっちは大事な商談中だ。邪魔だからあっちへ行け」
「まあまあ、私の方は構いませんよ。坊や、一体どうしたのかな?」
「いえ、ただちょっとガラクタをそんなに集めて何をしてるのか気になって」
突然割って入ってきた勇樹のセリフに、痩せこけた男性は呆れたように肩を竦めた。
「はぁ? 全く、価値の知らないガキはこれだから困る。この素晴らしい魔道具の数々のどこがガラクタだと言うんだ。コレを見ろ、どの魔道具にも魔法都市ケントルム製を示す印が付いているだろ? その上、腕の良い職人による豪華な装飾を施している。これのどこがガラクタだというんだ!」
「でも、その豪華な装飾を施す為に回路が削られて剥き出しになってるので、このままだとすぐに断線して使えなくなりますよ? こっちは変な所に飾りを付けた所為で、動作が阻害されて負荷が掛かってます。しかも、どれも魔術的処理にムラがあるので性能が3割くらいダウンする上に耐久性にも問題が出ると思いますよ?」
そう言って勇樹は男性の持っていたランプ型魔道具のある部分を指差す。
すると勇樹の指摘通り、ランプを点けるスイッチの横の飾りの陰に剥き出しになった回路が見えていた。
勇樹の指摘に痩せこけた男性は目を泳がせ、その様子を恰幅の良い男性に見られている事に気付いてキレ気味に怒鳴り出した。
「い、いい加減な事を言うな! ガキの貴様に魔道具の何が分かる!」
「だから、分からないから聞いてるんじゃないですか。多分ですけど、これって失敗作をそれっぽく飾り付けしただけなのでは? だから細かい処理がされず雑になってるんでしょう?」
「ウグググ……」
図星なのか、痩せこけた男性は口から漏れ出そうになる失言を抑え込むかのように固く歯を食い縛り、言葉にならない唸り声を漏らす。
そこへ恰幅の良い男性がアゴを撫でながら話し掛けてきた。
「ふむ、という事はここにある全て動きもしないガラクタという事なのかね?」
「“全く動かない”というワケではありませんけど、何かしらの不備を抱えている物ばかりですよ。恐らく使い始めてから数日から数週間で、動かなくなるか魔力が暴発して事故が起こると思います」
恰幅の良い男性が勇樹の言葉を確かめるかのように痩せこけた男性の方を見ると、痩せこけた男性はスッと顔を背けた。
その反応を見て、恰幅の良い男性は何かに納得したように頷く。
「どうやら、この坊やの言う通りのようですな。申し訳ないが、ウチで不良品は取り扱えないんで全部持って帰りなさい」
「チッ、後悔しても知らねぇぞ!」
痩せこけた男性は捨て台詞を吐き捨てながら、ガラクタ魔道具を風呂敷に包んで商人ギルドを出て行った。
出て行ったのを見届けた後、恰幅の良い男性はニコニコと笑みを浮かべながら勇樹の方を向き直った。
「いやはや、助かりました。危うく不良品を掴まされるところでしたよ」
「すみません。つい気になっちゃって口を挟んでしまいました。余計な事しちゃいましたね」
「はて、余計な事ですか?」
勇樹の言葉で不思議そうに首を傾げる男性に、勇樹は苦笑いしながら答えた。
「だって、おじさんだって気付いていたでしょ? あの人がガラクタを売りつけようとしていた事に」
その問いに恰幅の良い男性は驚きも感心もせず、笑みを浮かべたまま背筋を伸ばし自身のアゴを撫でて黙ってしまう。
勇樹は何か失礼な事でも聞いたのかと首を傾げる。
そんな様子を、恰幅の良い男性は細めた目を薄く開いて、脚先から頭の先までを値踏みするように見回していた。
暫しの間の後、男性はポンと手を打って勇樹へと手を差し出した。
「そういえば、自己紹介がまだでしたな。私はこの商人ギルドのギルド長をしているガメツと申します。先ほどは凄い観察眼でしたがどこかの工房のお弟子さんですかな?」
