02話 少年、再びの王都へ
“平成”が終わり、新元号“令和”での初投稿でございます。
(´・ω・`)漸く2章が始まり、主人公の大冒険が始まり……ます?
「それで? お前は一体何者なんだ?」
命を助けて貰い、馬車まで曳かせて今更過ぎる質問に、少年はちょっと困った様子で答えた。
「僕はユーキ・キサラギって言います。一応、冒険者?をしています。なり立てですけど」
すると、少年の返答にティアナは目を輝かせた。
「冒険者! なんと、お前は冒険者なのか!? それだけの腕前だ、さぞや名の通った冒険者なのであろうな!」
「いや~はっはっはっ……はぁ」
まさか冒険者になって、すぐに山籠もりしていましたとは言えず、曖昧な笑いで誤魔化す勇樹であった。
そして、その曖昧な態度はアンジュの疑念をさらに深める事になる。
何せ、ここにいるのは腐ってもこの国の王女である。
相手が盗賊の扮装ならば、盗賊に攫われた若い女性の末路など騎士団に所属していれば否が応でも耳に入ってくる。
アンジュは勇樹の一挙手一投足に注意を払い警戒していた。
そんな緊張で張り詰めているアンジュを余所に、馬車はあっさり王都エルクレアへ到着。
門に近づいた時に人が馬車を曳いていると騒ぎになったが、馬車を見て慌ててやってきた騎士が新しい馬車を手配したのであっさりと勇樹はお役御免となった。
新しい馬車に乗ったティアナ王女たちに別れを告げた勇樹は、久方ぶりとなる冒険者協会へと足を向けた。
前回訪れた時には冒険者は一人も居らず閑散としていたので、何の警戒も無く扉を開けて中へと入った。
すると丁度、出てこようとした冒険者とぶつかりそうになり、両者とも思わず足を止める。
「ありゃ」
「おっと、ガキか。ちゃんと前見てねぇと、おっかない奴とぶつかったらぶん殴られちまうぞ?」
勇樹とぶつかりそうになったのは身の丈ほどの長剣を携え、自身の背丈よりも長い銀髪を尻尾のようにうねらせた獣人の女冒険者だった。
女冒険者は勇樹の姿を見て子供の使いと勘違いしたのか頭を軽く叩くと、そのまま脇をすり抜けて出て行く。
「おお……本物の獣人だぁ……!」
すれ違いざま、勇樹は女冒険者の頭にピンッと立つ三角の耳を見て、密かに初めて見る獣人の冒険者に感動した。
通常の人間の構造ではありえない、ファンタジー感にあふれたケモノ耳と尻尾に別れを惜しみつつ、初めて見る通常運営の冒険者協会の中に足を踏み入れた。
依頼の張り出し時間は当に過ぎているものの、まだ館内には現代日本ではまずありえない本物の武器で武装した本場本物の冒険者たちで混雑している。
勇樹は夢見た光景に目を輝かせ、期待に胸を膨らませてワクワクした顔で辺りを見回しながら、受け付けカウンターへ向かった。
受け付けカウンターには10代くらいの可愛らしい女性や、眼鏡を掛けた20代の姿勢も服装もキッチリしている女性、そして禿げ頭の中年男性が突っ伏して寝ている。
前者2人には行列が出来るほど冒険者が並んでいるのに対して、中年男性の所には誰も並んでいなかった。
それを見た勇樹は迷わず一番空いている受け付けに向かう。
「こんにちはお久しぶりです! あの時はお世話になりました!」
「ああ? 誰だ、テメェ……」
勇樹が剥げた中年男性――アーノルド・シュヴァッツマンに声を掛けた瞬間、協会内の空気が一瞬にして凍り付いた。
周囲の変わり様に首を傾げながらも、勇樹は気にせず話し掛ける。
「あの時は狂暴なモンスターに襲われて運び込まれたところを御世話……にはあまりなってませんでしたけど、久々に帰って来たんで挨拶に来ました!」
「あぁ? 狂暴なモンスター……あー、毛玉にやられたガキか。ハイハイ挨拶な。じゃあ、用が住んだら後は隣の綺麗な姉ちゃんたちの方へ行きな。丁寧に教えてくれっからよ」
明らかに面倒くさそうに追い払い掛かるアーノルドに対し、勇樹は丸椅子を引き寄せた。
目の前に座った勇樹へ、アーノルドは苛立った様子を隠しもせずに睨み付ける。
「テメェ……何のつもりだ?」
「だって、ここは冒険者協会の受け付けですよね? なので相談に乗って貰おうと思いまして!」
聞く者を底冷えさせるような低く殺気の篭る問いに対し、勇樹はニコニコと笑みを浮かべながらあっけらかんと答える。
暫し、両者の睨み合いが続き、アーノルドの殺気は協会全体を飲み込んで指一本瞬き一つする事すら戸惑う程に、空気は張り詰めていた。
数秒とも数時間とも取れる長く短い時間が過ぎた後、突然アーノルドが大きく息を吐いた。
