第三十四話 雨天決行、お泊り会
第三十四話 雨天決行、お泊り会
災難に次ぐ災難が続き、すき焼きを食べて終わる筈が、急きょお泊り会に発展してしまった。
「雨具はいらないかな?」
「必要ないわよ。たかが隣の部屋に行くだけじゃない! 着ている時間に移動した方が早いわ」
「じゃあ、明日の朝にまた会おうぜ!」
早智たちに宣言して、玄関のドアを開けるが、途端に強風と大雨の洗礼を受けた。たまらず、開けたばかりのドアを閉める。
「……ただ今」
「お帰り!」
「いや、早いよ」
早急に退散してきた俺に、お帰りの挨拶をしてくれたのは、陽菜だけだった。持つべき者は彼女と言うことか。
「もう! さっさと行きなさいよ。たかが隣の部屋に行くだけでしょ!」
早智から無情の喝がかかり、再度大雨の中に身を挺すことになってしまった。ドアを開けると、やっぱり雨と風の洗礼を受けた。
後ろに陽菜と七海を従えて、走って隣の部屋のドアの前まで行った。ポケットから、素早く鍵を出すと、鍵穴に差し込んだ。開錠してドアを開ける。この一連の動作が、嫌に長く感じられた。
「ほんのちょっと、たった数秒、外に出ていただけなのに……」
濡れてしまった。三人とも、びしょ濡れと言っても問題ないくらいに濡れてしまった。
「母さんの物で良ければ、着替えもあるけど、どうする?」
「いいわよ。そこまで濡れているわけじゃないから、一晩かけて乾かせばどうにかなるわよ」
先に玄関から上がって、リビングに行き、乾いたタオルを数枚掴むと、玄関に舞い戻った。そして、濡れたままになっている陽菜と七海に投げて渡す。
「ありがとう」
タオルを受け取ると、七海は頭を拭きながら、家に上がってきた。陽菜はと言うと、濡れた部分を拭きながら、何かに遠慮しているようで、なかなか家に上がってこない。
「こ、心の準備がまだ出来ていないよ……」
陽菜が緊張しつつも、何かを期待するような眼差しで、俺を見ていたが、友人たちも一緒に泊まっている中でアクションを起こすほど空気の読めない人間ではない。今夜は特に何もするつもりはない旨を、あらかじめ陽菜に伝えると、一旦はガッカリしていたが、「今夜は何もしないってことよね。あくまでも今夜は何もしないと言うことね」と繰り返しつぶやいていた。
「早智とかなりかぶっているけど、ゲームもあるよ。やるか?」
「良いわ。ゲームなら散々やったし」
確かに。特に七海は早智と対戦格闘ゲームで、かなり激しく対戦していたので、もうやる気も起きないのだろう。陽菜は付き合いでゲームに興じていただけだったので、七海がやらないなら、自分もやらないに決まっている。
自然と、風呂に入ってさっさと寝ようと言う流れになったので、俺の部屋に二人を案内した。
自室に入ると、隣の家の幼馴染みが大声で呼びかけてきた。
「優司~! 聞こえているか~?」
「……」
あの馬鹿め……。今、何時だと思っているんだ。
文句を言って、黙らせていると、物珍しそうに壁を見つめる陽菜に目がいった。
「壁、薄いんだね……」
「まあね」
そういえば陽菜には話してなかったな。
「安い部屋だからさ。隣の物音が簡単に聞こえてくるんだ。テレビの音声まで丸聞こえだから、こっちの行動はほぼ筒抜け状態。プライバシーなんてないようなものだね」
「ということは、鹿内さんの寝室での行動も丸聞こえなんだね」
「まあ、そうなるな。俺は小さい頃から、この環境だったから、何の感情も沸かないけどね」
そういえば、初めてホイケルを部屋に上げたとき、同じ説明をしたら、嫌に興奮していたな。あれが高校生男子の正常な感覚なのかもしれない。
「錐で穴を開けたら、隣の部屋の様子が覗けそうね」
七海は冗談のつもりで言ったのだろうが、陽菜は本気にしてしまい、壁一面をありもしない穴を探し始めた。
「穴なんてないから」
以前、早智と大喧嘩した時、ヒートアップして、互いに壁に向かって物を投げつけていたら、小さな穴が開いてしまったことはあった。その後、親にこっぴどく怒られて、穴は跡形もなく修理されたが、このことは黙っておこう。
リビングに行って、温かいコーヒーを淹れて、適当なスナック菓子と共に持って、自室に戻る。
「俺が部屋を留守にしている間に、君たちは何しているのかな?」
部屋に戻って、最初に目に入ったのは、本棚や机を物色している陽菜の姿だった。
「うん。頑張って探したけど、Hな本は見つからなかったよ……」
