第七十話 妹会長の要求
第七十話 妹会長の要求
校内アナウンスで突然呼び出されて生徒会室を訪れると、三人の生徒会役員の歓迎を受けた。ちびっ子会長の前に突き出されて、話をしていると、陽菜もやってきた。陽菜を見るなり、会長は態度を急変させて、抱きついた。何と、会長は陽菜の妹だったのだ。
「お姉ちゃん、大好き~❤」
そう言いながら、顔を陽菜の胸元に押し付けている。
「今日も来てくれるなんて嬉しい~!」
「今日も?」
「昨日あなたと喧嘩した後に、ここで過ごしていたのよ」
きょとんとしていると、横から七海がそっと教えてくれた。
そうか。俺が血眼になって探している間、陽菜は生徒会室にいたのか。
「知っていたなら、言えよ。無駄に校内を探し回ったじゃないか!」
「あまり生徒会室には来たくなかったのよ。いろいろ暴れ回った後だったしね」
成る程。もしかしたら、自分の暴走が生徒会室にまで聞こえているかもしれない以上、むざむざ訪れるわけにはいかないよな。
気を取り直して、陽菜たちに向き直る。
「仲が良いんだな。この二人」
「ええ。わがままな会長も陽菜の前では大人しいの。……逃げるなら今の内よ」
陽菜が現れてからの会長の態度の変化には目を見張るものがあった。陽菜がいなくなったら、また我がままになるのは七海に言われなくても分かっていた。
「もし、ここで陽菜と一緒に逃げても、後日、また呼び出されるんだろ。それなら、逃げる意味がないんじゃないのか?」
「それもそうね」
会長の性格を俺より良く知っている七海は、諦めたようにため息をついた。
「陽菜は本当に妹が好きなんだな」
「うん! だって、こんなに可愛いんだよ。おまけに成績もよくて、一年にして生徒会長! 出来る女だよ。将来有望だよ!」
親馬鹿ならぬ、妹馬鹿だ。いや、シスコンと言った方が正しいか。そんなことを考えている間も、陽菜の妹自慢は続く。
「真奈美はね、人気もあるんだよ。王泉何とかランキングでも四位に入っているの」
「一位のお姉ちゃんには敵わないよ~!」
二人ともテンションが高く、姉妹と言うより、友達みたいに見えた。
王泉何とかランキングとは、男子たちがかわいい美少女をランキングしているアレだろう。確か副会長が二位で、会計の古賀が十位にランクインしていたな。前に早智が、この三人も毒牙にかけることになるとからかわれたことがある。古賀と目が合うと、ニコリとされた。変に笑い返すと、美咲姉妹に噛みつかれると思ったので、会釈だけにとどめておいた。
あっ、そういえば七海も十一位にランクインしていたのを忘れていた。……七海が妙に俺を睨んでいるような気がしたが、今俺が考えていることとはきっと無縁だろう。そうに違いない。
「でも、どうしたの? お姉ちゃんが二日連続でここに来るなんて珍しいね! 私は学校でもお姉ちゃんと会えるから、全然構わないけど。ひょっとして、また嫌なことでもあったの?」
そう言って、陽菜にばれないように振り返って、俺を睨んだ。昨日陽菜がここに来たと言うし、その時にでも、俺の悪口を聞かされたのだろう。自分に非があるので、言い返すことが出来ないので、睨まれても文句は言えまい。
「大丈夫! 今日は何も嫌な目に遭ってないから。さっき校内放送で優司くんが呼び出されたのを聞いたから、気になってきてみただけ!」
俺を心配してきてくれたのか。昨日、陽菜以外の女子とキスしてしまった後なので、またやらかさないかと言う意味の心配も含まれているだろうが、彼氏として素直に嬉しい。
「でも、見た限り、そんなに揉めてもいないようだし、どうやら心配はなさそうね」
「うん! 私がお姉ちゃんを困らせることを言う訳ないじゃん」
妹会長はそう言って、笑った。そりゃそうだ。まだ用件も聞いていない状態だ。揉めるとしたら、これからだ。
「だからね。私を信じて、お姉ちゃんは先に帰って大丈夫!」
「うん、そうするよ」
違うな。陽菜を生徒会室から出して、それから俺を存分に料理するつもりなんだろう。そこまで知っていながら、逃げようとしない俺も、危機感に疎いのかもしれない。
「いい? 我がままを言って優司くんを困らせちゃ駄目よ!」
「うん! 分かった!」
一見すると、仲の良い姉妹の微笑ましい光景だ。七海を見ると、茶番を見るような眼差しで二人を見ている。他の生徒会役員も同じような目をしていた。
「じゃあ、優司くん。私、教室で待っているから、終わったら迎えに来てね!」
「ああ」
手をブンブンと振り回しながら、陽菜は生徒会室を出ていった。元気いっぱいの陽菜がいなくなると、生徒会室は途端に静かになった。
「全く! お姉ちゃんも心配性だね!」
陽菜が生徒会室を出ていった途端、また尊大な態度に戻った。もし、陽菜が忘れ物を取りに戻ってきたら、再びぶりっ子に戻るのだろうか。ちょっと見てみたい気もする。
