26話 少年、回転する円卓の上で叫ぶ
(´・ω・`)覚えられないなら、詰め込めばいいじゃない。
但し暗記breadだと直前のトイレに注意ですね。
勇樹がノームの里へ来て1週間ほど経った。
今までとは違い、命の危険もない環境に勇樹は自分の趣味を全開にしていた。
ノーム達も無邪気に自分たちの研究内容を尋ねる好奇心旺盛な勇樹に、面白がって我先にと教え始めていた。
ノームに限らず精霊族はその殆どが自然発生的に生まれる為、殆どの知識を備えた大人の状態で生まれてくる。
故に子育てを経験する事が無く、特に物を教えるというのはノーム達にとって物凄く新鮮な事だった。
故に勇樹のスケジュールも学校の時間割のように割り振られ、時間を決めて誰が何を教えるかを事細かに決めていた。
しかし、そこには弊害があり……
講義終了の鐘が鳴り、魔法技師のアレキサとジェイドによる『道具に対してのエンチャント』の講義が終わった。
ジェイドが終了を告げると、同時に勇樹は机に突っ伏す。
「あ~、確かにファンタジーは大好きだし、先生たちの講義は面白いけど、それと勉強を覚えられるかは別問題だよね……」
1日で午前と午後の2回だけでは教えられる数が足りないという事で、学校のような時間割形式で教えてもらう事になったのまでは良かった。
しかし、朝から晩まで10分休憩とお昼休憩を挿みつつ、2時間の講義を受け続けて勇樹も流石に疲労困憊だった。
しかも、生徒は自分一人なので居眠りなどできる筈がなく、修行の時とは違った大変さを味わっていた。
……そんな風に頭が余り回っていなかった所為で、勇樹は後に自分の身をある意味で脅かす台詞を呟いてしまう。
「はぁ、人間もパソコンみたいにデータをインストールできたらなぁ」
「ん? それはどういう事アル?」
勇樹の呟きを聞いたアレキサが、興味を持って聞いてきた。
「あえ? ああ、人間っていうのは電気信号で動いてるんだよ。だから、僕の世界の創作物なんかだと、直接人間の脳に覚えたい情報を流し込むって話があるんだよ。昔の映画だったかなぁ」
「ほほぅ、それは初めて聞いたアル」
勇樹の話はノーム達に衝撃を与えた。
ノーム達にも生物学や医療系を専門にしている者はいる。
しかし、それはあくまで研究する上で必要な知識であって、病気も何にもないノームにはそれを専門にして生かす場面が無い。
ノーム達にとって知識とは自らが発見してこそ意味がある物であり、助言を貰う事はあっても他人から全てを教えて貰うという発想は考えもつかなかった。
最近、ノーム達の間で問題になっていたのが、密かに流行っている勇樹に自分たちの技術を教えるという事に対して、勇樹の覚えられるキャパシティが明らかに足りない事だった。
頭は悪くないが、決して勉強ができる方ではない勇樹にとって、1度の講義で教えられた全てを覚える事は不可能だった。
好奇心旺盛で教える方としても楽しいが、如何にせん一日に教えられる量は決まっている上、ノーム達の技術は多岐に渡る為、基礎を1つ教えるだけでも何度も教え込まなければならない。
ノーム達には無限に近い時間があるが、全てを教える前に勇樹に限界が来るかもしれない事を懸念していたところへ、全てを解決できる策が見つかったのである。
「……それがこれですか?」
現在、勇樹は丸い手術台の上に手足を固定され、パンツ一丁の状態だった。
部屋の中は薄暗く、手術台の上にあるライトだけが煌々と勇樹を照らしている。
ハッキリ言って、どこかの悪の組織の人体実験のようであった。
「安心しろ。既に実験は何度も成功し、頭に注ぐ内容も各分野の基礎に抑えた」
「それの何処に安心しろと!?」
それは彼是10分ほど前、錬金術の講義の前に勇者が好んで食べていたというケーキを差し入れられ、懐かしさのあまり貪るように食べて皿まで舐め取った。
直後、強烈な眠気が襲い掛かり現在に至る。
「昨日から様子がおかしいと思っていれば、これを計画してやがったんですねチクショー! はーなーせー!」
勇樹の叫びも虚しく、頭上のライトがゆっくり下がり、何故かドリルやチェーンソーの唸り声のような音が聞こえて来る。
「人間の記憶は様々な分類に分けられるらしいな。おかげでこちらの入力する知識を分類分けするのにも苦労した」
「そうですか大変でしたねって言うとでも思うてか! とりあえずこれ止めて! 何か悪の軍団に改造人間にされてそうで怖い! 黒い幽霊じゃないよ!?」
「大丈夫、すぐ済む」
「止めろ! 止めるんだ。ノーム!」
何とか枷が外れないかと暴れて抵抗するが、そこそこ高レベルの勇樹の筋力を持ってしても枷はビクともしない。
「ちょ、マジで何この枷!? 全力でやっても外れないんだけど!?」
