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岩見優司のリア充(?)な日常  作者: 霧島こう
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第六十七話 七海がキレて、俺は逃げて、早智は……

第六十七話 七海がキレて、俺は逃げて、早智は……


 思わぬ偶然のせいで、七海とキスしてしまった。それを目撃してしまった陽菜はその場を走り去ってしまう。責任を感じて、七海と校内を探して回ったが、陽菜を見つけることが出来なかった。


「どこに行ったんだろうな……」


「彼氏なら知っているんじゃないの?」


「それを言ったら、親友であるお前だって知っているんじゃないのか?」


 二人して無言になる。結局のところ、二人とも、陽菜の行先に心当たりがないのだ。


「おそらくどこかの物陰で泣いているんだわ……」


「かなりショックを受けていたみたいだからな」


 ショックに打ちひしがれている陽菜を想うと、やるせない気分になった。


「こうなったのも元はと言えばあなたのせいよ!」


「それを言ったら、無理に手の届かないところに本を収めようとしたお前にだって落ち度はあるんじゃないのか?」


「な、何ですって……」


 俺に対して文句を言おうとしていたが、寸前で七海は怒りを抑えた。


「……止しましょう。こんなことをしている場合じゃないわ」


「そうだな」


 気を取り直して、陽菜探しを再開する。


「陽菜だって分かっている筈よ。あれは事故。私とあなたがそんな関係になる筈ないって」


「そうだな。今は一時的に混乱しているだけだと思う。でも、側にいて一言謝らなくちゃ」


「……分かっているじゃない」


「ああ、陽菜に会ったら、真っ先に言ってやるんだ。キスはしたが、七海には全くときめいてないって!」


 ピキッ……。どこかで何かが割れる音がした。


「七海なんかに心を奪われることなんてありえないから、安心しろとも言うつもりだ!」


 ピキピキ……。また不穏な音がした。


「おい……。止まれ……」


「? 陽菜が見つかったのか」


「……てめえには一度、乙女を侮辱することが死を招くということを、教えてやった方が良さそうだな」


「何を言ってるんだ?」


 何か気に障ることを言ったのだろうか。七海のこめかみに青筋が走っている。いつの間にか、手には鉄製のバッドを握っていた。


「な……。何て物を持ってるんだ。危ないだろ。どこかに置いてこいよ」


「いや、問題ない。これでてめえをぶん殴るんだからなああぁぁ!」


 次の瞬間、バッドを勢いよく振り回してきた。

 

「ば、馬鹿! そんなので、殴ったら死んでしまうだろ!」


「死ねばいいのよ! 全部あんたのせいよ! あんなところに突っ立ってたのが全部悪いのよ~」


「落ち着け! 仮にもクラスの学級委員で、生徒会の書記だろ」


「そんなもの知るか~!」


 いきなりキレた七海の攻撃を寸でのところで交わし続けた。手加減を微塵も感じなかったので、当たっていたら危なかったろう。


「はあ、はあ……」


 暴れるだけ暴れた後、七海はよろよろと覚束ない足取りで壁にもたれかかった。


「はあ、はあ……。気は済んだか?」


「……うるさい」


 七海の機嫌はまだ直っていなかった。最近、ただでさえ疎遠だった俺と望まぬキスをしたのだから、無理もないか。


「そんなに怒るなよ。ファーストキスだったわけじゃないだろ」


「…………」


「いやいや! お前、可愛いから、男子にモテるだろ? キスくらいしたことあるよな?」


「…………」


 ファーストキスだったのか……。うっかり地雷を踏んでしまったことを痛烈に後悔した。


「あんたはどうなの?」


「ファースト……」


 もしかしたら物心がつく前に母親としているかもしれないが、記憶にある限りは初めてだった。


 七海は天を仰いだ。俺も気持ちは同じだ。互いに初めてだったのか。相手が七海ではなく、陽菜だったら、さぞかしロマンチックだったろうな。


 荒れた息を整えながら七海を見ると、怒りのボルテージが再び急上昇していた。どうやら触れてはいけないことにまた触れてしまったらしい。


「やっぱり一度死ねええぇえぇぇぇ!」


 再度バッドを持ち、振り回してきた。


 こうなると、もう陽菜を探すどころではない。俺は校内を全速力で逃げ回った。俺を追ってくる七海とのデッドヒートは、自分の身に実際に危険が迫っているため、ハリウッド映画よりも迫力があった。




「はあ、はあ……。どうにか振り切ったか……」


 やっとのことで七海を振り切ると、もう体力の限界で、俺は壁にもたれかかった。


「よお! いいざまだな、リア充!」


 俺の緊迫した状況をあざ笑う不快な声が聞こえた。俺の悪友にして、嫉妬の鬼、ホイケルだ。横には早智もいる。


「学級委員に全力で迫られるなんて羨ましいぜ!」


「そんなに俺が羨ましいなら、次に七海と遭遇した時にお前を後ろから押して、七海とキスさせてやるよ」


 ホイケルの物言いにムッとしたので、言い返してやった。普段なら喧嘩に発展するが、今日のホイケルは潮らしい反応を返してきた。


「いや、それはいい。まだ死にたくない」


 今の七海は本当に人を殺しかねない怒り方をしているので、ホイケルでさえ敬遠していた。


 続いて早智が口を開いた。


「あんたには悪いけど、鬼の形相の七海を見ていると、笑いがこみあげてくるわ」


 いつも通りに七海に対して毒舌をふるう早智の表情からは、先日の一件による後ろめたさやわだかまりは一切感じられず、俺は密かに胸を撫で下ろした。


「あ、いたいた。優司く~ん!」


 そこに、まゆも合流してきた。話を聞くと、騒ぎを聞いて駆けつけてきたらしい。


「聞いたよ。遂に美咲さんと別れたんだってね! これでようやく私と付き合えるね♪」


「違う! まだ別れていない!」


 俺に抱きついて来ようとするまゆを止めて、陽菜との関係が続いていることを告げた。展開によっては別れるかもしれないけど、まだ交際中なのだ。たぶん、ホイケルのように、俺を妬む連中が流したデマだろう。


