25話 少年、勇者の遺物を見学する
(´・ω・`)最近では戦闘力のインフレなんてありふれ過ぎて、何がインフレなのか分からなくなっています……
“時間を止める”なんて大した能力じゃない……?
前回、見本としてナイフを渡された勇樹は、続いてここへ来た事があるという『前の勇者』が残した道具を見せて貰う事となった。
厳重な扉を幾つも潜り抜けた先には、大小様々な武具や、用途の解らない道具が棚にずらりと並べられていた。
どこか重みを感じさせる空気を放つ道具の数々に、勇樹は笑みを深める。
「こ、これが勇者の武器……」
「うむ、正確には試作品のガラクタの山だ。何せ、タケシが素材とアイデアを持ち込んでは、我々が面白がって作った物を、片っ端から持って行っては壊して持って帰って来るからな。幾つかは使えるだろうが、半分以上は壊れたままだ」
「直したりはしないんですか?」
「ここにあるのは全て、タケシが王獣やその上の神獣に挑むために用意した物だ。直したところで、星を幾つも消滅させるような力は今のところ必要としていないな」
裏を返せば、『必要であれば幾らでも使う』というニュアンスの発言を、勇樹は聞かなかった事にしてスルーした。
棚の上の物に目を滑らせていると、中に小さな剣が浮かんでいるガラスの球体が目に留まる。
「何だろうコレ、剣? コレってスノーグローブ的な飾り?」
「ああ、それか。ソイツは竜と戦う為に作った空間を断つ魔剣だ。途轍もなく巨大な上に普通に置いておくと周囲の空間を傷つける為に、そうして特殊な鞘に納めている」
「巨大って、そんなに大きくは見えないけど……」
「そちらの世界では『船を斬る剣』?とか言うらしいな。船を剣で斬るなど、どういう発想をしているんだ。お前たちの世界は」
ジェイドの言葉に勇樹は何の事か分からなかったが、少し考えてからとある架空武器を思い出す。
しかし、元ネタがゲームである事ぐらいしか知らなかった勇樹は、件の勇者が同じ発想から来ているとは限らないと思い、曖昧な笑みを浮かべて流す事にした。
「それでこっちは……槍? それにしては先端がドリルみたいに尖がってるけど……」
「ああ、それは触れたものを空間ごと削り取って消失させる魔槍だ。封印はしてあるが、迂闊に触るな」
ジェイドの忠告に、勇樹は伸ばしかけていた手を思わず引っ込める。
勇樹は恐る恐るジェイドの方を振り返った。
「あの……魔王ってこれだけの物を使わないと勝てないんで?」
「ここにあるのはタケシ曰く“裏ボス専用”とやらで、作ったのは魔王を倒した後の話だ。最も、これだけの物を揃えても神獣には軽くあしらわれて終ったらしいがな」
微妙に回答になっていない返答をしながら、ジェイドは一本の刀を手に取った。
僅かに引き抜いて見せた刀の刀身は黒く、光すら反射せずにまるで塗り潰されたかのように、ただそこだけが黒い刀だった。
「えーっとジェイド先生、コレは?」
「コイツは禁術をそのまま刀身の形に押し固めた代物だ。それ以上近付くなよ? コイツは何でも消滅させてしまうからな」
「言われなくとも、近づきたくもないです。その刀を抜いた瞬間から、よくわかんない部分がビリビリ来てます。背筋もゾワゾワして気持ち悪い……」
「うむ、無意識でこの剣の危険性を感じ取っているのか。だが、タケシはこんな物を軽々と扱っていたぞ? 流石に普段使いはしていなかったようだがな」
「あははは、僕だったら持ちたくもないですね。近くにあるだけでも落ち着かないし、何か呑まれそう」
刀が放つ圧倒的な力を通して、そんな物を軽々扱っていた勇者を思い描いて、勇樹は身震いする。
ジェイドは刀を元に戻すと、話は終わったと言わんばかりに倉庫を出て行く。
道具たちの発する威圧感に、勇樹もスッカリ好奇心の虫も引っ込んでしまったので、大人しくジェイドの後を追いかけて行った。
工房に戻ってきたジェイドは、幾つかのインゴットを取り出した。
それぞれ宝石のように光る金属、白っぽい金色の金属、薄ら光っている緋色の金属、先ほど見たミスリル、独特な波のような文様のある金属が金床の上に並べられる。
