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岩見優司のリア充(?)な日常  作者: 霧島こう
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第二十九話 対照的な自己紹介

第二十九話 対照的な自己紹介


 教壇に立つと、先生は面倒くさそうに息を吐くと、宙を仰いだ。


「実はな、昨日悲しいことがあったんだ。だから、今日はもう帰ってもいいかな? お前らはみんな、優等生だから、先生がいなくても、教科書があれば充分だろ?」


「よくねえよ!」


 クラス中の人間が同時に抗議の声を上げた。タイミングがピッタリと合ったので、見事にハモッた。


 今年の春に、小島先生が担任になったばかりの頃は、こういう暴言にも面食らったものだが、接しているうちに慣れてきた。先生が悲しいことがあったと暴露するときはたいていロクな理由ではない。大方、合コンの結果が芳しくなかったのだろう。


 生徒たちからのブーイングにたじろいていた先生だが、気を取り直し、光たちの説明を始めた。


「お前らは冷たいなあ……。まあ、いいや。今日はお前らに朗報がある。中途半端な時期だが、仲間が二人増えることになった。とはいっても、転校生じゃない。6組からとある事情で女子生徒が二人移ってきたのだ。喜べ、男子共!」


 お決まりのように説明しているが、もうみんな知っていることだ。何の説明もなく、授業を始めても、光たちが教室にいることに、誰も疑問には思うまい。ズボラな小島先生なら、絶対に省略してくると思っていただけに、予想外だった。


「琴羽光に、深海日向。前に出てこい」


 先生の指示で廊下に待たされていた二人が、教室のドアを開けて入ってきた。


「よし、じゃあ、琴羽から自己紹介しな。緊張しなくていいから、のびのびと話せ!」


 緊張しなくていいと言われると、却って固くなっちゃうんだよな。壇上の光も例に漏れず、石像のように固くなっている。教室のあちこちから、「頑張れ!」の声が上がる。


「え、え~と……。初めましての方は初めまして。知っている方もいらっしゃると思いますが、今まで6組に在籍していました、琴羽光と言います。一身上の都合で、今日からみなさんと勉強することになりました。よろしくお願いします」


 生まれたての雛のように、おろおろしながら、光が自己紹介を終えると同時に、クラス中から歓声が上がる。どうしてクラスを変更になったのか、突っ込む者はいない。


「次は深海日向。言ってこい!」


 光と入れ替わりで、次に日向が壇上に立つ。


「……私もいろいろあって、6組から移ってきました」


 光とは対照的に緊張している素振りが見えない。淡々と抑揚のない声で自己紹介をしていく。


 日向の自己紹介に問題があるわけではない。問題があるとすれば、周りの方だ。日向の話が続いているのに、誰も反応しない。無視をしているというより、存在に気付いていないという感じだった。みんな、光のことで夢中で、誰も日向の話に耳を傾けていないのだ。日向本人はそんな状況にめげずに、俺を含めて数人にしか届いていない自己紹介を健気に続けた。


「……以上です。よろしくお願いします」


 挨拶が終わっても、教室内は無反応。みんなの興味は光にいったままだ。さすがに可哀想に思えて、普段は自分からやらない拍手をしようとすると、早智が先に手を叩いた。


 早智が拍手してから、一瞬の間があり、クラス中から拍手が起こる。みんな、早智の拍手で、日向を忘れていることを思い出したようだ。日向がお辞儀をしていたが、こんなタイミングの遅れた拍手では嬉しくもないだろう。


