第九話 荒野の牙と白夜の虎
【無銘の斧】が【荒野の牙】に勝利し不戦協定を結んだ、少年奴隷はもう不良たちに襲われることはない。
戦いの決着がついた翌日、そんなニュースが少年奴隷の間に広がっていた。
『拳で語った後はみんな友達』というのは不良少年たちにはよくあることだったようで、ゼクスたちからは「俺たち荒野の牙は無銘の斧に下る。どうか傘下に入れてほしい!」と頼み込まれた。
僕たちからすると昨日まで恐喝してきたような奴らと簡単につるめるか! と塩でもまいてやりたいところなのだが、問題はそう簡単な話でもなかった。
それはブーゲンビリアを牛耳るマフィア【白夜の虎】の存在だ。
【白夜の虎】は奴隷少年から奪った金の3割をミカジメ料としてもっていくことをシノギとする本物のヤクザ屋さんであった。
荒野の牙が奴隷少年から奪えない払えないとなると白夜の虎が黙ってない。奴隷少年たちを直接脅してくることも考えられたし、荒野の牙が白夜の虎に屈し不戦協定を破って再び襲ってくるかもしれない。
そう考えると荒野の牙をこちら側に引き入れた方がいく分かマシに思えた。
苦渋の選択ではあったが、僕らは荒野の牙を傘下に迎え入れることにした。
「ただし、それはまだ公表しない。表向きは【白夜の虎】に従ったフリを続けてもらう」
「どういうことで?」
「それは『無い袖は振れない』ってやつさ」
ヴィクトールは不敵に笑った。
【荒野の牙】がため込んでいた銀貨は90枚。その中から銀貨10枚をこちらに返してもらう。
そして荒野の牙メンバー16人が才能を得るための費用として銀貨32枚を教会の牧師に支払う。あの牧師は例え相手が奴隷商でも金のためなら祝福を与えるような男だ。不良少年だとしても銀貨を払えば問題なく祝福を授けてくれるだろう。
残りの銀貨48枚は【無銘の斧】で預かり、ココの実家レイン商店で食料や薪、布といった生活物資を都度買い、黄昏の丘秘密基地に隠す。
そうすればスラムの荒野の牙アジトに白夜の虎が取り立てに来ても奪われる心配はない。
これを僕たちはヴィクトールの言葉にちなんで【ない袖は振れない作戦】と命名した。
・・・・・
「ゼクス! 今月のミカジメ料はまだか?」
スラムにある荒野の牙のアジトで坊主に白スーツ姿の男が筋骨隆々なアロハ野郎2人を引き連れがなり立てる。白夜の虎ナンバー3、若頭補佐ゴルドーとその取り巻きたちだ。
「すんませんゴルドーのアニキ! 御覧の通り食うにも困っている状態でして……」
あえてボロボロの服を着たゼクスは、捨て犬のような表情でガランとしたアジトの中を見せる。他のメンバーも俯きいつも以上に落ち込んだ感じを出している。
「ち、シケた面してやがる。帰るぞお前ら!」
「へい!」
…
……
「今回はそれで乗り切ったけど、何度も使える手じゃない。君たちも僕たちと一緒に才能を鍛えるんだ」
「鍛えてそれでどうするんだ?」
「まあ、僕に任せてくれよ」
疑問符を浮かべるゼクスにヴィクトールはそう言い、ゼクスが渡した【荒野の牙】メンバー16人が得た才能を確認した。
ゼクス、斥候術
ライガ、剣術
ジン、格闘術
バルド、格闘術
クロウ、氷結魔術
レイヴ、光魔術
レン、風魔術
ダグ、土魔術
アベル、幻影魔術
ゼノ、神聖術
ザイル、漁師
グレン、農業
ディオ、商才
トマス、料理人
イライザ、薬師
シオン、文才
イライザとシオンが女の子でそれ以外は全員男の子。年齢は僕たちと同じか少し上くらいの少年少女たちだった。僕たちと同じだったり重複する才能の子もいたけど、概ね色々な才能を得ることができた。
そしてここからが我らがリーダー、天才ヴィクトールの本領発揮だ。




