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岩見優司のリア充(?)な日常  作者: 霧島こう
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第九十六話 まゆと弥生のダブルアタック 後編

第九十六話 まゆと弥生のダブルアタック 後編


 久しぶりに会った弥生から、真剣な顔で提案したいことあると言われた。妹会長やまゆが立て続けに、テスト関係で賭けを持ちかけてきたので、弥生の言う提案とやらも、テストにまつわるものだということは薄々分かった。


「提案? それってテストに関係しているのか?」


「はい」


 弥生はコクリと頷いた。


 やっぱり聞くのを止めておけば良かったと今更ながら思った。こういうのは面倒なことになると、相場が決まっている。


「廊下で鹿内さんからテスト問題さえ手に入れば、岩見くんがテストで満点を取れるって話しているのを聞いたんです」


 あの場面を聞いていたのか。すぐに忘れてもらって構わないのに。ていうか、聞かれていたのが、弥生で良かった。先生にでも聞かれていたら、今頃呼び出しを食らって説教コースだ。


「確かテスト問題を盗む、盗まないで揉めていましたよね」


「早智の馬鹿がそんなことを言っていたな。それは俺のためにテスト問題を盗んできてやるってこと?」


「はい!」


 澱みのない目ではっきり言われた。不正をしますってことだろ? そんなはっきり言われてもな……。


「そっちの要求は?」


「私とキスしてください」


 この流れだとそう来ると思ったよ。妹会長と言い、まゆと言い、どうして賭けに買った賞品がキスなんだろうな。板チョコでもいいので、食べられるものの方が良いのに。


「気持ちだけでいいよ。俺のためにそこまで体を張ることなんてない」


 もしばれたら退学は免れない。画家として輝かしい未来が待っているのに、こんなつまらないことで躓いて良い訳がない。


「……そうですか」


「夏凛や七海とは偶然と言うか、事故だったんだよ。良い訳にしか聞こえないだろうけど、俺の意志でやった訳じゃない」


 本当に良い訳にしか聞こえないなと、話しながら自分に呆れた。


「もういい加減気付いていい頃だ。俺はろくでもない人間で、交際する価値なんてないということに」


 こういう言い方は、今交際している陽菜にも失礼だが、これで弥生の気が少しでも晴れてくれるなら安いものだ。


 弥生は無言のまま、俺に向かって礼をすると、俺の横を通り過ぎていった。出来れば、これで俺への想いを断ってくれると大助かりなんだけど。


 しかし、大人しい顔をして大胆なことを言いだすな。あの眼は本気だった。もし、俺がお願いしていたら、本当にやっていただろう。惚れた男のためとなると、周りが見えなくなるタイプか。将来、悪い男に引っかからないか心配だ。


 去っていく弥生の後姿を見ていると、その前にまゆが立ち塞がった。


「次は私とお話ししましょう、高坂さん。お話があるの♪」


「何だよ、まゆ! 密談は良くないぞ!」


 このまま二人で話し合いを持たせてはいけない気がしたので、つい声を張り上げてしまった。


「あら? 彼女でも、兄妹でもない女子が、話し合うことに口を出すことは出来ない筈よ」


 まゆの言う通りなのだが、二人とも、俺にキスを要求してきた人間だ。その二人が話し合いを持つということに、どうしても嫌な予感を感じずにはいられない。


 だが、まゆの言う通り、俺に二人の会談を止める権利はなく、歩き去る二人を見送ることしか出来なかった。




 その日の放課後、学校が終わると、陽菜と妹会長、七海の四人で仲良く(?)帰路についた。今晩から、俺の家でテスト合宿をすることになっているのだ。副会長から急な仕事を頼まれたということで、夏凛はリタイヤになった。


「優司の家に行きたかったのに~!」


 直前まで嘆いていた。そんなに良い家ではなかった筈だぞ。広くもないし、大きな風呂もない。


 仕事を早急に終わらせて、意地でも合流すると息巻いていたが、そこまで頑張ることはないと突っぱねておいた。


「しかし、テスト直前まで仕事とは、生徒会も大変だね。お前ら、手伝わなくていいのかよ」


「予算関連のことだから、私や会長じゃ意味が分からなくて手伝えないわ。それに、私だって、テスト勉強に集中したいの」


 さすがの七海もテスト勉強しないと不安らしい。それは夏凛だって同じじゃないかと反論すると、ああ見えて夏凛は日頃から勉強している真面目さんだから、テストの方は大丈夫と付け加えられた。


