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無力のランバージャック  作者: 餡乃雲(あんのうん)


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第五話 無銘の斧

 最近、重魔導工学関連の産廃処理施設送りとなった少年奴隷が行方不明になったと噂されている。いつ自分たちもそうなるかわからない。


「世間に名声を示し、立身出世するしか道はない。奴隷から一刻も早く抜け出すんだ」

 ヴィクトールは僕にそう言った。

「なぜそう思うの?」

「いいかい、ジャック。僕たちは物理的に腕輪や鎖で拘束されているんじゃない。権力や法という見えない鎖で縛られているんだ。そこから抜け出すには、そんな見えない鎖を断つ必要があるんだ」

「じゃあ、その名声を示すためには?」」

「わかりやすく言うと、例えば街を攻めてきた敵を倒すとか。領軍の魔導飛行船【アーク・レギオン】すら敵わない敵をもし倒すことができたのなら、僕らは間違いなく英雄の仲間入りさ」

「あはは、それもそうだね!」


 僕たちはそんな夢物語を楽し気に語り合った。



 それからしばらくしてヴィクトールは奴隷少年たちで団結し自警団を作ろうと言い出した。

 荒野の牙だけではない。産廃処理施設送りになって死ぬ少年奴隷だって理不尽な暴力の犠牲者だ。飢えや病気で死んでいく奴隷少年たちをこれ以上見たくない。

 だから奴隷少年に向けられる世の理不尽に抗うための組織を作るのだとヴィクトールは言った。


 ヴィクトールは元伯爵貴族家に相応しい志、善性をもっていた。


 黄昏の丘にて空襲時に避難するための今は使われていない廃墟の地下室を発見した。そこを僕らの秘密基地とした。


 僕とヴィクトールは比較的信用できる少年奴隷たちに声をかけた。集まった少年奴隷のメンバーは僕とヴィクトール合わせて12名。それと味方になってくれそうな木刀少女のレフィ、犬人少女のココにも声をかけたら面白がって参加してくれた。レフィとココは幼馴染だそうだ。これで総勢14名。


 全てが寝静まった深夜、屋敷を抜け出した僕らは自警団の結成会を秘密基地で行うことにした。


 団長ヴィクトール、副団長は僕ジャック。

 団の名は【無銘の斧】、掲げる御旗は『根の同盟』。

 僕が木こりの出であること、名もなき少年が理不尽な力に立ち向かうという意味を込めた。

 団員は全員右手中指に団員の証である若木の根を巻き付けている。


 そしてヴィクトールが右拳を根のある地面に向かって突き出した。


「根は見えないが、決して簡単には絶やせない! 僕たちは喜びも悲しみも分かち合う仲間だ! 理不尽に抗え! 僕たち【無銘の斧】は不滅だ!」


 ヴィクトールの口上に全員が地面に拳を向け「応!」と返した。


 遠くない未来、フリーゲル伯爵に抵抗することになるレジスタンス組織【無銘の斧】は、こうして少年少女たちの手によって作られた。



 ・・・・・



 ヴィクトールは団員全員で才能の訓練と読み書き計算の勉強をしようと言った。才能と知識を高めることが身を守ることにつながるのだと。


 ヴィクトールは訓練にあたってメンバー14人と才能を確認した。


 ヴィクトール、真理の慧眼

 ジャック、無力

 レフィ、守護の誓い

 ココ、おねだり

 テオ、剣術

 フィン、槍術

 ロイ、弓術

 アレン、火炎魔術

 オスカー、氷結魔術

 エミル、水魔術

 ノア、サバイバル術

 フリッツ、鷹匠

 ハンス、大工

 エド、鍛冶


「いいかい、君たちの才能は何も石板に表示されたものだけが全てじゃない。もっと奥深い立体的なものなんだ。石板に表示された名前が水面だとして、さらに水の中に潜っていくイメージで訓練を積むんだ」


 ヴィクトールはそれぞれの才能の訓練方法をレクチャーしてくれた。ヴィクトールの才能【真理の慧眼】は才能の奥底にある成長の芽を見つけることができた。


 レフィ、テオ、フィン、ロイは武術の訓練。アレン、オスカー、エミルは魔術の訓練。ノア、フリッツは特殊工作の訓練。ハンス、エドは製作の訓練といった感じで班を分けた。


 ココの【おねだり】は交渉を有利に進める才能のようで、僕が訓練相手になった。


 ヴィクトールが考案したのは「モエモエーキュン」なる訓練方法。それはフェルゼン伯爵家口伝の秘技。パンの端切れを前に両手の親指と人差し指を合わせ奇怪なる紋様を描き「モエモエーキュン」なる呪文を唱えるというものだった……。


「モエモエーキュン?」


 トゥクントゥクン


 首をかしげながら言うココを見て、僕の鼓動は高鳴る。ヴィクトールも「はうっ!」と言いながら胸を抑えていた。



 それから仲良く分け合って食べたパンの切れ端は極上の味がした。


 その後こっそりヴィクトールに急に芽生えた感情のことを打ち明けると、「そうか、君もついにか」と笑われた。

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