第六十八話 みんな一緒に仲直り
第六十八話 みんな一緒に仲直り
「美咲さんと別れたら連絡してね♪ いつでも電話に出れるようにしておくから~」
陽菜との破局を信じて疑わないまゆは、縁起でもないことを嬉しそうに叫びながら去っていった。もう今夜には俺から電話を受けて、付き合い始める気でいるようだ。不謹慎だし、気が早すぎる。
「豊嶋さんは自信満々ね」
「こういうことで自信を持たれても困るけどな」
加えて、俺が陽菜と破局することを望まれていることに対しても、一言言いたい気分だ。
「あのまま一緒にいれば、キスできたかもしれないのに。自分からキスのチャンスを逃すとは、モテる男は違うな~」
言葉に棘を感じた。ことあるごとに俺を口撃するとは、モテない男は違うね!
「たまたま偶然が重なっただけだ。もう起きないよ」
早智の顔を見ないようにして話した。いくら早智が相手でも、あんなことが会った後では、さすがに面と向かって話すのは気まずいのだ。
「偶然とはいえ、私みたいなかわいい女の子とキスできるものじゃないわよ。今日の優司、神懸かっているわ! ラ、ラッキースケベって言うのかしら」
多少動揺は残っているものの、早智は早くもいつもの調子を戻しつつあった。あんなことがあった後だと言うのに、俺と行動を共にしようとは、我が幼馴染みながら、なかなか図太い神経だ。キスしたせいで、幼馴染みと変な距離が開いてしまうのも嫌だったので、密かに感謝した。ただ、ラッキースケベ呼ばわりするのは止めてほしい。
一通り雑談も済んだので、三人で陽菜探しを再開した。
だが、探しても、探しても、陽菜は見つからない。
「いないねえ……」
「ああ……」
最初は面白がって俺を茶化していた二人も、だんだん口数が減っていく。でも、彼氏の直観と言うのだろうか。まだ校内にいる気がしてならないのだ。
諦めることなく、探し続けること三十分。遭遇の瞬間はやってきた。ただし、相手は陽菜ではない。俺にむき出しの殺意をぶつけてきた学級委員、七海だ。
「あちゃあ、面倒くさいのと会ったわね」
七海とのいきさつを知っている早智が茶化してきた。今日の七海はとにかく危険だと言うのに、恐れるそぶりを見せない。いざとなったら、ハンマーで迎撃するつもりなのだろうか。
「面倒くさくて悪かったわね」
意外にも七海は冷静に皮肉を返してきた。
「陽菜はまだ見つからないのかしら?」
もうファーストキスのショックからはだいぶ落ち着きを取り戻していた。ぎこちない部分はあるが、鉄製のバッドを振り回してくるようなことはなさそうなので安心した。
「見ての通りだ。これでも必死に探しているんだけどな」
「途中でバッドを振り回す女による妨害があったからね。怪我がないだけ儲け物じゃないかしら?」
七海はバツが悪そうにそっぽを向いて、歯切れの悪い言い訳を話した。
「あ、あれは、動揺したからよ! 私に言わせれば、キ、キスされたのに、飄々としているあなたの方が不思議だわ!」
「え~! キスだけで動揺しちゃうんだ~! 七海ちゃんってピュア~!」
「ば、馬鹿内~!」
自分も動揺していたくせに、七海を笑う早智。結局、いつものように喧嘩に発展しそうになるので、ホイケルと共同戦線を張って止めに入った。
「止せ! 今はそれどころじゃないだろ」
「はい! そこまで! 今は美咲さん捜索に集中しようぜ!」
ホイケルにしては、まともな意見だった。早智と七海は荒い息をしながら、力づくで引き剥がされる。
「た、確かにホイケルくんの……、保池くんの言う通りね」
一旦、ホイケルと言った後に保池くんと言い直して、陽菜探しを誓う七海。もうお前もホイケルって呼べばいいのに、妙なところで頑固だな。
「でも、どこを探してもいないのよ。もう帰ったんじゃない?」
早智がもうお手上げと言わんばかりに、弱気なことを言う。それに対して、七海が反論する。
「陽菜の家に連絡して確認したけど、まだ帰っていないそうよ。お迎えの要請もないから、まだ学校にいると考えていいわね」
「でも、いると言っても女子トイレや更衣室の中まで探しつくしたのよ。隠れる場所なんて残ってないわ」
「どこか残っているんじゃないのか? 意外な隠れ場所が」
「隠れ場所ねえ……。あ! ……いやいや。う、う~ん。これといって思いつかないわね~」
「……………」
「ど、どうしたの。私を見つめても何も出ないわよ。おほほほ……」
七海は何かに思い至ったようだが、すぐに心辺りがないと言った。明らかに何かを知っている。
「心当たりがあるのか? あるのなら是非教えてくれないか?」
「……知らない」
「いや、絶対に知っている顔よ。私の前でとぼけたって無駄よ。さあ、正直に吐きなさい!」
「し、知らないったら、知らないわ!」