なかなか用件を話し出さない会長に業を煮やしたのか、書類仕事を一旦中断して、庶務の蓮杖が、俺の代わりに催促してくれた。
「会長! そろそろ呼び出した用件を話したら?」
「うるさい! 今言おうとしていたところだったの! 蓮杖は黙ってて!」
「へいへい……」
苦笑いすると、蓮杖は視線を机の上に書類に戻した。会長のお子様ぶりは、生徒会で認知されているらしく、七海以外で眉を潜めている人間はいない。
会長はコホンと咳払いすると、俺を睨んできた。さっきの子猫みたいな顔を見せられた後では、迫力に欠けてしまっているのが痛い。
「岩見優司。七海から、呼び出した理由は聞いているね!」
「ああ。昨日七海から聞いていると思うけど、その話でだいたい合っているよ。悪いことをしたと思っている」
こんな言い訳がお姉ちゃん大好き生徒会長に通用するとは思わないが、事実を淡々と説明しつつ、謝罪した。何の関係もない第三者だったら、頭を下げなかったが、呼び出した会長が陽菜の身内ならば話は別だ。
「言っていることは事実だね。そこまで分かっているんなら、よろしい!」
よろしいのか? てっきりなんだかんだ言ってくると思っていたので、肩透かしを食らった気分になる。何てな。これで済むわけがないじゃないか。俺を驚かせる要求が飛んできたのは、この直後だった。
「単刀直入に言うよ。岩見優司! お姉ちゃんと別れろ!」
「……は?」
いきなり何を言い出すのだろうか、この生徒会長は。納得がいかないので、反論することにした。
「陽菜と別れろって……」
「お姉ちゃんに、あんたみたいな男は不釣り合いなの! ふさわしくないの! だから別れて!」
それが呼び出した用件なのか。まあ、昨日みたいなことがあった後では、俺が陽菜に不釣り合いな男だと言われても仕方がないとは思っている。だが、何と言われようと、俺の答えは決まっていた。
「断る!」
「ふにゃっ!?」
「そんなこと、他人から強制されることじゃない。別れる選択を下す時は自分の意志で決める」
俺が言い返すと、それまで書類仕事に没頭していた蓮杖と古賀、加えて、俺の側で話を聞いていた七海が一気に俺を注視してきた。
「な、何、勝手なことを言ってるんだよ。お姉ちゃん以外の女子とキスをしておいて!」
「会長! 昨日も言いましたけど、あれは事故……」
「”お姉ちゃん以外の女子”は黙っていて!」
俺とキスをしてしまった相手である七海が先に弁解しようとした。だが、トラウマと言っても過言ではない恥部を突かれて、さすがの七海も思わずたじろぐ。仕方がないので、次に俺が弁解することにした。
「あのさあ……、確かに俺はひどい彼氏だと思うよ。そこは否定しない。事故だろうと、陽菜を傷つけたのは事実だし。でも、それでも、陽菜は俺と付き合っている訳じゃないか。ここはお前のお姉ちゃんの意思を尊重させてもらえないかな。もし、陽菜が別れようって言ってきたときは、潔く別れるからさ」
自分の心境を正直に語る。聞きようによっては、とんでもない彼氏のひどい言い訳にも聞こえなくはないが、そう思ってくれても構わないと思っていた。とにかく、俺は自分から告白した以上、陽菜から別れ話を告げられるまで、陽菜との交際を続けるつもりだ。
「学園のヒロインと付き合っているのに、結構淡白なんだな」
「話に聞いていた通りの人間だな。会長はどう出る?」
完全に外野と化している蓮杖と古賀が好き放題言っている。七海はそれを、苦虫をかみ砕いたような顔で聞いている。
自分の要求に素直に従わず、抵抗する俺に会長は歯噛みをして悔しがった。このあたりの反応はやはりお子様だ。自分の思い通りにいかないからって、感情を昂ぶらせたら駄目だぞ。同じ生徒会長でも、皇一とは全然違う。これじゃ、七海も愚痴りたくもなるか。
「ぐぐぐ……。なかなか強情だね。でも、これを見ても、まだ強気でいられるかな?」
会長の提示した写真には、俺が早智とキスしている瞬間がくっきりと写されていた。一体いつの間に撮られていたのだろうか。
「ふふん! これをお姉ちゃんに見せたら、どういうことになるかな~」
切り札とも言える写真をちらつかせながら、得意満面の表情で、俺を見つめる。これがある限り、俺は陽菜と別れることを了承するしかないだろうと、勝利を疑わない目をしている。
ひょっとしなくても、俺は脅されているようだ。
前回から一日空けての投稿になります。
妹会長はお子様なところはありますけど、お姉ちゃんを大事に思っての、「別れろ」発言をしました。それに対する優司の申し開きを、鬼畜な彼氏の言い訳にならないように注意して書いたつもりですが、正直ちゃんと書けたかどうか自信がありません。もし、こんなのただの言い訳だ、もっと他の言い方がある筈だなどの意見がございましたら、遠慮なく指摘していただければ幸いです。




