表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
7話 アンネ・マクブライン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/117

79 運命の発表会(3)

「その辺にしてみてはいかがでしょうか? お声の調子が悪うございます。それ以上無理をすれば、ますます喉を痛めますわ」


 夫人が勢いよくキャサリンのほうに顔を向ける。

 発言の主を睨みつけようとしたのだろうが、そこにいる人物がキャサリンであることに気がつくと、忌々しそうに顔を歪ませた。


「キャサリン・エルフェルト……。これはグリーンフィールド家の問題。公爵家の出張る幕じゃないだろうさ」


「家族の問題とおっしゃるならば、せっかくの発表会を私物化するのはお控えくださいな」


 キャサリンは言いながら、会場全体を見渡した。

 レイチェルの行動といい、夫人の行動といい、とてもプライベートな内容とは言えない。そのことに夫人も自覚があるのだろう。表立ってはキャサリンに反駁することができないでいた。


 夫人の視線が、会場全体を値踏みするようにめぐる。

 どうにか言い訳が思いついたのか、夫人の口が開かれるも、言葉が発されるよりも前に動きが止まった。


「……」


 口から、かすれた息だけが漏れる。

 夫人が、自分の喉に手をやった。

 困惑と冷や汗が顔に表れている。


「飲んではいけないものを飲んでしまったのかもしれませんね?」


 夫人がキャサリンを凝視した。

 その目には焦りの色が差している。


「……っ」


 会場がざわめく。


「ちょっと!」


 不自然な沈黙に耐えかねたようで、レイチェルが急かすように夫人に声をかけていた。

 動揺の中で、夫人の手が再び懐へと伸びる。


 ――エマ?


 2つめの小瓶だ。

 訝しんだキャサリンがエマに視線を向ける。

 侍女は小さく首を横に振っていた。


 ――事前に作っておいたものじゃないってことね。


 恐らくは、余った材料で土壇場に予備をこしらえたのだろう。つまり、夫人は喉の調子が悪いのは、単に解毒薬の効きが悪かったと考えているのだ。


 夫人が今、手にしているほうの解毒薬にはダフネ草が混ざっていない。

 本物の毒消しだ。

 使わせてはいけない。

 だからこそ、キャサリンは高笑いして夫人を見下した。


「服用した解毒薬こそが不調の原因だというのに、この上まだ喉を壊そうとされるのですか? あなたはご自分で取り違えたのですよ、毒を混ぜるべき小瓶をね」


 しゃがれた声で夫人が応じる。

 無理やり音を出しているために、その声はひどく聞き取りづらかった。


「ふざけるな! 私は確かに、あの小娘とダフネ草を分けあった。なのに、どうして私だけが――」


 そこまで言ってから、夫人が口を閉じた。

 自分が何を口走ってしまったのか、夫人も気がついたのだろう。

 しかしキャサリンは逃がさない。


「ダフネ草を分けあったとおっしゃいましたね」

「……っ」

「では確認させていただきたいのですが……それはアンネ嬢の喉のためでしたか。それとも、あなた自身のためでしたか」


 夫人の口が開きかけ、閉じた。

 どちらと答えても、自分を追い詰めるだけだ。

 アンネのためだと言えば、夫人に症状が出るはずがない。自分のためだと言えば、アンネと分けあう必要がない。どう答えたところで、アンネにダフネ草を飲ませたことを認めることになってしまう。


「別に、どちらでも構いませんわ」


 キャサリンが静かに続ける。


「いずれにしても、あなたはアンネ嬢にダフネ草を飲ませたことを、ご自身の口でお認めになりました」


 静寂が落ちた。

 エマが書類を手に持ち、前へと進み出る。


「ダフネ草の新芽は乾燥させると無臭になり、外見の似た別のハーブとは区別がつきません。咽喉に対して強い作用を及ぼすものであり、声楽家にとっては天敵にあたります。たとえ微量であっても混入させることは許されません。本日、それをアンネ様に勧めた方がいらっしゃいます」


 エマがそこで言葉を切った。

 続きを言う必要はない。

 だれもが夫人のほうを向いていた。夫人は懐の小瓶を握りしめたまま、一言も発せずにいる。声が出ないのか、出す言葉がないのかは、もはやどちらでもよかった。


「証言ならば、こちらに」


 エマが布包みをそっと開く。

 中には小さな書状が一通。薬草の特定と作用について記した、専門家としての証言だった。


「薬師のリディア・ウルペッカ様の確認を経ております」


 リディアの名前は、すでに新薬の件で王都に知れ渡っている。その言葉の重さを知らない者は、この場にはいないだろう。


 夫人が小瓶を口に運ぼうとした、その瞬間にぴしゃりとキャサリンが告げる。


「それを飲んでも無駄ですわよ。お手元のものは、昨夜のうちにエマが入れ替えてあります」


 夫人の手が、ぴたりと止まった。

 小瓶を握ったまま、顔から色が失われていく。先ほどまであった焦りは、いつの間にか凍りついたような絶望に変わっていた。


 逃げ道がない。

 証言がある。

 自白がある。

 解毒薬が使えないことはキャサリンの出まかせだが、そんなことは夫人にわかるはずがない。

 夫人の膝が、小さく震えていた。


 ――詰みね。


 もはや夫人を見ている必要はない。

 あとは然るべき者が適切な事後処理をするだろう。キャサリンは1人の王子を頭に思い浮かべながら、夫人から視線を外した。


 歯噛みしたレイチェルが、ゆっくりとその場を離れていく。劣勢と悟って、逃げ出すつもりに違いなかった。


「どこへ行くのですか、レイチェル嬢?」


 キャサリンの言葉に、レイチェルが足を止めた。

 今度はキャサリンがヒューゴを見やる。

 自分でけりをつけなさいと伝えたつもりだった。

 うなずいたヒューゴが、レイチェルに近づいていく。その手には、折り畳まれた何枚かの紙が見えた。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