第七話 黄昏に眠りて
「こらジャック、起きろ!! ココに何してる!」
「……ふにゃ?」
「さっさと離れんかああああ!!」
僕たちの秘密基地にはハンスとエドが鍛冶大工の訓練がてら作った3人掛けのソファが置いてある。他にも斧と木の根がモチーフのタペストリーに丸テーブル、椅子もあり、当初の廃墟からは見違えるようになった。
僕は小石を浮かす訓練に集中しすぎて疲れ果て、ソファで寝こけていたら突然の大声で目が覚めた。
何事かと目を開けると、横にはいつの間にか僕に寄りかかるようにしてココが一緒に寝こけていた。そしてソファの前には仁王立ちして憤怒の形相で僕たちを見下ろすレフィの姿があった。
うん、僕は何も見ていない。見なかったことにしよう、そうしよう。
何もなかったことにした僕は、再び目の前にあるココのもふもふな耳に顔をうずめて目を閉じる。
「ジャック、本気で怒るぞ……」
腕をプルプルと震わせたココラブなレフィーに無理やりひっぺがされ、すっごく怒られた。
怒られている最中、なぜか僕はずっと正座させられた。
「ジャック! ちゃんと私の話を聞いてるのか! 君ってやつは……もうっ!」
目を吊り上げてプリプリ怒るレフィ。美人な女の子が怒るのってなんかいいよなあと思いながらも、眠気で頭がぼんやりする僕。うつらうつら。
レフィの言葉は右耳から左耳へと素通りし何も残らなかった。
レフィはその日なぜか機嫌が悪く、いつも冷静沈着なあのヴィクトールが珍しくオロオロしていたよ。
・・・・・
ところで秘密基地のある黄昏の丘周辺には鹿や野兎、キツネといった温厚な動物たちが暮らす森林が広がっている。貴族は自然を嗜むものであり、熊や狼、魔獣といった危険な動物を駆除した安全で豊かな森林を都市内に残していた。
僕たちは奴隷とはいえ貴族家の子飼いであり、森に入ったとて咎められることはなかった。子供に何ができるわけでもないだろう、というのが本当のところだろうが。
そんな豊かな森の中、団員たちの才能を組み合わせることで思わぬ副産物があった。
例えばノアのサバイバル術は落とし穴や箱罠を仕掛け動物を獲ることができたが、獲った野兎を捌き火炎魔術で焼けば立派な肉料理になった。
ノアのサバイバル術は食用の山菜キノコを判別採取することもでき、ココが実家からもらってきた塩をふり秘密基地の暖炉で焼けば、奴隷の僕たちには考えられないご馳走になった。
他にも水魔術と氷結魔術を組み合わせれば綺麗な水と氷が手に入ったので、飲み水にも困ることはなくなり、食材と氷結魔術を組み合わせれば食材の冷凍保存ができた。
水を暖炉にかければお湯も沸かせたので、お湯で体を洗うこともできた。ありえない贅沢だった。
さらにココの実家が商店なので山菜や捌いた肉、氷、鍛冶大工の訓練で作った家具などを買い取ってもらうこともできるだろう。
全てヴィクトールのアイデアと采配によるものだ。
・・・・・
まともな食事がとれる機会が増えてからというもの、最近では皆血色が良くなり、ガリガリのヒョロヒョロから体つきもしっかりしてきた。
いくら訓練しても、まともにメシも食えないようでは体力はつかない。十分な食事と休養も訓練のうちなのだ。
僕は地道な力場コントロールの訓練の甲斐あって、小石を飛ばす、パンチやキックの威力を上げる、走るスピードを上げる、逆に自分へのダメージを軽減するということができるようになった。
相変わらず力場を全開放するイメージは試していない。暴走する危険があるからだ。
他の団員も着実に力をつけていた。
鷹匠のフリッツは鷹ではなくその辺にいた鳩を3羽手懐けることができている。武術班の動きは洗練され魔術班の発動スピードも上がっている。
一方で相変わらず荒野の牙の横暴は続いていた。今日も大工のハンスが道すがら奴らに殴られ銅貨40枚を奪われた。
奴らも狡猾で戦闘能力のない団員を確実に狙ってきている。
「いいかい、お金に良いも悪いもない。悪くしているのは人のありようだからね。だから僕たちは誰からも奪わない。僕には荒野の牙のありようがどうしても我慢ならないんだ」
ハンスの腫れた顔を見てヴィクトールがそう切り出す。口調は穏やかだが彼は静かに怒っていた。
「ああ、僕たちはとっくにその心づもりさ、ヴィクトール。みんな君の言葉を待ってる」
僕は皆の気持ちを代弁してそう言った。ヴィクトールは「では……」と咳払いし。
「僕たちは喜びも悲しみも分かち合う仲間だ! 僕たち【無銘の斧】は仲間を傷つけた奴を決して許さない。抗うぞ!」
「応!」
僕たちは掛け声とともに右こぶしを地面に突き出した。
――さあ、戦闘開始だ。




