第六十九話 妹は生徒会長
第六十九話 妹は生徒会長
無事に陽菜、七海と仲直りできたことで、良く眠ることが出来た。いつもは憂鬱な目覚めもバッチリで、気持ち良く登校した。
校門でまゆと会ったが、いかにも眠そうで、足取りもふらついていた。心配になって声をかけると、「おはよう♪」とあいさつは返してくるものの、瞼が重そうで、今にも閉じてしまいそうだった。昨日寝てないのだろうか。
「ずいぶん眠そうだな。もしかして昨日は寝てないのか?」
「えへへ……。優司くんからの電話を待っていたの。そうか……。仲直りしちゃったんだ……」
かかってくるかも分からない俺からの電話を待って、徹夜したのか……。その執念には驚嘆するが、もう諦めてほしい。
まゆは歩くのもつらそうなくらいに疲弊していた。とても授業を受けれる状態には見えなかったので、保健室に行くように勧めたが、やんわりと断られた。仕方がないので、俺が連れて行ってやると提案すると、すぐに了承した。
まゆを保健室に運んだ後で、教室に入ると、ここにも元気のない女子が一人いた。一日ぶりに会う七海は明らかにぐったりしている。
「よう! 朝から元気がないな。寝不足か?」
「必要以上に寝てやったわよ。精神的に疲れていたからね」
昨日別れ際に、陽菜の妹から呼び出されていたことを思い出した。この様子だと、かなりきつく言われたようだが、どうにも腑に落ちない。
「相手は陽菜の妹なんだろ? お姉ちゃんに言いつけてやるとか言えば、黙るんじゃないのか?」
七海は言い返すタイプなので、一方的に言われっぱなしと言うことは考えられないし、相手は親友の妹なのだ。多少苦手だったとしても、ここまでボロボロにされるほど一方的にやられる姿も想像できない。仮にひどくやられても、陽菜に助けを求めればいいではないか。陽菜は怒る時には怒る子だし、親友がいびられていると知れば、本気で怒るだろう。
思ったことを伝えると、七海はため息をついた。
「無理よ。陽菜は妹に甘いの。昨日の帰り際の陽菜を見たでしょう? 私がきつく言われたからと言って、妹を叱ってくれるような顔に見えた?」
どちらかと言えば、怒られる七海を面白がっているようにも見えた。
「確かに怒りそうにはないな」
「そうでしょ?」
「冷たいコーヒーでも飲むか。気分が落ち込んだ時は、甘いものが一番だ」
「……ありがとう」
七海のためにコーヒーを買おうと、登校してきたばかりなのに、再び教室を出ようとすると、校内放送がかかった。
「二年九組の岩見優司くん。至急生徒会室までいらしてください。繰り返します。二年九組の……」
教室中の視線が俺に突き刺さる。声は出さないが、今度は何をやらかしたのだろうと言う好奇の感情が見るまでもなく伝わってきた。俺に説明してもらいたそうにしているやつもいるが、むしろ、俺の方がどういうことなのか教えてほしいくらいだ。
説明を求めて七海に視線を戻すと、理解しているような目で話し出した。
「昨日のことで、会長がお冠なのよ。私は昨日たっぷりと説教をしたけど、まだあなたには何も言っていないからね」
「それなら、昨日俺も一緒に呼びだせばいいじゃないか? どうして今日になって……」
「陽菜があなたと一緒にいたがったからでしょ」
「? ますます分からん。どうして生徒会長が、一人の生徒の希望を優先するんだよ」
俺は疑問を口にすると、七海は信じられないと言う顔で、俺を見つめてきた。
「何にも知らないのね。王泉高校の生徒のくせに。その様子だと、どうせ朝礼の時は寝ているんでしょ。まあ、あなたらしいと言えば、あなたらしいけど」
朝礼の時に寝ているのは事実だが、それでは説明になっていない。七海は何に呆れているのだろうか。
「雑談にふけるのも良いんだけどさ。早く生徒会室に行った方が良くない? 仮にも呼び出されているんでしょ?」
正論だ。七海の説明ではちんぷんかんぷんだが、生徒会室に向かうか。恐らくそこに行けば、全てが分かる。教室を出ようとすると、七海もついてきた。
「私も生徒会室に行くわ。構わないでしょ?」
構うも何も、七海は生徒会室の人間なんだから、好きにすればいい。断る理由もないので、七海と一緒に教室を出た。
「ちなみに、生徒会長って噂では口うるさくて性格が悪いって聞くけど、どれくらいひどいんだ?」
前から気になっていたことを思い切って聞いてみた。
