表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
7話 アンネ・マクブライン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/114

80 運命の発表会(4)

 ヒューゴがレイチェルを一瞥し、すぐに手元の書類に視線を落とした。


「グリーンフィールド家との縁談に際して、ソーントン家から提示されていた資産状況です」


 レイチェルの顔色が変わる。

 それに構わず、あくまでもヒューゴは自分のペースで話しつづける。決して感情的にはなっていない。事実だけを、一つひとつ丁寧に積み上げていっているようだった。


「少し確認させていただきたい。数年にわたる出費の流れと、家の実態に大きな乖離が見られます。提示された内容は、正確なものではありませんでした」


「それは……家の事情で」

「承知しています。縁談に際して正確な情報を開示しないことが、いかなる問題を生じさせるのか。それはあなたも、よくご存じのはずでしょう」


 レイチェルが視線を忙しなく動かした。言い返す言葉を探していたらしく、まもなくその口から言葉が飛んだ。


「グリーンフィールド家の後継ぎとはいえ……元々は次男でございましたでしょう? 家格の差を考えるならば、手前どもが一方的に責められる問題ではないはずですわ」


 半ば開き直りだ。

 ヒューゴは次男で襲爵しないのだから、貴族であるソーントン家の虚偽申告は大事ではないという論理だった。


 しかし、それは同時に、レイチェル自身の本音を公衆の前に晒す発言でもある。ヒューゴの目が、ほんのわずかだけ細められた。


「ええ、私は次男でした。だが、縁談の申し込みがあったのは、私が正式な後継ぎとなってから。申告のあった時期とは違います」


 会場がざわりと揺れた。

 身分の差を言い訳にできるのは、ヒューゴが次男であったときまでだ。縁談のあった時期では、すでにその口実は使えない。それは言外に、家格の問題ではなく、別の何かのためだったということを認めてしまっていた。ほかでもなく、グリーンフィールド家の資産である。


 貴族として、伴侶にも相応の身分を求めた夫人。そして、グリーンフィールド家の財産を狙ったレイチェルの共謀こそが、こたびの原因で間違いない。そのことが会場中に知れ渡る。


「くっ……」


 レイチェルの顔が歪む。


「この世界ならば、財産を目的とした縁談など、よくあること。素直におっしゃれば、それでも構わないとする者もおりましょう。新興の貴族などは箔が足りておりませんから……。もっとも、私は断ったでしょうが」


 ヒューゴの声が会場に落ちる。

 レイチェルはもう何も言えなかった。

 自分の欲が、あばかなくてよいものまでをも明らかにしてしまったのだ。

 ヒューゴが紙を折り畳み、アンネを見やる。次いで、夫人のほうに向きなおった。震える口元がやがて力強い声となって夫人に飛んでいく。


「私はアンネ・マクブラインを愛している! グリーンフィールド家を継ぐのは、この私だ。どう生きるかは自分で決めさせてもらおう!」


 今までは場の混乱で実感がわかなかったのだろう。ようやく、アンネの目にも涙が浮かんでいた。こくりとうなずいた歌姫の姿は、ヒューゴにはわからないはずだ。それでも何度も噛みしめるように、アンネは首を縦に動かしていた。


 関係者が静かにレイチェルの腕に手を添えた。その手を振り払おうとしたレイチェルだったが、力が入らないようで、そのまま連れられていく。


 夫人が衛兵に付き添われてホールを出ていった。

 2人の退場を見送ってから、キャサリンは静かに息をついた。


 ――これで全部ね。


 残ったのは、どこかしんとした空気だ。

 それがよいことなのか悪いことなのか判断しかねて、会場全体が静かに次の言葉を待っていた。

 ピアニストが、誰にも促されることなく、静かに鍵盤に指を乗せた。

 音が流れ出す。

 涙ぐんでいても歌姫は動じない。

 まもなく、アンネが歌いはじめた。

 圧巻の美声。


「――ッ」


 キャサリンが息を飲む。

 アンネの背後に、3対の羽と浮いた輪を持つ存在が見えたような気がしたからだ。目を閉じ、こすってからもう一度視線を向ければ、すでにそこには何の姿もない。


「お嬢様……今のは?」


 エマが驚いたように声をかけて来るが、キャサリンとしてはにわかには信じられなかった。


 ――あれが天使……?


 悪い冗談だろうと、キャサリンは額に冷や汗をかく。

 まもなく、曲が終わった。

 無音の中、ヒューゴが1人で拍手を打ち始める。それに釣られて、周囲からもぽつぽつと手を鳴らす音が聞こえて来た。それはやがて、会場全体に響き渡る大音声となる。


 アンネは驚いた顔をしてから、小さく笑って頭を下げた。

 キャサリンもまた拍手をしながら、小声でエマに耳打ちをした。


「帰りましょうか」

「よろしいのですか? ヒューゴ様とアンネ様に、ひと言もなくて」

「必要ないわ」


 キャサリンが静かに立ち上がる。

 エマも小さくうなずいた。

 2人はそっと会場を後にした。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