第百三話 待ち合わせより、ナンパ(もしくは食べ物!)です!?
第百三話 待ち合わせより、ナンパ(もしくは食べ物!)です!?
今日は夏休み前の最後の日曜日。悪友二人と遊びに行く約束をしている日だ。
思い返してみれば、陽菜抜きで遠出するのって、交際を始めてから初ではなかろうか。何を観るのかまだ決めていないが、おそらくハリウッド発のアクション映画で決まりだろう。
などと、ワクワクしながら待っているのに、待ち合わせ場所に到着しているのは俺一人。
「……遅いな」
待ち合わせ時間をとうに過ぎているのに、早智もホイケルもやってこない。あいつらは彼女でも何でもないので、「ごめん、待った~?」と言ってきても、「俺も今来たところ❤」などと返してやったりはしないぞ。蹴りを見舞ってこの場から帰すだけだ。
イライラしながら待っていると、道路の向こうにいるホイケルを見つけた。
何をしているんだ、あいつは。
もう横断歩道を横断すればいいだけなのに、渡ろうとする気配がない。誰かに向かって必死になって話しかけている。相手は二十代と思われる、ワンピースの女性。どう見ても知り合いと言う感じがしない。紛れもなくナンパだった。
俺との約束に遅れてまでナンパに励むとは、どこまで女に目がないと言うのだ。
そんなホイケルの熱意はとことん空回りして、女性はホイケルを見るのも面倒くさそうに、その場を歩き去ってしまった。
哀れなホイケルはその場にうずくまり、動かなくなってしまった。このまま放っておけば、ここまで来るのに一時間以上かかる可能性もある。待ち合わせ場所は目と鼻の先だと言うのに。仕方がないので、こちらから行ってやることにした。これはホイケルを思いやっての行動であり、決して茶化しに行く訳ではない。
「よお! 今ので何連敗目だ」
「うるせえ」
せっかく声をかけてやったのに、ホイケルは迷惑そうに俺から視線を逸らした。
「彼女の件は今度にして、今日は映画とゲームを楽しもうぜ」
「ああ、そうだな」
「そう気を落とすな。今度俺がどうにかしてやるから……」
「いや、それはしなくていい。気持ちだけありがとう」
悪友のために一肌脱いでやろうとしたら、全力で拒否された。俺の好意を突っぱねるとは余裕じゃないか。
気を取り直して、再び待ち合わせ場所に戻り、まだ来ない早智を待った。
「ごめん、お待たせ~! 待った~?」
約束の時間からだいぶ遅れて早智はやってきた。口では謝っているが、誠意は一切感じない。そればかりか、手に持っているクレープやアイスが急いで来た訳ではないことの何よりもの証拠となっていた。仮にカップルだったとしても、そんな光景を見せられては、待たされた男も怒って帰ってしまうだろう。ましてや、俺とホイケルは、早智の恋人ではない。遠慮することなく、飛び蹴りという制裁を加えてやった。
「遅れてきたくせにクレープとは。出世したな、お前も」
「腹が減っては戦は出来ぬよ!」
自分自身は転倒しても、持っている食べ物だけは死守した早智が、クレープに舌鼓を打ちながら答えた。腹が減ってもと言っているが、映画を鑑賞している間も、どうせ食い続ける気なんだろう?