「ちなみに、私は優司くんにどんな悪い噂が立とうと一切構わないよ♪」


 男にとって、この上なくありがたい言葉だが、受け入れる訳にはいかない。


「気持ちだけ受け取っておくよ。ただ、どんな噂が立っているのかは気になるけど」


「俺はお前が嫌がる七海を押し倒して強引に唇を奪ったって聞いたが」


「私はどさくさに紛れて胸まで揉んだって聞いたわよ!」


 早智とホイケルが教えてくれた話を聞いて、柄にもなくへこんでしまった。デマにしてもひどすぎる。もう風評被害で訴えてしまおうか。


「これが美咲さんの耳に入ったら、ますます彼女と距離が空いちゃうわね。もう仲直りは諦めて、私と……」


「いや、あくまで陽菜を探すよ」


 たとえ、どういう結果になろうとも、陽菜に会って謝らないと。でないと、デマの方も天井知らずで、エスカレートしていきそうで怖い。


「でも、いくら探しても美咲さんは見つからない。違う?」


「う……」


 痛いところをついてくる。それを言われてしまうと言い返せない。お手上げの俺の前に早智が立つ。


「そんな難しく考えることじゃないでしょう。美咲さんが落ち込んだ時に行くところって言ったら、あそこしかないじゃない!」


 真っ直ぐ空を指差す早智を見て、俺はハッとして呟いた。


「屋上か……」


「イエス!」


 確かに、一人で泣くにはもってこいのスポットだな。


 期待を持って向かったが、屋上にも陽菜はいなかった。


「いないな……」


「おかしいな……」


 さすがに早智も困り顔だ。


「……他に陽菜が行きそうなところはあったかな?」


「もしかして帰ったんじゃない?」


 そうかもしれない。だけど、残っている可能性もゼロではないので、念のためにもう少し学校内を探索しておこう。


「一階から、もう一度だけ見て回る。それでも見つからなければ、今日は帰るよ」


「頑張るねえ」


 屋上を後にして、俺を先頭に階段を下りていく。早智に至っては、上から三段飛ばしで降りてきた。運動能力はあるので、心配はせずにぼんやりと見ていると、早智にしては珍しく、着地の際に足を踏み外してしまった。


「キャア!」


 体が宙を舞うと、早智は悲鳴を上げた。


「危ない!」


 咄嗟に床に転倒しそうになった早智を俺が抱き寄せる。だが、転倒しようとする早智の態勢を立て直すことは出来ず、俺と共に床に転倒した。


「おいおい、派手な音がしたな!」


「大丈夫?」


 俺と早智の安否を気にして、まゆとホイケルが走り寄ってきた。


 大丈夫だと言おうとしたところで、口元が塞がっていることに気が付いた。どうも柔らかくてプニプニした感触が唇に広がる。……何か覚えのある展開だ。


「ゆ、優司くん……」


「てめえ……」


 さっきまで俺を心配していた二人の口から、驚愕と怒りの言葉が漏れる。無理もないか。転んだ拍子に早智とキスしていたのだから。偶然とはいえ、七海と同じシチュエーションでまたやらかしてしまった訳だ。周りからすれば、何をしているんだと呆れたくもなるだろう。


 顔を話して早智を見ると、顔を紅潮させて俺をとろんとした瞳で見つめていた。


「気を付けなさいよ、優司の馬鹿……」


 短く呟くと、早智は倒れたままの姿勢で、俺から視線を背けた。


 横でホイケルが呆れたように言う。


「本日二度目の事故か……」


「ああ……」


 どうしようもなく重い空気が流れる。


「と、とりあえず美咲さんに見られなかっただけ良かったんじゃない?」


 動揺しつつも、まゆがフォローしてきてくれた。確かに今はそれでいいかもしれないが、後々争いの火種になりそうで怖い。


「じゃあ、次は私とキスする番だね♪」


「ごめん、そういう空気じゃないから」


 まゆが言ったのは冗談ではないことが分かったので、丁重にお断りした。


「空気は関係ないよ。さっきから優司くんに付きまとっていて気付いたことなんだけどさ。ひょっとして、このまま優司くんと一緒にいれば、私にもキス出来るチャンスが訪れるんじゃないかしら」


「止めてくれ!」


 あり得ることなので、語調を荒げて発言を中断する。


 偶然とはいえ、七海や早智とキスしているのに、この上、恋のライバルを公言しているまゆとキスでもしようものなら、どれほどの怒りが爆発するのが知れたものではない。


「だいたい、強引にキスするような真似はしないって、前に言ってなかったか?」


「私が約束したのは強引にキスをしないってことだけだよ。偶然のキスは仕方ないよね♪」


 キスすることが分かっていて同行するのだから、ほとんど確信犯のような気もする。とりあえず、ついてくる気満々のまゆを強引に帰らせた。これ以上のトラブルはノーサンキューだ。


七海にキレられて、早智にはデレられて、彼女には逃げられて……。優司もたいへんですね。もう完全に泥沼に入りつつあります。最近、急ピッチで女性関係がヒートアップしていますね。感想は随時お待ちしておりますので、「リア充爆発しろ!」や、「女を泣かすな!」などの意見がありましたら、遠慮なくお伝えください。

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