第十一話 移ろう季節の中で
ヴィクトール曰く、『無力』という才能は力場を操る力の極限の形、氷で言えば絶対零度の氷が『無力』、逆に極限まで燃え盛る太陽の炎熱が『有力』なのだと言った。
僕は鎖で縛られた大樹のイメージに加え、大樹が発するエネルギーを炎と氷に置き換えてイメージトレーニングをした。
僕は武術組の訓練にも参加していた。氷のイメージで相手の攻撃を無力化し、逆に拳に炎のイメージを乗せて攻撃してみると、いつもよりスムーズに力の出し入れができるようになった。
拳が纏うオーラを二重にし、相手側が炎、こちら側を氷とイメージし攻撃すると驚くほど威力が上がった。危ないので組み手では使うなとストップが入ったので、仕方なく森の木で試すことにした。
拳だけじゃなく、蹴りや頭突きにも使ってみた。すると頭突きで木を折ることができた。さらに森の中でシカを見かけたので追いかけて素手で戦ってみたら余裕で狩れた。
ゲットしたシカは氷のイメージで無重力を付与し、片手で持ち上げて秘密基地まで運びノアがサバイバル術で肉に解体した。
今日はシカ肉パーティだ。
シカの調理を任じられたのは我らが料理人のトマス。
トマスによって新鮮なシカ刺し、シカ肉ステーキ、シカ鍋などが作られ、山菜をふんだんに使った豪勢な料理が振る舞われた。
食用油と塩で食べるレバ刺しウメー。
全員普段は絶対に味わえない極上のとろけるような肉の旨味に涙したのだった。
・・・・・
それから僕は山に入ってはシカ相手に戦った。素手で殴るだけじゃなく、重力を付与し強化したその辺の石をエネルギーの反作用で打ち出し仕留める技も覚えた。
弾丸を撃てるようになったことで、鹿以外にもヤマドリ、ウサギ、アナグマなど獲れる肉のレパートリーが増えた。特にアナグマはフライパンで角煮にするとバチバチと跳ねる油がとんでもなくジューシーで美味く、みんなからのリクエストが多かった。
最近覚えたのは空気に向かって氷と炎のイメージで蹴ると、空中を素早く移動するという技だ。木陰の間を縫うように移動しなければならなかったが、それはそれで力をコントロールする訓練になった。
食べきれなかった獲物の肉はレイン商店で買い取ってもらえ、中々の臨時収入となった。儲けたお金は個人にもいくばくかのバックがあったので、実家への仕送りを増やした。
完全に肉の旨味に取り憑かれた亡者どもから僕は『お肉係』と認定されていた。顔を合わすたびに「肉はまだか?」と聞くのはやめてほしかったけど、ココが「お肉まだ?」と小首をかしげて『おねだり』してくれるのは嬉しかった。
「さあ、今日もお肉を一杯獲ってくるぞー!」
現金な僕だった。
肉の他、最近僕らがハマっているのは魚介類だ。調理法を提案するはここも我らが料理人、トマス。
ここブーゲビリアの街の上流に位置するキリル湖には北国特有の豊富な水産資源があった。
漁師のザイルが獲ってきたトラウトサモーンというプリプリとした食感が特徴の赤身の魚、ツーブ貝というコリコリとした歯ごたえがたまらない貝を、クロウの氷結魔術で鮮度を維持。
それらをトマスが芸術品かのような刺身盛り合わせに仕立て、そのツヤツヤの刺身をココが実家から持ってきたショーユ―という豆から作られた黒い液体調味料につけ、ノアが森で採ってきたピリっと辛い山ワサービという山菜をすりおろしたものを乗せて食べるとそれはもう絶品でヤバかった。
口に入れた瞬間、全員が雷に撃たれたように固まっていたよ。
宴会も一区切りした頃。
僕は一人秘密基地の中、特に理由があるわけでもなく、揺れるランタンの炎を眺めていた。
吐く息が白い。もうそろそろ上に一枚着ないと厳しいだろう。
そういえばこの辺りも雪が降るとヴィクトールが言っていたな。
冬の季節を知らせる雪虫が舞うのもそろそろだろうなと、僕は季節の変わり目を感じとっていた。




