24話 少年、ノーム達に弟子入りする
(´・ω・`)元々「こどもの日」は田植えを行う女性のための祝の日でした。
その際に飾っていた菖蒲がのちに『菖蒲→ショウブ→尚武』となり、菖蒲の葉の形が細く尖っている事から武器を連想させるので、男の子の健康を祈願する日となったそうです。(うろ覚え)
あと鯉のぼりは父子家庭。
ノームの里に置いて行かれた勇樹は早速、ジェイドに頼んでノームの里の見学を頼んだ。
何せ精霊族であるノームの知識には、既に地上から失われている魔法や道具、前の勇者が漏らした言葉から再現した地球の技術と、それを融合させた魔法科学技術など勇樹の好奇心が刺激される物は山と合った。
薬学、生物学、魔法学、製鉄技術、魔道具製作、古代魔法知識etc.……、ノームが抱える知識を教わり回った。
そして勇樹はその対価として、リハビリも兼ねて手伝いを買って出た。
1日目に案内されたのはポーション薬専門のノーム、調合師コラルの研究室だった。
薬の研究をしているだけあって、部屋の中には大小様々な瓶や何かの標本がズラリと並んでいる。
「ぶっちゃけ、ポーションの配合はランクが上がるにつれて素材こそ変わるけど、基本的な比率と素材の役割は何も変わってないのよさ。だからエリクサーが調合できれば、ほぼ全てのポーションは作れるなのよさ」
コラルはそう説明しながら、超高ランクの素材を目分量で無造作に調合して行く。
「あの~、コラル先生? エリクサーって一口飲むだけで、どんな異常も完治する万能薬って聞いたんですけど?」
乱雑に配合しているように見えても、実はその量は0.01mg単位の誤差もなく正確に調合を行っている。
千年以上繰り返して体に染み込ませた技術と、貪欲に溜め込んだ知識の技である。
「それだけじゃないだわよ。欠損した部位を生やしたり、死に掛けの人間でも蘇らせられるだわさ」
「滅茶苦茶レアな秘薬じゃないですか!」
「エリクサーだろうがポーションだろうが原理は一緒だから気にしないだわさ。それにどんなランクだろうが結局配合にはシビアになるんだから、一番難しいのから始めれば後が楽なのよ」
「無茶苦茶だ!? 乗用玩具で運転出来たら実際の車も行ける並みの暴論だ!」
「暴論も理論なのだわさ」
「いや、それは違うからね!?」
豪快に笑いながらコラルが次の小瓶に手を伸ばしたが、顔を顰め軽く振るうと蓋を開けて逆さまに振った。
しかし、中からは数滴の滴が落ちただけで、それ以降は何も出てくる気配はなかった。
「あ~、これ切らしてたのだわ。そうねぇ……」
コラルはフラフラと視線を走らせると、勇樹を見てニヤリと笑った。
そして薬研や擂鉢などの器具と、部屋にあった幾つかの植木鉢から草を引き抜き、引き出しに入っていた石ころを持って勇樹の前に置いた。
「……へ?」
「ちょっとやってみるだわさ。何、調合するのはエリクサーよりランクが下の霊薬だわよ」
「いやいや、ランクが下なんて言っても難易度はエリクサーとどっこいどっこいですよね!? さっき渡された本にも、Cランク以上の薬になってくると調合のタイミングや力加減、部屋の温度にまで気を使わないと爆発の危険ありって書いてありましたけど!?」
「そんなのは覚えれば簡単にできるだわさ。ほれ、良いからやってみるのだわさ!」
渋る勇樹を引きずって、コラルは勇樹に薬研を持たせた。
何度か失敗しながらも霊薬の調合に成功し、テンションが上がったコラルは強引にエリクサーの調合まで勇樹にやらせて……部屋を吹き飛ばした。
コラルの研究室を吹き飛ばした所為で掃除に駆り出されて終わった翌日、勇樹が案内されたのは魔法道具製作の専門家タンザの工房だった。
「……魔法具の刻印は正確に刻む事が要求される。毛一本分でもズレがあれば術式が暴走して暴発する事も良くある事だ」