「……まあ、気にするな。人間社会では、時々あることだ」


 いたたまれなくなったのか、先生からもフォローされていた。


 二人の席は、先生が適当に決めた。机と椅子は昨日のうちに、先生が運び込んでいた。光が窓際の最前列。日向が最後尾の真ん中あたり、というか、俺の席の隣だった。


「……よろしくお願いします、岩見様」


 席に座る前に日向は丁寧にお辞儀した。


 「俺の方こそ、よろしく」とだけ答えておいた。




「さ~て、飯の時間だ! 屋上行こうか~!」


 昼休憩を告げるベルが鳴り終わるのを待ちかねたように、早智が俺のところに飛んできた。少し遅れて陽菜もやってきた。七海は用事があるので、今日は不参加。


「光ちゃんも誘おう……としたけど、残念! 私たちと昼食に行ける雰囲気じゃないわね」


 持ち前の流されやすさが災いして、光は他の女子生徒たちに食堂に連れ去られているところだった。


「なあ……。光ってボディガードなんだよな? お前が狙われた時の身代わり要員とかじゃないよな」


 口にするのは失礼だが、ボディガードより、陽菜の影武者の方がしっくりくるのだ。


「そんなことはない…………はずだよ!」


 長めの間を置いた後で、陽菜は否定した。即座に否定しなかったところから、陽菜も多少は身代わり要員の可能性を示唆しているみたいだ。


「じゃあ、せめて日向だけでも誘おうか」


 彼女も陽菜のボディガードなんだから、こっちから呼びに行くまでもなく、自分から陽菜の元に馳せ参じるべきなのだが、彼女もどこか抜けているんだよな。


「ふふ~ん。その必要はないぜ! この俺が既に誘ったからな」


 見ると、日向を横に従えたホイケルが立っていた。


「呼んできてくれたんだ。ありがとう、保池君」


「い、いやあ~。女子の動向には常に目を光らせてますから、このくらい当然ですよ!」


 珍しく陽菜に話しかけられて、変態染みた台詞を交えながら、ホイケルは気持ち悪い照れ隠しをした。


「そういえば、みんな深海さんのことが目に入っていないみたいね。どうしてかしら?」


「日向は存在感が希薄だから……」


 言いづらそうに日向の説明を陽菜がしたが、早智とホイケルは首をかしげる。


「え? そうなの?」


「俺は他の女子と同じ解像度で見えてますよ」


 早智とホイケルには、存在感のある普通の女子として、見えているらしい。俺も同じだ。


「……いつものことですよ。前のクラスでも、級友たちはおろか、先生にも忘れられていました」


 遠い目をしながら、凄絶な過去を語る。陽菜も良く忘れる側なので、申し訳なさそうに目を伏せている。


「……たぶん私がいなくなったことに、未だに気付いていないのではないでしょうか」


「ひどいな……」


 思わず同情の台詞が漏れる。


「……慣れていますので平気です」


「でも、私と優司は気付いていたよ。ついでにホイケルも」


「ついでとは何だ。ついでとは」


「ついで以外に言いようがないから、仕方がないでしょ。美咲さんだって気付いているよね」


「…………」


 陽菜は沈黙したままだったが、早智もホイケルも、その態度には突っ込まなかった。と言うか、陽菜が冷や汗をかいていることにすら、気付いていなかった。


「あと、小島先生。かなりちゃらんぽらんだけど、良い先生だよ」


 俺たちに加えて、先生も日向のことを無視するようなことはしていなかった。


「……前のクラスとは大違いです。……こんなに自分の存在を知ってもらえたのは初めてなので嬉しいです」


「よ、良かったね。日向ちゃんは無視されることが多いから、私も心配していたんだよ! この話を聞いたら、きっと光ちゃんも喜ぶね」


 自分一人だけ、日向を無視する傾向にあるばかりに、話題に置いてかれそうになっている陽菜が無理やり日向に話をふった。それに日向はかすかに頷く。


「……私。このクラスのこと、好きになっちゃいました」


 相変わらずの無表情だが、口元が微妙に緩んでいた。本人的には満面の笑みなのかもしれない。


 陽菜はと言うと、「このクラスってすごい人がいっぱいいるね……」と、昼食の間にずっと呟いていた。恐らく、帰宅したら、使用人に話して回るのだろう。


 ちなみに、光というヒロインを失った六組は葬式のような重苦しい空気に包まれているらしい。女子一人でクラスの雰囲気がここまで変わってしまうとは。王泉ランキングも馬鹿に出来ないかもしれない。


日向はみんなから無視されがちで、幸が薄そうなところもありますけど、本人はあまり苦にはしていません。自分はこういう人間だと割り切って生きています。それでも、たまに自分の存在に気付いてくれる人と会うと、嬉しくなっちゃう子です。光と日向には、まだ書いていない設定が残っていますので、次回で補足できればと思っています。

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