その瞬間から周囲の雰囲気も一気に弛緩する。
「何なんだよお前は……ちょっとはビビれよ」
「じゃあ、まずは宿について何ですけど!」
「おい、俺の話を聞けよ」
マイペースに話を勧めようとしたところをアーノルドにツッコまれ、勇樹はキョトンとした顔をした。
「何でそう不思議そうなんだよ。ちょっとは遠慮とかねぇのか? 俺の顔を見て思うもんがあるだろ?」
「はい、知っている人の方が話は早いですよね」
「ハァ……」
道ですれ違った子供にすら泣かれた事のあるアーノルドも、ここまで凄んで反撃される事はあっても全く効果が無いのは初めてだった。
これ以上やっても効果がないと判断したアーノルドは、露骨に嫌そうにしながら椅子に座り直した。
その様子を見た周囲からは、ちょっとしたどよめきが起こる。
アーノルドは色々な意味で有名であるが、それ故にベテランから新人まで押し並べてアーノルドの座る受け付けに近づく者は皆無だった。
一番端の受け付けで中級冒険者ですら気圧されるようなオーラを放ち、密かに“不働”の二つ名を縦にしていたアーノルドが、見た事もない若手に折れる光景は周囲に衝撃を与えた。
「ハァ……で? 一体、何が知りてぇんだ」
「まず、そこそこ安全が保障されて食事が付いて、個室に泊まれる宿泊施設ってあります?」
「随分と注文が多いな。それだと……あー、その条件に合う宿となると中級以上向けの所になっちまうぞ?」
この世界では最低ランク冒険者が泊まる所と言えば素泊まりのタコ部屋か、下手をすれば無料の馬小屋である。
勇樹が出した条件の宿に泊まるような冒険者は、一定数稼げている中級以上が利用するような所なので、アーノルドは念を押すように尋ねた。
「はい、こう見えても財産はそこそこ持ってるので。そうだ、ここってモンスター素材とかって買い取りしてますか?」
「ああ、素材の買い取りならそこの奥のカウンターだ。それとこれが宿の地図だ。元冒険者夫婦がやってる宿だから、冒険者向けのサービスなんて物があるし、空き巣なんてつまらねぇモンは近づけねぇよ」
「おお、それは安心ですね」
“防犯意識”という言葉が薄いこの世界では、宿に置いていた荷物が盗まれる事がよくある。
無論、ランクの高い宿ならば警備が巡回するなどして対策を取っている。
しかし、個人経営の安い宿になると一々客の出入りを管理していない所も多く、下手をすると宿自体が犯罪者と結託して盗みを行うケースもあったりする。
ただ犯罪者の命も軽い上に、生死を問わず犯罪者を捕まえると少額ながら賞金も出るので、盗みの現場を目撃した場合には盗人を斬り殺したりする事が良くある。
切った張ったを生業とする冒険者相手には盗みを働くにも命懸けだった。
勇樹はアーノルドから渡された地図を仕舞いながら、次の質問に移った。
「鍛冶とか調合とか練習したいんですけど、この辺で工房を貸してくれる所ってありますか? 」
「あ? 腕に覚えがあるなら職人ギルドに入ってどっかの工房に弟子入りでもしな。こんな物騒な商売するより、よっぽど安全に食えるぞ。寧ろ外に出て怪我でもしたらそっちでも食えなくなっちまうんだぞ?」
「いえ、そういう本格的な物じゃなくて、ホントに手遊び程度の簡単な事しかしないんで、最悪は炉とスペースさえあれば十分ですから」
「手遊びにねぇ……ウチでも貸し工房はあるが四半日の利用で銀貨4枚だ。道具も古い物ばっかで、本気で割に合わねぇぞ?」
「十分です。それじゃあ、換金したい物もあるのでここで失礼しますね。ご丁寧にありがとうございました!」
「おう、もう二度と来んな」
勇樹が深々と頭を下げると、アーノルドは追い払う様に手を振って返した。
アーノルドに教えられた買い取り用カウンターは、まだ午後になったばかりという事もあって利用者は誰もおらず、受け付けにいる男性も暇そうに大きな欠伸している。
勇樹は真っ直ぐカウンターへ向かうと、受け付けの男性も勇樹に気付いて居住まいを正す。
「こんにちは、素材の買い取りはここですか?」
「ああ、そうだ。見たところ新人みたいだが、薬草でも取って来たのか?」
「今回は熊と狼の皮と爪と牙を数匹分持ってきました。眼球とか骨も要りますか?」
「熊に狼? まあいい、取り敢えず出してみろ」
「はーい」
勇樹は素直に返事をすると、腰に付けた“旅人のポーチ”に手を突っ込むと、明らかに外見の容量にそぐわない大量の皮を取り出し、爪や牙に内臓や骨を次々に積み上げて行く。