「へっへっへっ、こういうチマチマした作業って嫌いじゃないから任せてください!」
試しにと魔法式ランプの基盤と工具を渡されて、腕捲りで張り切る勇樹。
渡された図面を基に、慎重に金属板に魔術式を刻んで行く。
「それにしても先生? たかがランプに何でこんなに細かくて複雑な魔術式が必要なんですか?」
暫くチマチマと作業していたが、脇でタンザに無言で覗きこまれる事に耐えきれなくなり、勇樹は気分転換も兼ねてタンザに質問をしてみた。
するとタンザは徐に勇樹に近づいて、見本の図面の幾つかの箇所を指差してゆく。
「……この辺りが灯りを調節する機能、ここがタイマーでこの部分が一定の動作でオンオフができる機能だ」
「無駄に高性能だった!? というか、この術式って細かすぎません? なんだかスジ屋さんになった気分なんですけど」
「……線を引く際は細心の注意を払え、隣の線と接触していたら暴発の危険がある」
「うう……今更だけど、ここで要求される技術って滅茶苦茶高くない?」
チクチク作業して、完成した基盤を折角なので使ってみると……線を1つ書き忘れたせいで1度点けたら消えないランプになってしまった。
結局、切るには一々分解して中の魔石を取り外すしかないという事で、勇樹の初めて作った魔法道具は廃棄が決定した。
講義が午前中で終わったので昼食も兼ねて食品専門の見学に行った。
「一口に料理と言っても、様々な形式の物があるノーネ。食材一つ、調味料一つ違うだけでその料理の印象は全く変わってしまうノーネ! 特に保存食になるとその日の温度や湿度に注意しないと、味も風味も全てダメになってしまうから気を付けるノーネ!」
「おかしい、僕はお昼ご飯を作る場所って聞いて来たのに、何で煙に巻かれて燻製を作っているんだ……」
勇樹は現在、携帯保存食専門トルマの指導の下で、燻製室の天井のフックに肉塊を吊り下げる作業を行っていた。
勇樹のボヤキを聞いて居たトルマは、手を叩いて活を入れる。
「ほらほら、ボヤボヤしていると肉が暴れ出すノーネ! まだ新鮮だから肉も生きてるノーヨ!」
「それっておばちゃんが良く冗談で言ってる『肉が生きてる』じゃなくて、本当に生きてるんですね、分かります。ぶっちゃけ、今持ってる肉も脈打ってて不気味なんですけど」
「そりゃ、ドラゴンの肉だからね! また生えて来るからってドラグニールから尻尾の先を少し貰ったノーネ!」
「僕が言うのもなんだけど、赤爺は色々聞き過ぎじゃないですかねぇ……」
たった今、自分が目の前に吊るした赤黒く脈打つ肉を見て、とても切なくなった。
「というか、食品部門って普通こういう場合、前の勇者たちが伝えた食べ物とか扱ってるパターンじゃない?」
「そういうのが食べたかったら錬金術部門に行くノーネ。ここじゃ、そういうのは一切扱ってないノーヨ」
「錬金術!?」
意外かもしれないが、地球でもその分野の学校では実際に料理を作るのと同時に食品で起こり得る化学変化も勉強する。
肉や卵に火を通すと変色する原理や、醤油や酒を造る上で欠かせない発酵、梅干しの色付けに紫蘇を入れる酸化還元など化学反応を利用した物は多い。
日本では知育菓子という化学反応を利用した科学実験セットの様な物が、子供の小遣いで買えるのである。
ちなみに醤油やマヨネーズなどの調味料は、ノームの里では取り扱う部署だけに薬剤扱いとなっていた。
「お駄賃は私特製の保存食をあげるノーヨ。余分にあるからジャンジャン持ってっちゃって良いノーネ」
「……もしかしなくても在庫処分ですよねこれ」
勇樹の問いにトルマはそっと顔を逸らした。
ノームは殆ど飲み食いが必要なく嗜好としてしか消費が無いので、特に保存食は消費が少なく在庫が余りまくっていたのである。