「あー……いえ、修行はしていたんですが『もっと世間を見て来い』と師匠に追い出されちゃいまして、今は冒険者をしながら見聞を広めているところです」
「なるほど、それでは商人ギルドへはどのようなご用で? 炭や道具などの買い付けなら職人ギルドの方ですが」
「それが、恥ずかしい話ですが宿代にすら困っている状態でして……これを買い取って欲しいんです」
勇樹はそう言って布に包んだ金インゴットを取り出してガメツに見せる。
布に隙間から金を見たガメツは、手に取って重さを量るような仕草をすると暫し真顔になって考え込み、一転して笑みを浮かべて近くにいた職員を呼び寄せて、何かを耳打ちすると奥へと走らせた。
「なるほどコレをですか……とりあえず物が物なので、奥に部屋を用意させているのでそちらへ向かいましょう。ここで広げるには些か問題がありますから」
「あ、はい」
ガメツに案内されて、勇樹は商人ギルドの館内に入った。
商人ギルドの代表で顔が知られているのもあって、ガメツ入って来たと同時に周囲から窺うような視線が集まる。
気配に敏感な勇樹にとっては、盗み見るような視線でも無遠慮に値踏みする為に至近距離で睨め付けられているのも同然だった。
商人特有の視線に居辛さを感じながらガメツの後を追い掛け案内されたのは、革張りのソファーと飾り彫りが目を引く木製テーブルが置かれた、豪華な雰囲気漂う応接室だった。
ガメツは勇樹にソファーに座るよう勧めると、自分も対面に座って話を切り出した。
「それでは先ほどの話の続きですが、その前にここに鑑定士を呼んで金の鑑定をしてもよろしいですかな? 稀に堂々と偽金を持ち込む愚か者が居りますので」
「あ、はい。気の済むまでどうぞ」
勇樹の了解を得ると、ガメツは傍らに置いていたベルを鳴らす。
すると一拍おいた後、部屋のドアがノックされて片眼鏡を掛けた老人が入ってきた。
老人はガメツに一瞥すると金塊を受け取り、舐め回すように金塊を見始める。
そして、暫く老人は隅々まで視線を這わせると、突如目を見開いて震えだし怯えるようにガメツに金塊を返すと、額から噴き出る汗を拭きながらゆっくりと口を開いた。
「こ、これは間違いなく黄金で間違いありません。それも不純物がほぼない純金でございます! これほどの純金は鑑定した事がありません。い、一体これほどの物をどうやって!?」
「落ち着きなさい。ふむ……しかし、ウチに長年勤めている鑑定士がこれほど取り乱すとは。実に興味深いですなぁ。彼がそこまで言う物であれば、一本で相場の倍の金貨100枚で如何ですかな? 卸して頂ける量によっては、もう少し色を付けても……」
そう言いながらガメツが徐に視線を勇樹に向けると、鑑定士の目も勇樹に向けられた。
2人から睨まれる形となった勇樹は、観念するように肩を竦める。
「分かりました。師匠からも『お前の好きにしろ』と渡されているので、手持ちにある(換金する予定だった分の)金塊を全部出しましょう。1本1kg規格にしているので、全部だと……こんな物でしょう」
そう言って勇樹は出せる金塊の最大数と、それを提示された枚数で売却した場合の合計数を計算してメモに書いてガメツに渡した。
それを見たガメツは一瞬目を見開き、すぐににこやかな笑みを戻した。
「これほどとは、この金塊はえーっと……これは失礼、まだ貴方のお名前を聞いておりませんでしたな」
「あ、はい、僕はユーキ・キサラギといいます。まだFランクの冒険者です」
「Fランクの方でしたか……」
勇樹の言葉にガメツは無意識に喉を鳴らした。
この世界では技術を得た職人が冒険者になるのは珍しい事ではない。