「ふう~。おいしかった」
遅れてきたお詫びに持っているクレープやアイスを、俺たちにも食べてと分けようとすることもなく、全部自分で平らげて、満足そうに呟いていた。
「何はともあれ、これで全員揃ったな」
全員と言っても三人しかいない。どうしてこれしかいないのに、集合に時間がかかったのか。
「ほら! 映画が始まっちゃうわ」
「もし遅れた場合、一番悪いのは断然お前だけどな」
「てへへ……。だよね~!」
早智は舌を出すとおどけてみせた。その仕草を見ていると、またイラッとした。
「この三人で遠出って久しぶりよね」
「女にうつつを抜かしていた奴が約一名いるからな」
「その約一名ってのは俺のことか?」
女にうつつを抜かして、待ち合わせ時間を超過した奴に言われてしまった。
ホイケルの妬みをひしひしと感じながら、映画館に向かって歩いていると、早智が何かを見つけて立ち止まった。
「あれ? 七海じゃない」
「え? ……本当だ! 何をしているんだ?」
全面ガラス張りのショッピングモールで、鏡の前に立って何やらしている。
「服でも買うのか?」
「あそこ、水着売り場よね。今度海に行くから、そこに来ていく水着を選んでいるんじゃないのかしら」
七海がいる場所から、そう考えるのが妥当だろう。七海が持っていたのは、ビキニだった。しかも、布地の部分が少ない相当際どい奴だ。
「あいつって真面目な顔をしているのに、結構大胆なんだな」
明らかに七海のビキニ姿を想像して興奮しているホイケルが、窓ガラスに顔を押し付けながら言った。
「ああいう普段優等生を気取っている奴に限って、海では開放的になるものなのよ」
根拠はないが、そういうものなのかもしれない。普段貯めている分を一気に発散するという訳か。
「マジであれを買ったらどうするんだ? ホイケルは大興奮だけど、それ以外の人間はみな絶句するぞ」
「確かに、七海のビキニなんて、私にとっては拷問でしかないわ。そろそろ成敗しますか」
「え! おいおい! いいじゃないか、ビキニも!」
必死になって引き止めるホイケルを振り払って、早智は七海の背後に回った。相当集中しているらしく、早智に回り込まれても、七海は気付いていない。
「何をしているの?」
「え? え? ひえ!」
知り合いに後ろから声をかけられて、狼狽した七海は小さな悲鳴を何度か漏らした後、盛大に転倒して、尻餅をついた。
「ちょっと! そんなに驚くことないでしょ」
「な、お、驚くわよ。そんな、いきなり」
動揺し過ぎて、何を言っているのか意味不明だ。軽いパニックに陥り、ビキニを隠そうと悶えている。もうしっかり見られていると言うのに、今更無駄なことを。
しばらく言い訳をしようと奮闘していた七海だったが、時すでに遅しと言うことを理解して、遂に観念した。
「いやあ~! 知り合いに見られたら困るって時に限って、ばったり遭遇しちゃう! お約束の展開だけど、実際にやってみると最高の気分ね、七海ちゃん!」
「ば、ばばば、馬鹿内。殺す。あとで絶対に殺す~」
動揺のあまり、滑舌がかつてないほど悪くなっている。毒舌もキレがない。
ここで会ったのも何かの縁だ。七海も誘うことにした。
「なあ、俺達。これから映画を観に行くんだけど」
「映画を観ながら、どっちのビキニにするか、考えればいいじゃない。ブププ……」
「か、買う気はないわよ。あんなの、みんなの前で着れる訳ないでしょ。ちょ、ちょっと試してみようかなって、思った、だけ、なんだから……」
そう言って、顔を覆うと、その場に突っ伏してしまった。よっぽど恥ずかしかったんだな。それを見る早智はこの上なく至福の表情をしている。前々から確信していたが、こいつの性格の悪さは折り紙つきだな。
「あ、あんただって、皇一が好きだっていうのなら、ビキニの一つ着るでしょ!」
「……うん」
七海が苦し紛れに皇一の名前を出したが、これが効果てきめんだった。己の非を認めてしまったのだ。確かに、こいつなら皇一が好きだと言うのなら、ビキニどころか、全裸にだってなりそうだ。
早智は深々と頭を下げて、今の非礼を誠心誠意詫びた。本当に申し訳ないと思っているらしく、今にも泣きだしそうだった。
待ち合わせに遅れてきたときも、そのくらいの勢いで謝ってほしかった。
「わ、分かればいいのよ……」
やや圧倒され気味に七海が許したが、微妙な雰囲気になってしまった。
「とりあえず映画館に急ごうか」
映画の上映時間が迫っていたので、とりあえずみんなを急かした。
徐々に投稿する時間が遅くなってきているのが個人的に気になっています。明日以降はまた17時台に間に合わせるつもりではいます。