3日目は勇樹のたっての希望でジェイドの武器工房になった。
と言っても、素人の勇樹がいきなり鎚を握らせてもらえる筈もなく、初日はジェイドがナイフを打つところを見学する事になった。
「武器に魔法付与を施す場合、素材の時点で魔力に慣らす必要がある。熱した金属に魔石の粉と魔獣の骨粉を灰に混ぜた物を撒きながら、槌で叩いて魔力を金属に叩き込む事で、魔力を織り込んで行く。この作業でどれだけ魔力を込めたかで、金属の魔力含有量が変わる」
そう言ってジェイドは腰に下げた鎚を手に取ると、魔力を流して纏わせる。
鎚の面の部分が魔力光で輝き出して、その鎚で紅く熱された金属を叩きつけた。
「そして、成形する際に頭の中で魔力の通り道をイメージしながら、その通りに魔力を流していく。こうする事で、既存の製品では魔法付与できる容量は多くても3つが限度だが、こうやって作る段階から作り込む場合には、その上限はほぼ無い」
「後からくっ付けるよりも製作段階から盛り込んだ方が、余裕があるって事ですね」
「そういう事だ」
そうして勇樹に開設を織り交ぜながら、ジェイドは2時間ほどで一本のナイフを打ち終えた。
出来上がった刀身の柄に、拵を付けて固定すると勇樹に渡した。
「えーっと、ジェイド先生? これは……」
「それは見本だ。俺の下にいる以上はコレくらいはやって貰うつもりだ」
「え、え~……」
素人目にも素晴らしいナイフを渡され、そんな事を言われた勇樹は言葉すら紡げずに、ただ困惑の声を上げる事しかできなかった。
その様子を見たジェイドがふと思い出したように呟いた。
「そういえば赤賢竜が言っていたが召喚された勇者たちは、まだ一人も死んではいないようだな」
「え、そうなんですか? 前に聞いた時は3ヶ月で半分ぐらいには減るんじゃないかって聞きましたけど……」
「どうやら、戦う者とそれ以外をハッキリと分けて役割分担をしているようだ。そのお蔭で戦える者のレベルを優先的に上げているらしい」
勇樹もそれを聞いて納得した。
確かにゲームでもジョブによって、役割も使う技も違うのは当たり前である。
伸び率が悪いと分っていて剣士を魔法系に育てて後衛には置かないし、防御の薄い魔法使いを前衛系に育てない。
但し問題はこの世界がゲームではなく現実だという事と、いつかは魔王と戦わなければならないらしい事であり、ある程度はレベルを上げておかなければ支援系でも辛い筈であった。
「恐らく、そろそろ王国は勇者たちに盗賊狩りをさせる筈だ。そこで折れる者も出て来るだろう」
「あ~、確かに人型のモンスターを殺すのって抵抗ありましたね~」
勇樹も“竜の砦”に来た当初は、生き物を殺す事を躊躇していた事もあった。
しかし、たまたま小動物が肉食モンスターに襲われているのを見て死ぬ思いで助けようとしたが、庇った小動物に背後から刺された時に何かがブチ切れた。
それ以来、死にまくり修行の体験も合わさって、勇樹の中での価値観は召喚前とガラリと変わってしまっていた。
「竜の里でも修行と称して色々させられましたから、正直自分が生きるので精一杯でモンスターが可哀想とか考えている余裕ないです」
「それでいい、お前は弱いのだから出来る範囲でやっていろ」
「分かってます先生! ……だからこれも出来る範囲にはまだちょっと入んないから、もう少し見てるだけで十分かな~って、言ってみたり……」
「安心しろ、出来るまでみっちり教えてやる」
「そう言うと思ってましたよチクショウ! お願いしやっす!」
勇樹は差し出された鎚を奪い取るようしながら、半ばヤケクソ気味に叫んだ。
そうして勇樹はノームの里で、ノーム達の師事を受けながら過ごす事となった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




