第三十五話 双子に忍び寄る影
第三十五話 双子に忍び寄る影
今、俺は小島先生の授業を受けている。今日の先生の授業はBGMが流れていた。このBGM、生徒が眠らないために流しているのではない。リラックスして、うとうとするようにやっているのだ。何でも、新しいチョークを買ったので、試し打ちしたいらしい。何とも迷惑な話だ。
先生の思惑通りに、眠気に負けるのは癪だったので、俺は必死に睡魔と闘っていた。その時、携帯電話がブルブルと振動した。
マナーモードにしていたため、着信音は流れず、かろうじて先生に気付かれることはなかった。授業が終わってから確認すればいいものを、気になったので、周りの目に注意しつつ、メールの内容を確認した。
メールの送り主は光だった。彼女を見ると、懇願するような目をこちらに向けている。
「で? メールには何て書かれていたの?」
時間は流れて昼休み。要求通りに、屋上に来ている。早智とホイケルが先に来ていたので、メールのことを話した。陽菜には黙っていてほしいと言うことなので、この二人には話しても大丈夫だろうと判断したのだ。
「ちょっと相談したいことがあるから、昼休みに屋上に来てくれ。くれぐれも陽菜には内密に頼む、だってさ!」
教室だと人が寄ってきてしまうので、屋上を指定したとのこと。
「一体なんだろうな。あの琴羽さんが、俺たちに相談したいことって」
俺達ではなく、俺に相談したいことだろ。どさくさに紛れて、ちゃっかり自分も頭数に入れてやがる。いつものことだが、図々しい奴だ。
さて、屋上を指定してきたものの、どうせ取り巻きに囲まれて、来るのはだいぶ時間が経ってからだろうと考えていたのだが、予想に反して、俺の到着から、二分くらいで、光は屋上にやってきた。呼び出したんだから、先に来るべきだろうと思う人もいるかもしれないが、光の人気を目の当たりにしている俺からすれば、快挙と言えることだった。
「はあ、はあ……。すいません。遅れました」
「いや、それはいいんだけど、ずいぶん息を切らしているね……」
きっと取り巻き連中から走って逃げてきたのだろう。流されやすさに定評のある光が、そこまでして俺に相談したいことなのだから、相当な内容なんだろうと身構えてしまう。
飲んでいたミネラルウォーターを渡して、光に飲ませた。それを飲んで、息を整えた光は、時間を惜しむように、ここに呼び出した訳を話し出した。
「じ、実は、最近誰かにつけられている気がするんです」
詳しく聞くと、数日前から街を歩いていると、何者かの視線を感じるようになった。最初はクラスメイトがイタズラしていると思っていたのだが、ある日、何の気なしに振り返ってみると、自分から五メートル離れたところを歩いている何者かの姿が目に入った。そいつはすぐに物陰に隠れてしまい、後を追ったが逃げられてしまった。その日から、同一人物と思われる者の姿を何度も目にするようになったらしい。
「ストーカーってやつか?」
「警察には話したの?」
「いえ、特に危害を加えられたわけでもないですし、私の勘違いの可能性もあるので」
もし、勘違いだったら、主人にも迷惑がかかると言う理由から、一層警察に行きにくくなっていたようだ。
「そんなことを気にする必要もないと思うわよ。何かあってからじゃ遅いわよ」
早智の言う通りだ。あの陽菜が勘違いの一一〇番くらいで怒るとも思えない。
そのとき、俺の携帯電話がメールを受信した。マナーモードではないので、着信音に設定していたテレビゲームのバックミュージックが流れた。ストーカーの話で、怯えていた光は「ひゃう!」とかわいい悲鳴を上げて後ずさった。
「日向からだ……」
メールの内容を確認すると、「相談したいことがあるので、屋上に来てほしい。陽菜には黙っておいてくれ」とのことだった。今、屋上にいる旨をメールで伝えると、すぐ向かうという返信がすぐに来た。
「今、琴羽さんから聞いた話をリピートしているみたいね」
「相談内容まで同じだったりしてな!」
冗談のつもりで、軽口を叩く早智とホイケル。そりゃそうだ。双子と言っても、そんな偶然がある筈がないのだから。誰だってそう思う。