意地になって白を切るな。ホイケルに至っては、「意地を張る学級委員もいいな!」などと変態コメントをしている始末だし。
そこまで話したくないなら、無理に聞くのは止めだ。面倒くさいけど、最後の手段を使うことにしよう。
俺は靴を履きかえて、外に出ると、そのまま校門に向かった。
「帰るの?」
「まさか!」
確かに校門に向かっている様子を見れば、もう帰宅するようにも見える。でも、俺が校門に向かっているのは帰るためではない。
「ここで待つことにするよ」
うちの学校は入口がここだけなので(裏口は職員のみ通行可能。生徒は通り抜け不可)、陽菜がまだ学校にいるのなら、必ずここを通る筈だ。
「いつになるか分からないわよ」
「構わないさ」
陽菜がまだ校内にいるのなら、必ず会うことは出来る。時間がかかるのが難点だけど、この際仕方がない。俺は陽菜を悲しませたのだし、それくらいのペナルティは当然だ。俺の最後の手段に七海も乗ってきた。
「私も待つわ。謝らないといけないから」
「早智ちゃんは……」
「あなたは帰りなさい。あなたとキスしたことは陽菜は知らないんだから、話をこじれさせないで!」
「そういうことなら仕方がない。早智ちゃんは退散させてもらうよ」
もう陽菜捜索にも飽きていたのだろう。振り返ることもなく、早智は帰っていった。
「俺は残るぞ。お前がどんな目に遭うのか、この目で是非とも確かめ……」
「帰れ! 出来ることなら、帰り道でトラックに轢かれて死ね!」
腹立たしいことを願っているホイケルも、多少の暴力を若干使用して、学校の敷地から強制的に退去させた。
こうして、早智とホイケルを帰らせて、七海と二人で、校門で待つことにした。
七海と二人きり。会話もなく、ただじっと待ち続ける。何か気まずいな。……ああ、そうか。七海ともまだ仲直りしてなかったんだった。
「七海にも、まだちゃんと謝ってなかったな。いろいろ怒らせたり、キスしたりして、ごめん」
七海に向かって深々と頭を下げた。七海も「私もさっきはやり過ぎたわ。ごめんなさい」と頭を下げる。校門のところで、二人の高校生が頭を下げ合っている光景は、何も知らない人から見たら、さぞかし不審に思われるだろうが、七海との間にあったわだかまりは大分薄まった気がした。
それを待っていたかのように、俺たちに向かってくる人影があった。
「陽菜……」
キスの瞬間を目にして、俺のところを走り去っていった陽菜が、俺の前にまた現れた。無視して通り過ぎられるのを覚悟していたが、陽菜が俺の前で立ち止まって、じっと見つめてきた。
「えっとさ……。何て言うのかな……」
どう謝るか考えていなかったことに、今更ながら気付いた。あんなに気さくに話していたのに、妙にぎこちない。言葉が上手く出てこない。
「ご、ごめん……」
謝ろうとする俺を制して、俺に顔を近付けてきた。
「優司くん、私とキスして……」
「……分かった」
一瞬だけ戸惑ったが、陽菜の気持ちを考えて、キスすることを了承した。
七海や早智の時とは違う。自分の意志でするキス。人の目もあったが、構わなかった。俺の唇を、陽菜のものと重ねて、無言のままでしばらく抱き合った。
互いの唇が離れた後で、恐る恐る聞いてみる。
「俺、昨日までキスしたことがなかったから、下手くそだけど、こんなもので良かったかな?」
「うん!」
キスの後で、再度謝ろうとしたが、やっぱり止められた。
俺が陽菜と仲直りした後で、七海も陽菜に謝罪していた。陽菜は良いと言ったのに、それだと気が済まないと言って聞かなかった。そういうところは、七海らしい。
こうして、陽菜と無事に関係を修復できたので、学校を後にすることにした。今日だけは陽菜の鞄を持ってあげよう。
「ちなみに、どこにいたんだ? 学校中を何度も探して回ったんだぞ」
「妹のところにいたの!」
へえ! 同じ高校に通う妹がいたのか! 彼氏なのに知らなかった。七海が妙に顔をしかめているのが、気にかかった。仲が悪いのだろうか?
「あ! 後ね、妹から七海に伝言! 話があるから、ちょっと来いって!」
思い出したように、妹からの伝言を七海に話した。それを聞いた七海から、滝のような冷や汗が流れ出すのを、俺は見逃さなかった。
「優司くんにバッドを振り回していたことに文句を言いたいみたいね。七海、ファイト!」
がっくりと肩を落とす七海に、どこか嬉しそうに陽菜が告げた。
「何だか知らないけど、頑張ってこいよ。俺たちはもう帰るけど……」
さすがにもう帰りたいので、七海を待たずに陽菜と帰ることにした。七海の何故か助けを求めるような目を、背に受けながら、陽菜と仲良く、この日は帰路についた。
優司との突然のキスに動揺する七海と早智はいかがだったでしょうか? 陽菜と仲直りして、一段落したように見えますが、今回のキス騒動の余韻はまだ終わりではありません。次回をお楽しみにお待ちください。