 途中でスーパーに寄って、携帯電話の着信音が鳴り響いた。出てみると、早智の無駄に大きい声が脳内に響いた。


「今バイトが終わって帰るところなんだけど、今晩何か食べたいものとかある?」


 嬉しいことに、俺たちの代わりに買い出しをしてきてくれるらしい。


「う~ん、カレーでいいかな」


 お子様もいることだし、連続で鍋と言うのも飽きるし、ここはカレーを食べておけば間違いないだろ。


「了~解!」


 早智の明朗快活な声がした。お使いを頼まれて、これだけテンションが高い奴も珍しい。


「……」


「何? まだ何かあるのか?」


「この会話ってラブラブのカップルみたいね。優司も美咲さんとこんなことしたいとか考えているの?」


「カップルじゃないけど、お前は働き者だから、良いお嫁さんにはなれるよ」


 「やだ、優司ったら! 私をおだてても何も出ないわよ」と電話口で早智が言っているのを聞いてから電話を切った。おだてても無駄だと言っていたが、少なくとも、俺の分のカレーに肉が増量されるのは確かだ。


「今の電話、馬鹿内から?」


「鋭いな。今の会話で分かるのか」


「あんなセクハラ紛いの会話をする相手なんて、他にはいないでしょ。お肉の増量、おめでとう」


 七海には何でもお見通しか。ここは下手に言い返さないで、苦笑いで切り抜けるか。


 鍋と違って、カレーなら食材がそんなに多くならないので、早智一人でも大丈夫だろう。という訳で、スーパーには寄らずに、自宅に直行することにした。


 先に勉強をしながら待っていると、買い物袋を両手に下げた早智が帰ってきた。


「ちょうどタイムセールの時間だったから、安く買えてよかったわ❤」


 上機嫌の早智を見ると、体のあちこちに擦り傷が見えた。きっとバーゲンタイム中にかなりの激戦を、近所の奥様達と繰り広げたのだろう。


「あ、そうだ」


 何かを思い出したように立ち止まると、俺と陽菜の方に向き直った。


「私ね、優司と美咲さんに謝らなきゃいけないことがあるの」


 こいつの行動は常に謝らなきゃいけないことしかない気がするが、そんな早智が申し訳ないと思うようなこととは何なのだろうか。


「賞味期限切れの食材でも買ってきたのか?」


「それならこっそりと七海に食べさせるわ」


「それもそうか……」


 早智共々、七海にすごい剣幕で睨まれてしまった。


「冗談はさておき(七海は冗談で済ませてくれそうにはないが)、謝らなきゃいけないことって何だよ?」


「実はね」


 早智が何か言おうとしたところで、チャイムが鳴った。


 早智が罰の悪そうに頭を抱えているのを見ながら、俺はドアに向かった。謝らなきゃいけないことと、関係がありそうだと思いつつ、不用心にも開錠してドアを開けると、まゆと弥生が立っていた。


「来ちゃった❤」


「来ちゃいました❤」


「え……」


 陽菜から怪訝な目で睨まれるが、俺はこの二人を招待していない旨をジェスチャーで知らせた。


「てめえか、馬鹿内……」


 勘の良い七海が早智を詰問すると、あっさりと白状した。


「これから謝るところだったのよ」


 悪びれることもなく弁解する早智の口元には、ケーキの食べかすがついていた。


「ケーキに釣られたのか……」


「だって、三ツ星店のケーキなのよ。


 いや、断れよ。たかが有名店のケーキくらいで俺を売るなよ。


「会長、お肉好きなのよね」


「ふえ?」


「いろいろ買ってきたのよ~♪ おいしいお肉を❤」


「お~!!」


 妹会長が目を輝かせて、まゆに近寄った。まゆのしたり顔が確認できた。作戦通りと言った目だった。


 早智だけでなく、妹会長まで籠絡しやがった。食べ物に釣られるレベルの人間が二人もいたとは……。


 俺の懸念をよそに、妹会長が率先して、まゆと弥生を家に上げた。


「ささ! 入って、入って~!」


 こんな友好的に招き入れた後では、今更出ていけとは言えない。七海は何か言いたそうにしていたが、ここは妹会長を立てたらしく、何も言わなかった。ただ一人、陽菜だけが納得いっていないようだった。


「何しに来たの?」


 廊下で仁王立ちしながら、立ち塞がるように、まゆに向けて言葉をかけた。


「勉強❤」


 弥生は若干怯んでいたが、まゆは気圧されることもなく、挑発的に答えていた。


 勉強だけで終わらないことは猿でも分かる。波乱の夜はこうして始まった。


執筆中にBGMとして、怪談朗読を聴いていますが、暑い時期には最適です。これで執筆作業が捗って、面白い作品が書ければ言うことなしなんですが……、これが一番難しいところなんですよね。

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