第十二話 止まない雨のカーテン
そんな楽しかった僕たちの日常も終わりを告げる。
「ギィエエエエエエエエエ!!」
「大奥様、大丈夫でございますか!? 今すぐお手当を!」
「このガキィ、人がいい顔してりゃ付け上がりやがって! テメエはもういらねえ、ぶっ殺してやるよぉ!!」
つんざくような化物じみた茶色いババアの大声にメイド長が駆け寄る。毒々しい紫色の大きな坪が割れ、ババアの頭から一筋の血が垂れ、声の限り怒気を露にしていた。
まわりの少年奴隷たちは凍り付いている。視線を少し離れたところに向けると、胸をはだけ顔を青ざめさせたヴィクトールの姿があった。
何があったのかとは聞くまい。
美しいマイコレクション、愛しのヴィクトールにスケベしようとしたババアが近寄り突き飛ばされたに違いない。
「ヴィクトール大丈夫?」
「……」
僕が近寄って肩を貸しつつ聞いても、ヴィクトールは血の気の引いた悔しそうな顔でババアを睨みつけることしかできなかった。
そして、この日ヴィクトールの産廃処理場送りが決まった。
正確には飛行船の造船工房に売り飛ばされたということなのだが、奴隷の仕事は劣悪な産廃処理作業なので、そういうことになる。
ババアはあまりにも容姿が美しいヴィクトールによほど夜伽をさせたかったらしく、ヴィクトールに鼻息荒くペロペロスリスリと迫った。だがヴィクトールはこれを拒絶、あまりの気色悪さに突き飛ばしてしまった。
これにキレたババアがヴィクトールを劣悪な労働環境の産廃処理場送りにして、直接手を下さずとも殺せる陰湿な手段に出たというのが事の顛末だった。
そしてすぐに身柄引き渡しの日がやってきた。
ババア邸にやってきた奴隷商ゲルクは、ヴィクトールの奴隷の腕輪を産廃処理場のものにはめ換え、鉄格子のついた馬車に入れる。
曇天の空、降りしきる雨。
馬車がパシャパシャと泥を跳ねながら、少しずつ遠ざかっていく。
彼には劣悪な産廃処理施設での労働が待っている。もう二度と生きて会えないんじゃないかという嫌な想像が頭をよぎる。
「僕は無力なんかじゃなかったよ、ヴィクトール! 君のおかげで気が付くことができたんだ! 絶対にあの日の約束を果たそう!」
「……ああ、もちろんだ! 黄昏の丘でもう一度!」
鉄格子の中からヴィクトールはまるで僕たちを勇気づけるように頷いたので、僕も頷き返した。
そうだ、たとえ離れ離れになったとしても、僕たちの心はずっと一緒だ。
そしていつかきっと僕がヴィクトールを救い出してみせる。
しとしとと止まない雨のカーテンは。
佇む僕たちの悲しみを包み込むように。
ただただ見守ってくれていた。