「いや、俺の部屋にエロ本の類はないから。あっても、そんなすぐに見つかるような場所には隠していないから」
「大抵はベッドの下に隠しているって本に書いてあったんだけどね。じゃあ、次はパソコンのフォルダを一つ一つ確認していくよ」
まだ探す気だ。パソコン内まで調べられると、さすがにまずいので、やんわりと止めさせる。
「七海も面白がってないで止めてくれよ……」
「ごめんなさい。でも、本当にいかがわしい本が見つかったら、そっちの方も面白いかなって思っちゃったの」
それで陽菜の家探しを見て見ぬふりか。
ため息交じりで、陽菜をもう一度見ると、本棚から一冊のアルバムを取り出した。
「これは?」
「ああ、それね。母さんが集めた俺の成長記録。いかがわしい写真は挟まってないから、見ても時間の無駄だぞ」
忠告したにもかかわらず、陽菜は興味深そうにページをめくっていった。七海もニヤニヤしながら、後ろから覗いていた。時間の無駄だって言っているのに。「かわいい!」を連呼しながら、まじまじと見つめられると、恥ずかしい。
「どのアルバムにも鹿内さんと写っているのね……」
「幼馴染みだからな」
「ずるい……」
何やら早智に対して嫉妬しているようだが、こればかりは仕方がないだろう。出会う時期が早智の方が圧倒的に早かったのだから。彼氏として何かフォローしておいた方が良い気もしたが、適当な言葉が見つからなかったので止めた。つくづく自分のボキャブラリーの無さを嘆く。
「風呂はどうする? お湯はもう沸いているから、いつでも入れるぞ」
「家主のあなたからどうぞ。私たちはその後でいいわ」
女子二人はまだアルバムに夢中で、いたたまれなくなった俺は、逃げるように自室を出た。全く、俺のアルバムなんか見るより、アイドルの写真でも見てうっとりする方がよっぽど有意義だろうに。
俺はシャワー派なので、入浴する時間は短く、烏の行水に近い。あっという間に入浴を終えて部屋に戻ると、七海から、本当には行って来たのかと驚かれる始末だ。その頃には、アルバムも元通り、本棚に収まっていたので、俺は安堵した。
入れ替わりで二人が一緒に入浴した。部屋を出ていくときに、「覗いちゃだめだよ」と陽菜が言っていたので、本当に覗かなかったら、「何もしてこなかったね……」と、不服そうにしていた。七海は傍らで笑いを堪えている。乙女心は難しい。
ともあれ、入浴も済んだので、後は寝るだけとなった。
「私たちは床で良いわ」
寝る段になって、どう寝るか頭を悩ませていると、陽菜と七海が床で十分だと言ってきた。
家主の俺がベッドで寝て、客が床で寝ると言うのは、それなりに筋は通っている。ただ、女子二人が床で、俺だけふかふかのベッドっていうのもな。何となく、申し訳ない気がしたので、代案を出した。
「それなら、俺が床で、お前ら二人がベッドで寝ると言うのはどうだ? 床は固いから、寝付けないだろ」
「大丈夫よ。こう見えて、私も陽菜も神経は図太いから」
「そうだよ。優司くんがベッドで寝なよ!」
「でも、俺だけベッドって言うのもな……」
なかなか承諾せずに、口ごもっていると、七海が怒り出した。
「あ~もう! それなら三人共床で寝ればいいじゃない」
七海の発案で、結局三人共床に寝ることになった。最初からこうすれば良かった気がする。
「じゃあ、私は優司君の隣で寝る」
「はいはい……」
陽菜のおねだりは、俺と七海の予想の範囲内だったので、要求通りにした。左から、俺、陽菜、七海の順で寝ることにした。母親の部屋を探したら、毛布が数枚見つかったので、掛布団代わりにして、寝転がった。
「じゃあ、電気を消すぞ」
「うん」
「どうぞ」
電気のスイッチを切ると、室内は真っ暗になった。今夜は雨雲が広がっているので、月明かりさえ射してこない。
真っ暗な空間が物足りないのか、就寝時間なのに、陽菜は俺たちに話しかけてきた。
「ねえ、七海は好きな人とかいるの?」
「修学旅行の夜か!」
「私は優司君のことが好き❤」
「知っているよっ!」
お約束のようなやり取りの後、部屋が暗いこともあり、その後はおしゃべりすることもなく、そのまま寝入った。
翌日起きると、雨は止んでいて、綺麗な青空が広がっていた。
帰り際に、陽菜は「本当に何もしてこなかったね……」と残念そうに呟いていた。
ふと思い出したんですが、電撃大賞って、今日が締切でしたね。私は今回は出してませんが、他の作家の方で出している人は多いと思います。私は何もできませんが、健闘をお祈りします。




