第百二話 秒読みサマータイムバケーション
第百二話 秒読みサマータイムバケーション
ドタバタしたものの、定期テストが終わり、後は夏休みに突入するのを待つだけになった、とある登校日。悪友二人と雑談に興じていると、ホイケルがこんな提案をしてきた。
「お前ら、今度の日曜日に、海に行くぞ」
「いきなりだな」
「俺の言動はいつだって急なんだよ」
妙な名言染みたことを言っているが、こいつの目的ははっきりしていた。彼女だ。ナンパをして彼女を作るのが目的なのだ。
「懲りないな、お前も」
登校拒否に陥るほど、女に泣かされているのに、まだ挑もうとする精神には、尊敬に値するものすらあった。
「てめえに言われると嫌味にしか聞こえねえな」
女を求めるのを止めはしないが、ほどほどにしておけよ。また不登校になっても、家までお見舞いには行かないからな。
「そうよ。あんたが海パンを履いてナンパする姿なんて、チャラい以外の何物でもないわ。引っかかる女の子もろくなのがいないでしょうね」
「お前よりはマシなのが釣れるという自信はある」
「は!?」
早智は心外そうにしていたが、ホイケルの根拠のない自信に、俺は内心で同意しつつ、話を海に戻す。
「ナンパする気はないけど、海には行っておきたいな。来年は受験でそれどころじゃないだろうし」
嵐の前に、心の洗濯をしておきたかった。
「優司は美咲さんの水着姿が見られればどこでもいいんじゃないの~?」
「そこの発情期と一緒にするな」
からかってくる早智を冷静にいなす。発情期と言うのはホイケルのことを指しているのだが、当の本人は「お前だって気付いていないだけで立派に発情期なんだぞ」と、俺の嫌味を受け止めつつ、反論してきた。確かに陽菜のことが最近かわいく思えてきたし、その内にそういう関係にもなるんだろうが、まだ大丈夫だと言わせてもらおう。
「でも、海は魅力的よね。スイカ割りとか、海辺でビーチバレーとか」
定番なものばかりだった。こいつこそ、遊びに行けるのなら、どこでもいいような気がする。
海に行くかどうかはあやふやなまま、雑談は一時中断になった。だが、海に行きたがっている人間は他にもいた。
その日の放課後、陽菜に呼ばれて訪れた生徒会室で、海に行こうと言う話になったのだ。
生徒会室には俺と陽菜、妹会長、日向がいた。テストが終わった直後と言うこともあり、他の役員は来ていなかった。
生徒会長の机には、やらなきゃいけない書類の山が積まれていたが、妹会長は涼しい顔で、それをスムーズに片付けていく。事務処理能力だけ見れば、他の役員よりも上なのかもしれない。
「例年、プライベートビーチで海水浴を楽しんでいて、今年も家族と行く予定なんだけど、その前に優司くんと行っておきたいかなって」
「うんうん、それに私と生徒会の愉快な仲間たちも加われば、向かうところ敵なしだよね」
陽菜と二人きりで夏の海を独占できるのかと期待したところに、妹会長が割り込んできた。俺と陽菜の邪魔をしようと言う意図は感じられない。ただ無邪気に大人数で遊びたいと考えているだけのようだ。
「え~とね。隣には皇一の家のプライベートビーチもあるんだよ!」
笑顔がやや凍り付く陽菜を見ないように相槌を打つ。子供同士を結婚させようと考えるくらいだから、親同士は仲が良いらしい。
「もしかしたら俺たちが言っている時に一緒になるかもしれないな」と適当に返してみると、「そうするって言っていたよ!」と、陽菜には笑えないことをカミングアウトした。
「……言ったの?」
「うん! ……いけなかった?」
いけなかったな。もういい加減、姉との不和に気付いても良さそうなのに。ほら、陽菜が不貞腐れている。
そういえば、こいつの中では未だに陽菜と皇一は将来を約束された中なんだよな。俺に懐いてきたようにも思えるけど、こいつにとって俺はどういう存在なのだろうか。今度聞いてみたいものだ。
そこまで話したところで日向がコーヒーを持ってきてくれた。
「という訳で、私とお姉ちゃんとお兄ちゃん、光と日向に生徒会で海に行こうよ。もしお兄ちゃんの方でも何人か誘いたい人がいたら連れてきても良いよ」