「……実は、最近誰かにつけられている気がするんです」
五分もしない内に、屋上に現れた日向の口から、光と同じ言葉がリピートされた。双子なだけあって、台詞がかぶっていた。ていうか、相談内容も詳細まで同じだった。さすがに俺を含む四人は絶句するしかなかった。
「陽菜はもう知っているのか?」
「いえ。お嬢様にはまだ知らせておりませんし、これからも伝えるつもりはありません」
「どうして? 俺よりもむしろ、陽菜から先に相談すべきだろ」
最近知り合ったばかりの俺よりも、幼いころから一緒にいた陽菜に相談するのが、筋だと思うし、陽菜の家の力を使えば、ストーカーの一人や二人、簡単に捕まえられるだろう。そう促したのだが、二人は頑なに首を横に振るばかりだった。
「私たちは陽菜様のボディガードです。私事で、危険に巻き込むわけには参りません」
確かにな。主人を危険から守るボディガードが、自分の私事で主人を危険に巻き込んでしまったら、本末転倒もいいところだ。万が一、陽菜が怪我でもしようものなら、この二人の存在意義はなくなる。主人を危険に巻き込むボディガードはいらないと言われて、屋敷を追い出されてしまうに違いない。
「ちなみにお嬢様にばれないために、蒼井様にも秘密にしてあります」
七海にも秘密なのか。学級委員のくせに悪知恵が効くので、いてくれれば大助かりなのに残念だ。
「だから、俺にストーカーの撃退を手伝ってもらいたくて相談してきたと?」
二人ともこくりと頷く。
「ほ、本当は岩見様も巻き込みたくないのですが、この学校に知り合いがあまりいないんです」
一応、光には取り巻きが何人かいるが、彼女たちは光が美咲家に仕えているということは知らない。そういうことは秘密にしているのだ。最悪、ストーカーと対峙する過程で、素性がばれる危険もあるので、なるべく頼みたくないらしい。それで、素性を知っている数少ない知り合いの俺に、白羽の矢が立ったというわけだ。
「そんなこと気にしなくても、手は貸すよ。ただ、あらかじめ言っておくけど、俺はそんなに喧嘩が強くないから、肉弾戦は期待するなよ」
とは言いつつも、ストーカーの一人や二人、叩きのめす自信はあった。もっとも、陽菜のボディガードの二人は格闘技の心得もあるので、俺の出番など元からないだろう。
「俺も協力するぜ。困っている女の子を放っておけないしな」
「私も! この間すき焼きを囲んだ仲だものね! 困ったときはお互い様よ!」
などと言って、頼まれてもいないのに、早智とホイケルも協力を申し出た。友人を大切に思う気持ちは美しいが、危険も伴うと言うことを分かった上で、協力を申し出ているかどうかは微妙だ。
「み、みなさん……」
「……ありがとうございます」
光も、日向も、深々と頭を下げる。
こうして、ここに即席のストーカー(?)撃退チームが発足した。
「ああ、あと、ちょっと気になったことがあるんだけど……」
ホイケルが怪訝な顔をしていた。
「すき焼きって何のことだ?」
しまった、失言だった。ホイケルはすき焼き大会には来ていなかったんだ。
「す、すき焼き? 何のことだ?」
「いや、早智が言ったろ。この間すき焼きを囲んだって」
「な、何のことかしらね~?」
「と、とりあえず作戦会議だ。ストーカーをどうやって追い込むか、しっかり考えないとな!」
「おい! 明らかに話を反らしているだろ。どいつもこいつも俺から目を反らしやがって!」
除け者にされたことが悔しいのか、ちなみに、この間のすき焼きにホイケルを誘わなかったのは、除け者にしたのではなく、ただ単に忘れていただけだ。……どっちにせよ、ひどい話だな。
そんな話をしている内に、授業開始を告げるチャイムが鳴ったので、続きは放課後に、学校近辺のファミレスで行うことになった。
今回から新展開です。この小説はコメディですので、ギャグも交えて書いていきますが、実際にストーカーの被害に遭ったら、すぐに警察に相談してください。決して岩見たちのように、立ち向かおうとか思わないでくださいね。




