第六話 根源の大樹アルケ・アグニス
僕たちは屋敷を抜け出せるときに黄昏の丘に集まっては、才能の訓練に明け暮れた。
僕の役に立たない才能も一応ヴィクトールの【真理の慧眼】で見てもらった。
するとヴィクトールは「緋色に燃える大樹が見える……」と呟いた。
…
……
――僕には夢とも現実とも区別のつかない小さな頃の記憶がある。
木こりの父さんに肩車されて、森の中に入った僕は父とはぐれて迷子になった。
一人森の中を彷徨っていると、緋色の髪と目をした少年が刀身が透明なあまりに無力に見える斧をもって、緋色に燃え盛る大樹を縛る鎖に刃を入れているのが見えた。
その少年は僕に気が付くと、小さな僕に斧の柄を握らせ、一緒に大樹の鎖に透明な刃を突き立てた。
その瞬間大樹から温かな光が溢れ出し、僕と少年を包んだ。
僕は余りの眩しさに目を閉じてしまった。
気が付けば少年の姿はなく、焦った様子の父が僕の近くに立っていた。
――そんな曖昧な記憶。
両親曰く、元々僕の髪と目はこんなに鮮やかな緋色ではなかったそうで、不思議がっていたのを覚えている。
……
…
「……根源の大樹アルケ・アグニス」
ヴィクトールはその名を口にした。
「フェルゼン家には代々言い伝えられている逸話があってね。初代様は僕と同じ【真理の慧眼】を使って根源の大樹アルケ・アグニスをもつ者を探し出し、未曾有の大災厄を払った。その功で貴族に召し上げられたのだと昔父上から聞いたことがある」
「ヴィクトールは僕がフェルゼンの初代様が見つけた人と同じ才能だと言いたいのかい?」
「確信はない、だけどその可能性がある。僕もそれ以上のことは知らないけど推測することはできる。ジャックも使えない才能だと決めつけないで、地道に訓練していこう」
それから僕は空いた時間を見つけてはヴィクトールの考案した訓練を行った。
無力という才能の本質。それは『力場』を扱う才能なのではないかとヴィクトールは推測した。
例えば無力の才能を使ってパンチを放つと威力がゼロになる。これは相手に向かうはずの力を力場のようなものが相殺しているのではないかと。
もしこの力場の出力、方向をコントロールすることができるようになれば、むしろパンチの威力を上げることも可能になるのではないか。
そこでヴィクトールの考案した訓練方法は、座禅を組んで目の前に小石を置き、無力を小石に使い宙に浮かべるというものだった。
その際気を付けないといけないのは、『少しずつ』力場のベクトルを逆に解放するイメージだと。いわば僕の才能は『完全無力』。いきなり力場のベクトルを逆に全開放すると暴走しかねないと彼は言った。
「そうだな……、例えば君の中に緋色に燃える大樹を想像するんだ。それを絶対に切れない鎖で拘束するイメージ。ちょっとずつ鎖を緩めて力を解放するって感じ」
「ああ、鎖ならイメージできるかな」
僕は故郷を出たあの日、不潔で禍々しいゴツゴツとした鎖に拘束された。
その記憶はトラウマというレベルで今でも鮮明に残ってる。僕にとって絶対に切れることのない鎖だ。
なのでイメージするのは【緋色の大樹=僕】を拘束する【奴隷の鎖】でいい。
端から見ると座禅を組んで小石をちょっとずつ動かないか念じている姿。
ただ心の中には禍々しい鎖に雁字搦めにされた緋色の大樹。絶対に切れない鎖を緩めていくイメージ。
最初小石はピクリとも動かなかったけど、修行を続けていると徐々に動くようになった。
物体それ自体ではなく、物体を包み込み作用する力場を小石の下に展開する感じ。
さらに頑張っていると小石が少しだけ浮かんだ。