カウンターから溢れ出しそうな量に、男性は思わず目を丸くする。
「ま、待て、もういい。それ以上は台に乗らん」
「あ、はい」
「ったく、何も持ってねぇと思ったら、そいつは魔法の鞄か? 新人かと思えばとんでもねぇモンを持ってんな……しかもコイツは」
男性がルーペを取り出して、毛皮を手に取って鑑定し始める。
それで何か分かったのか、目を見開いて感嘆の声を上げた。
「グレイファングにグリードグリズリーじゃねぇか! Fランクのグレイファングはともかく、Cランクのグリードグリズリーの皮も見た事ねぇほど綺麗な状態だ。これなら買い取り価格に色を付けても良いくらいだ!」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「おう、じゃあ冒険者カードを出しな。キチンと誰が何を卸したか、記録して置かねぇといけねぇんでな」
「あ、はい」
勇樹は竜の砦で外してそのままだった冒険者カードをポーチから取り出し、それを男性へと手渡した。
勇樹はすっかり忘れていたが、実は冒険者カードとは魔道具の一種であり、ICカードのように登録したギルドのある国、達成した依頼の種類と数、ランク別のモンスター討伐数等々……冒険者としての個人情報が詰まっている。
無論、その情報はどこでも引き出せるものではなく、支部には情報を入力する機械のみを置き、その国の協会本部でのみ権限を持った者だけが閲覧できるシステムになっている。
ノームの里で講義を受けていた際、『冒険者』というシステムが、この世に生まれた古い時代から形を変えずに存在する魔道具の教材として、徹底的に分解した事があった。
冒険者カードにも分解防止機構があるものの、技術特化であるノームの手に掛かればそんな物は無きに等しく、分解した後は綺麗に戻されているので誰にも気づかれる事はない……が、別の問題が発生していた。
勇樹から冒険者カードを受け取り、カードを通した機械の反応を見て男性は顔を顰める。
「坊主、このカードは期限が切れてやがるぞ」
「あー、暫くここに来なかったので……」
「再発行したいなら金貨三枚だが……まあ、ちょっと足りないが色を付けてここにある奴で全額物納って事にしてやるよ……ほれ、コレ持ってそっちへ行きな」
そう言って男性は買い取り金額と自分のサイン、最後に判を押した書面と失効した勇樹の冒険者カードを押し付けると、受け付けの方を差して顎でしゃくる。
仕方なく受け付けに戻ってきた勇樹は、受け付けを見て思わず足を止めた。
丁度、依頼の受け付けラッシュも過ぎて館内にいる冒険者も少なく、受け付けにいた職員も何人かは奥に引っ込んでしまい、残っている女性職員の受け付けには駆け込みでやってきた冒険者たちが並んでいた。
つまり、空いている受け付けは一つしかあらず、勇樹は恐る恐るその受け付けの前まで来ると舟を漕いでいた職員――アーノルドが勇樹に気付いて顔を顰めると、勇樹はピシッと足を揃えて敬礼を取った。
「恥ずかしながら、戻って参りました!」
「……あ゛? 何しに戻って来たよ。俺は二度くんなって言ったよな。あぁ?」
「いやぁ、それがですね。ちょっとコレを……」
そう言って勇樹は買い取りカウンターで渡された紙をアーノルドに渡す。
面倒臭そうにアーノルドがしかめっ面でソレを受け取ると、露骨に溜息を吐いた。
「カードの再発行手続きだぁ? むぅ、費用は買い取ったモンスター素材で全額補填か……つか、これだったら別に俺んとこに持って来なくてもいいじゃねぇか」
「向こうの方からここへ持って来いと言われました」
そう言って勇樹は買い取りカウンターの方へ視線を向ける。
アーノルドもそれに釣られて振り返ると、職員の男性が見られているのに気が付いてアーノルドに向かってサムズアップした。
それを見たアーノルドは恨めしそうに唸り声を上げる。
「ぐぬぬぬ、アイツめ……はぁ、しゃぁねぇなぁ。ちょっと待ってろ」
アーノルドが面倒くさそうにそういうと、書類を持って奥へと引っ込んで行った。
往々にしてこういう事務手続きというのは時間が掛かるものだと、勇樹も身構えていたがアーノルドはものの数分で戻ってきた。
「ほれ、コレが新しい冒険者カードだ。もう失効したりすんじゃねぇぞ」
「はーい」
すぐに帰ってきたにも関わらず、妙に不機嫌なアーノルドから冒険者カードを受け取った。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




