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無力のランバージャック  作者: 餡乃雲(あんのうん)


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第二話 ブーゲンビリアの街へ

 奴隷商の馬車に揺られてたどり着いたのは、フリーゲル伯爵領の主都ブーゲンビリア。華やかな名前とは裏腹に、飛行船建設など魔導重工業で栄えた城塞都市だった。


 ブーゲンビリアが誇る魔導飛行船【アーク・レギオン】の栄名は僕のいた開拓村にも響いている。

 領軍の魔導飛行船が都市の上流に位置するキール湖の上空を飛行しているのが見えたが、それも不意に市壁の門に視界が阻まれる。


 この門は奴隷にとって人生で一度きり、街に入るときしか通ることができない。奴隷の腕輪をした僕を衛兵は決して外に出すことはないのだ。


 都市内に入り奴隷商の拠点にたどり着くと鉄格子のある牢にぶち込まれ、ついでに汚いボロ切れとハエのたかる臭い飯が投げ入れられた。トイレもなく糞尿は垂れ流し。そこかしこから悪臭が漂ってくる。

 奴隷商が去った後、隣の牢で暇そうにしていた鼠顔の少年が「十日に一度牢の掃除と水浴びをさせてもらえるよ」と教えてくれた。


 奴隷商が僕のような子供を買ったことには理由があった。

 この国では13才になった者が教会で祝福を受けることで才能が一つ発現する。良い才能に恵まれた子供は高く売れる。

 そんなわけで、僕は早速教会に連れていかれることになった。


 ――子供を売り飛ばす奴隷商が、孤児院で救いを与える教会で祈りを捧げる。


 一体何の冗談かと思ったが、牧師は虫も殺さなそうな柔和な笑みを浮かべ奴隷商から銀貨数枚を受け取っていた。この街では善人面した聖職者が金で13才の少年を売り飛ばす手伝いをしているらしい。


 この体たらくで本当に神に祈りが届くか疑わしいが、神様も僕を可哀そうだと思ってくれたようだ。


 才能:無力


 牧師が手をかざす石板に浮き出たのは「無力」の二文字だった。「無力」なる才能を授かったことになる……はずなのだが、牧師は困惑した表情を浮かべていた。

 牧師は本棚から羊皮紙の束を引っ張り出し何事かを漁っていたがしばらくして「あっ!」と声を上げる。そうして顔を上げた牧師は奴隷商に同情的な視線を向ける。


「……牧師様。この無力ってえ才能は使えるものなんですかい?」

「無力は非常に稀有な才能ですが、どんなに目いっぱい殴ってもフェザータッチになってしまい相手に力が伝わらない才能と伝えられております。私も見るのは初めてです」

「……それはつまり?」

「何の役にも立たない才能ですな」


 深いため息をつく奴隷商。それでも本当に役に立たないのか確かめずにはいられなかったようだ。


「……おい、つかってみろ」

 と右手の平を構え、そこに拳を打ち込むよう促された。僕は言われるがまま体内にある才能を意識。キラキラと緋色に輝くものが体を駆け巡る感覚。それが手に宿ったと思ったその瞬間、渾身の拳を奴隷商の右手の平に叩き込んだ。

 しかし自分の拳が痛くない代わりに奴隷商の手も微動だにしないという不思議な結果となった。


「……なるほど、こりゃ使い物にならんな」

 奴隷商はそう吐き捨て、それ以降僕を視界に入れることはなかった。



 ・・・・・



 僕も才能について多少のことは知っている。例えば剣術や火炎魔術の才能があれば騎士や傭兵、ハンターとして引く手数多だろう。奴隷商の期待する「高く売れる」才能とはこういう類のものだ。


 案の定、使えない才能の僕に買い手はつかなかった。僕は相変わらずひもじさと悪臭に耐え忍ぶ日々を過ごしていた。


 牢の中で寒さに震えていると、ねっとりとした甘ったるい声の女と奴隷商の会話が聞こえてきた。奴隷を値踏みする客だろうか。まあ、僕が選ばれることはないだろう。

 だがその客は「あら、かわいいざあます」と僕の牢の前足を止めた。顔を上げるとピンク色のヒキガエルと、それを揉み手でヨイショする奴隷商の姿。

 よく見るとピンク色のヒキガエルは辛うじて人間のようであり、語尾にザアマスと付けるババアだった。


 奴隷商が「ブリギット様もお目が高い! こいつは最近木こりの村から仕入れまして、薪を燃やしたような緋色の髪と目が特徴の美少年にございます!」と揉み手をし、下卑た笑みを浮かべながら口上を述べる。それに「あらまあ、ゲルクったらお上手ねえ」とまんざらでもなさそうな顔で返すババア。


 無口な男かと思いきやこんなにも流暢に話すことができるのか、とか、こいつの名前ゲルクっていうのかと心の中で思う。

 と同時に、このババアが何のために僕を買おうとしているのか、を嫌でも察してしまった。


 邪悪な笑顔を浮かべるババアは従者の美少年から悪趣味な財布を受け取ると、金貨20枚をその場で奴隷商ゲルクに支払い僕を買った。


 僕はこれから自分が何をさせられるのかと考えると、気分が暗くなった。

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