「まず右からアダマンタイト、オリハルコン、ヒヒイロカネ、ミスリル、ダマスカス鋼だ。主にこの5つが魔力を通しやすい、または通しにくい金属としては有名だ」
「通しやすいのは分かるけど……通しにくいのはどうしてですか?」
「魔力が通しにくいというのは、それ即ち魔法に対する耐性が高いという事だ。特にアダマンタイトは魔力の絶縁性と硬度が高く重量もあるので、城の壁などによく使われていた」
「なるほど、けど大きさが多少バラバラな中で、アダマンタイトのインゴットだけがやけに小さいですね」
勇樹の言った通り、アダマンタイトのインゴットだけが他の金属のインゴットよりも小さく、厚さも半分程度しかなかった。
「大きさが違うのは重さを1kgで統一しているからだ。そして、アダマンタイトだとこの大きさにしかならんのだ。だからこれは性能の割に盾などの装備には向かん」
「え、これだけで1kgあるのか……」
パスポート程度のサイズしかないインゴットを見て、その重量に若干引き気味になる。
これだけで1kgでは純アダマンタイト製の盾を作ろうと思えば、1百kg以上になってしまい持ち歩く事すら叶わない。
「次がオリハルコン、硬く伝導率が良く魔力を通す事で重量を自在に変える事が出来る、武器や道具に良く向いている金属だ。但し扱うのが物凄く難しい上、希少性も高いのでほとんど出回らん。ウチでもオリハルコンはあまり扱っていない」
「おお、これがファンタジーでお馴染みの幻の金属……っ!」
オリハルコンと言えば大概のゲームやマンガなどでは最上位アイテムであり、それを使った道具は伝説級というのがテンプレである。
そういう物を嗜んでいた勇樹としては、感動の一言であった。
「こ、これを使った剣とかはないんですか!? 剣じゃなくても槍とか楯とか斧とか!」
「いや、ナイフは数本あったかもしれないが剣は無いな。作る意味が無い」
「なんで!?」
幻の金属との対面にテンションが上がっていた勇樹は、伝説級の武器が見られるかも知れないという期待を裏切られて、少し食い気味に詰め寄る。
「人族には伝わっていないが、コレの上位金属があってな。態々次点のオリハルコンで作る意味が薄いのだ」
「地味に酷い理由だった!?」
「里にオリハルコンが少ない理由も、殆どがそっちの金属を作る材料にされる為に必要最低限しか取り置きが無いのだ」
「ま、幻の金属が次点扱い……なんて世知辛い世の中なんだ……」
崩れ落ちる勇樹を気にも留めずに、ジェイドは緋色の金属を指差す。
「これはヒヒイロカネ、コイツの特性は自身が魔力を内包し、随時放出している事にある」
「魔力を、放出?」
「触って見ろ」
ジェイドに言われ、隣のミスリルのインゴットと触り比べると、金属らしい冷たいミスリルに対してヒヒイロカネはほんのり暖かかった。
「特にヒヒイロカネは融点が決まっていて、それより僅かに高くても低くても融けない性質を持っている」
「うわ、それって結構大変じゃないですか」
「安心しろ、絶えず魔力を送り続け高温を維持しなければならないのは他も一緒だ。寧ろオリハルコンなどは叩く時も魔力を込めるので、高い集中力と精神力が必須事項だ」
「それの何が安心なんですか!?」
ジェイドの冗談ともつかないセリフに思わず金床に突っ伏してしまう勇樹。
だがそんな勇樹を見てジェイドは、鎚を取りだして勇樹の顔の前に置いた。
「というワケだ」
「というワケって、どういうワケ?」
「後のミスリルは加工前だと銀と変わらんし、ダマスカス鋼は炉の温度さえを付けていれば割とすぐに覚えられるだろう。打て」
「え、自分まだ何も教わってないんですけど……」
「金属の扱いは聞くよりも慣れろ。何、練習用の予備なら幾らかあるので安心しろ」
「……へーい、結局こうなるんですねー」
勇樹は渋々、ジェイドと向い合せに座る。
轟々と熱気を噴き出す炉を前に座り、全身から滝のように流れ出す汗に耐えながら、その日はジェイドが「良し」というまで、勇樹は意識が飛びそうになりながらも必死に鎚を振り続けた。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