何せ、珍しい素材などは滅多に市場には出回らない為、自分で取りに行くと言う職人は少なからず居る。
そして、その場合にはその職人は独り立ちしたという扱いになり、冒険して出来たコネでどこかに雇われるか自分で店を持つのである。
ましてや、不純物の無い純金を作り出せるほどの職人の伝手となる弟子ともなれば、エルクレア商人ギルド長のガメツからしてみれば、即行で抱え込みたい人材である。
が、長年の商人としての勘がそれを躊躇させた。
具体的に何がというワケではなかったが、勇樹の姿を見ていると何故か囲い込もうという気が失せてしまう。
目の前にいるガメツがそんな事を考えているとは露とも考えず、勇樹は暢気に苦笑いを漏らした。
「あははは、一応師匠からは『好きにやれ』とお墨付きは貰いましたけど……正直な話、師匠の所以外だと簡単な(万能薬の)調合ですら爆発しそうで怖いんですよね」
「(薬草の)簡単な調合すら……それは大丈夫なのですかな?」
「大丈夫です。その為に好きなだけ素材が取りに行ける冒険者になるんですから!」
その返答で一気に不安が増した。
ガメツは愛想笑いを浮かべながら内心で、勇樹への評価を“凄い工房とのコネを持つ相手”から“工房を追い出された不出来な弟子”に格下げする。
ガメツは商人らしく勇樹がコネに使えないと判り、見切りをつけて金塊だけ買い取って帰らせる事を検討し始めた時、その思考を遮るかのように勇樹は「そうだ」と手を叩いた。
「さっき大体のモンスターの素材は冒険者協会で出してきちゃったんですけど、一匹だけ大きい狼の解体が済んでなくて出さなかったんですけど、肉や骨は欲しんで毛皮ってここでも買い取ってして貰えますか?」
「え、ああ、構いませんよ。と言ってもグレイファングの皮でも大した額には……」
完全に勇樹の評価を下げていたガメツは、勇樹の持っているポーチが魔法によって内部の空間が拡張された“旅人の鞄”である事は見抜いていた。
その上で、勇樹が出そうとしているモンスターはEランクでも低級の物だと決めつけていた。
しかし、そんな思い込みは勇樹が取り出した純白の狼を見た瞬間に粉々となった。
それの正体を知っていたガメツは思わず我を忘れて立ち上がる。
「そ、それは! 討伐Cランクの“シルバーウルフ”では!? 知能が高く、率いるグレイファングの数によってはBランク相当に跳ね上がる事から、滅多に市場にも出回らない狼の王ですよ!」
興奮気味に前のめりで話し掛けて来るガメツに対し、勇樹は極普通に感心した声を上げた。
「へー、これってそんな名前だったんですか? 森の中を突っ切ってたら狼の群れに襲われまして、とりあえず殴り倒してたらコレが中に混じってたんですよ。灰色の方は数もあったんで解体して冒険者協会に卸しちゃったんですけど、こっちは売れるか分からなかったんで」
「コレを貴方が……? ゴホン、その心配はありません。シルバーウルフの毛皮と言えば貴族の間でも人気のある商品ですよ。しかも、ほぼ無傷の物が一頭丸々は大変希少なのでどこでも引く手数多ですよ」
「……これってそんなにすごかったんですねー」
勇樹にしてみれば竜の砦に居た角ウサギよりも弱かったので、グレイファングの白変種程度にしか考えていなかった。
しかし、目の前で鼻息を荒くしながらシルバーウルフの亡骸を穴が空きそうな程に見つめているガメツを見て、その認識が間違っていた事に今更ながら気付く。
ただ、それに気付いたところで現物を出してしまったものは引込められないので、勇樹は改めて自分が居た所はとんでもない所だったのだと再認識しがら、シルバーウルフの解体を提案した。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