「そりゃ、竜が踏んでも壊れないアダマンタイト合金で作った特別製の枷だからな。硬いから加工するのには苦労したぞ」
「そういう問題じゃないよ!? ホント、マジで洒落になんないから!」
勇樹が喚いている間にも、周りのノーム達はカチャカチャと音を立てながら準備を進めている。
時折見える光を反射した刃が勇樹の恐怖を一層引き立てる。
「たんま、たんま! 止めてー! 鬼! 悪魔! 人でなし!」
「確かにノームは精霊族だから、この場に普人族はいないな」
「そういう意味じゃねぇよチクショー!」
「すぐ済む、少し寝て居ろ」
首筋にチクリと痛みが走り、強烈な眠気が襲い掛かる。
命の危険を感じた勇樹は必死に抵抗して暴れたが、それが逆に薬を速める事となり数秒で意識を手放した。
「はっ、知らない天……いや、そもそも天井って印象に残る物じゃないから覚えてるワケないじゃないか!」
「……お前は起きる時ぐらい静かに起きれんのか」
勇樹が目覚めたのは、ノームの里での自分の部屋のベッドだった。
身体を起こして声のした方を見ると、ジェイドが呆れた様子で頭を掻きながら入口に立って居た。
「気分はどうだユーキ。大丈夫だとは思うが、一応どこかおかしい所は無いか?」
「痛い所とかは特にないですけど……頭の中が掻き回されたみたいにグワングワンいって酔いそう……気持ち悪い」
「里に居るノームの知識を詰め込んだのだから当然だ。暫く大人しくしていれば馴染む」
一度に大量の情報を詰め込まれた勇樹の脳は、それに適応しようと竜の心臓の魔力を使って変化しようとしていた。
勿論、ノーム達はそれを狙って行っていたワケで、魔力による脳の変化は実験でも何度も確認されていた。
最も実験時には危うく、一匹のモンスターが知識を持った所為で世界の危機になり掛けたが、ノームも破滅願望は無いのでさっさと処分された。
ジェイドは勇樹の体に異常がない事を確認すると、記録を付ける為に部屋を出て行った。
ジェイドの背中を見送りながら無事に目覚めた事に感動しつつ、自分の身体におかしな所が無いか確かめる為に【能力表示】を唱えた。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
ユーキ・キサラギ
AGE:16 SEX:M
Lv1
属性:無(竜)
称号:『巻き込まれた一般人』//『種族:半竜人』『ノームの里の弟子』『生体知識庫』
スキル:《異世界言語》Lv5 《■■■■(未覚醒)》 『竜の心臓』Lv1(3/6)
《気配遮断》Lv7 《直感》Lv8 《剣術》Lv7 《格闘術》Lv4
《投擲術》Lv3 《棒術》Lv5 《ナイフ術》Lv1 《回避》Lv5
《魔力感知》Lv5 《魔力操作》Lv6 《詠唱破棄》Lv3
《竜魔法》Lv2 《魔法全般》Lv‐
《星の知識(ノーム)》Lv8
《猛毒耐性》Lv10☆ 《苦痛耐性》Lv9 《幻惑耐性》Lv6
《恐慌耐性》Lv6
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「なぁにコレェ……?」
見覚えの無いスキルと称号が増えている事に、勇樹は思わず目を見開いた。
「《道具作成》関連のスキルが消えて統合されてた? この《星の知識》って一体……」
なんだろうと考えた瞬間、勇樹の視界にステータス画面とは別に表示が現われた。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
《星の知識(ノーム)》
生産技能学術系スキル。
ノームの知識を基に構成された魔術式大事典。
所有者の望む知識を引き出し、技術を再現できる。
なお、解説は所有者の認識に準ずる。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「うわぁ……なんかとんでもないスキルを手に入れちゃったぞ……」
勇樹は知る由もないが、この世界の文明は魔王の出現する度に戦いで幾つもの国が亡びるので、その国にあった技術などが失伝してしまう事がよくあった。
しかし地上で失伝した技術は好奇心旺盛なノームたちの手によって、里に蓄積されて研究され続けていた。
さらにノーム達は度々異世界人と接触しており、その度に地球の様々な技術を聞いては自分たちの技術と融合させていた。
その結果、全く新しい魔法科学と呼べる分野まで現れたのだが、そんな地上に出たら大騒ぎになるであろう知識を手に入れた勇樹は考えて、一つの結論に達した。
「うん、見なかった事にしよう」
『思考の放棄』、ある意味一番賢い選択をした勇樹だった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
2019/05/03 主人公のステータスを変更しました。