「気にすることないわよ。最初は生意気だと思うだろうけど、すぐに慣れるわ。あなたはそんなに感じないと思うわ。むしろ、気が合うかも」
いやいや、お前の意気消沈した顔を見ていると、説得力がないから。やっぱり逃げ出そうかな。いや、でも、もう生徒会室に着いちゃったし。
ドアをノックして、中にいる人間に「入ります」と告げる。すると、間髪を空けずに「どうぞ~!」と声がした。
中には三人の生徒がいた。会計の古賀と、庶務の蓮杖、それから、奥の席にふんぞり返っている小学生くらいの背丈の子が腕組みをして座っていた。
小学生を不思議そうに見つめていると、七海に小声で、「あの子が生徒会長よ。余計な言動は慎んで」と囁かれた。言われてみれば、あの子は朝礼で、全校生徒に向かって、何かを話しているのを見たことがある。全校集会の類は、全て寝て流すことにしているので、内容までは覚えてないが、面白味のない堅苦しい話なので問題はないだろう。
「碓氷さんは?」
室内を見渡して、副会長がいないことを不審に思った七海が書類仕事をしていた蓮杖に質問した。
「用事があるから、今日は来てないよ。残念」
蓮杖がぶっきらぼうに言うと、あからさまに七海は顔をしかめた。この様子から察するに、副会長に仲裁を期待していたのだろう。
慣れない生徒会室で、居心地悪そうに突っ立っていると、古賀が空いている席に案内してくれた。
「ありがとう……」
「いえいえ」
古賀は視線を合わせてくれなかった。俺を嫌っていると言うよりは、これから始まる何かにワクワクを抑えているように見えた。生徒会役員のくせになかなか不謹慎な奴だ。
案内された席は生徒会長の席のすぐ前だったので、椅子に座ると、生徒会長に向き直った。
「え~と、呼び出されたので来たんですけど、俺に用事でも?」
「呼び出された理由は、もう分かっているんじゃないの? とぼけるなんて、なかなかふてぶてしい奴だね」
もちろん理由は知っている。昨日の七海とのキス、そして乱闘のことについてだろう。俺が知りたいのは、それを知った生徒会が、どんな処分を下してくる気なのかと言うことだ。
確かに俺と七海の乱闘のせいで、居合わせた生徒が肝を冷やしたのは事実だが、そのことで俺が生徒会に説教されるのは意味が分からなかった。
「まあ、まあ。そんなに挑戦的にならないで。君にとって悪い内容じゃないんだから」
古賀がフォローしてきたが、安心する気にはならない。
「会長。優司くんが聞きたいのは、昨日のことで私たちがどんな処分を言い渡すつもりなのかってことでしょ」
「そ、そんなことは分かっているよ。これから言うつもりだったの!」
会長は強がっているが、たぶん違うんだろう。背伸びしている小さい子供を見ているようで、何だか微笑ましくなってしまう。
「そ、それじゃあ、改めて本題に移るよ! 君をここに呼び出した用件なんだけどね!」
やれやれ、ようやく用件を聞ける。俺の場合、処分内容を聞けると言った方が正しいかもしれないけど。
「頼もう!」
そこに、テンションが高く、加えて元気いっぱいの声がして、ドアが勢いよく開かれた。聞き覚えのある声だったので、姿を見るより先に、やってきたのが陽菜だったということは分かった。
「優司くんが呼び出されたのを聞いて、彼女として飛んできたんだよ!」
俺が心配で、様子を見に来てくれたらしい。なかなか嬉しい心遣いだった。
「お姉ちゃん!」
突如現れた陽菜の姿を見ると、さっきまでの尊大な態度はどこへやら、会長は陽菜に駆け寄ると、全力で抱きついた。てっきり「いきなり現れて何様のつもり?」と怒ると思っていたので、この反応は予想外だった。
……って、違う。俺が気にするのはそこじゃない。会長は陽菜のことを、今なんて言った? お姉ちゃん?
七海に聞こうと思っていると、俺の気持ちを察してくれたのか、質問するより先に耳打ちしてくれた。
「聞いた通りよ。うちの会長と、陽菜は姉妹なの。会長は陽菜の一つ下で、高校一年よ」
会長は陽菜の妹? しかも、一年で生徒会長? 次々に判明する事実に呆然としている中、会長は夢中で陽菜にすり寄っていた。陽菜もまんざらでない様子で、妹をあやしていた。
前々から話に出ていた生徒会長が、ようやく登場しました。ちょっと生意気な、陽菜の妹です。お姉ちゃんが大好きで、彼氏である優司のことがとにかく嫌いです。一言でいうと、お子様ですねw