まだお兄ちゃんと呼ばれるのには慣れないところがあったが、お兄ちゃんと呼ぶようになってから、目に見えて妹会長の接し方が好意的になってきたのはもう話している筈だ。
「日向の水着姿も一年ぶりに拝めるんだね。去年はビキニだっけ? あれは傑作……じゃなくて、似合っていたね!」
「……ま、真奈美お嬢さま」
日向が顔を赤らめて、話を止めるように懇願している。いつも冷静な日向が慌てるところを見るのは、不謹慎ながら面白い。
「水着が嫌なら魔法少女でもいいよ!」
「!」
日向のトラウマに触れてしまったらしい。表情どころか、仕草までたどたどしくなり、持っていたコーヒーを俺に吹っかけてしまった。
「熱!」
「す、すいません。今乾いたタオルを!」
「日向、それはタオルじゃなくて、雑巾よ!」
笑った罰だろうが、熱いコーヒーのせいで火傷するところだった。
こういう訳で、悪友と彼女の両方から、海に誘われることになった。
ここで問題になってくるのはいつ行くのかと言うことだ。陽菜は夏休みに入ってから行こうと言っているし、ホイケルと早智は今度の日曜に行こうと言っている。二回行けばいいではないかと言う話だが、出来れば一回で済ませたい。
「なあ、海の話だけど、夏休みに入ってから行くと言うのはどうだ? 実は陽菜からも海に行こうと誘われているんだ」
翌日登校すると、早速ホイケルと早智に、陽菜と打診してみた。
「何で彼女とのラブラブな旅行に、私たちを招待するのよ。……見せつけるつもり?」
「そうだ、彼女が出来なくて苦しんでいる俺を絶望の淵に沈める気なのか、お前は」
「いや、生徒会のメンツも来るらしいから、お前らが来ても、来なくても、過度のラブラブにはならない」
多少はラブラブするつもりだけどね。
「あと、皇一も来るかもしれない。陽菜の家のプライベートビーチの隣が、あいつの家のプライベートビーチになっているんだ」
淡々と話しているが、俺ってすごいのと付き合っているよな。母親が聞いたら、将来は安泰だと泣いて喜ぶかもしれない。
「え? 皇一さんも来るの? それを早く言いなさいよ」
皇一の名前を聞いた途端、早智の目が輝きだした。対照的にホイケルの表情が一気に曇った。この二人の皇一への反応は、相変わらずだな。
「俺はあいつのことがあまり好かないんだよな」
言うと思った。だが、ホイケルの気持ちも分からなくもない。確かに皇一はイケメンだし、女子にモテるし、家も金持ちだ。自分にないものを羨ましがるのは決して恥ずかしいことではない。
「おい! 俺に対して同情しているだろ。大きなお世話だから止めろ」
いたいけな視線をホイケルに向けすぎた。鈍感なホイケルも、俺の内心に気付いてしまった。
「念のために言っておくが、お前と二人きりで行くつもりはないからな」
彼女もいるのに、何が悲しくて野郎二人で海に行かねばならんのだ。しかも、相棒はナンパする気満々。陽菜に知られようものなら、浮気する気かと問い詰められてしまう。
「ぐ……」
ホイケルはしばらく苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、結局は夏休みに入ってから、陽菜たちと海に行くことに同意した。背に腹は代えられないらしい。
それでも面白くなさそうにしていたので、「皇一はモテるから女友達も連れてくるかもしれない」とフォローしてやった。もちろん、見る見るうちに機嫌を直して、「まあ、仕方ないな」と元気いっぱいに応えていた。
ちなみに、今度の日曜は海に行かなくなった代わりに、映画鑑賞とゲーセン荒らしに行くことになった。どれだけ遊びたいのだ、お前らは。……俺もだけど。
出番のなかった光と日向、あとホイケルの活躍する話にするか!? でも、生徒会のメンバーに暴れさせるのも面白うそうだし……。
こんな調子で、海の話をどうしようか絶賛考え中です。リクエストがありましたら、どんどん送ってきてください。可能な限り、善処させていただきます!!




